3話:残る理由
「地球に戻るか、フェストニアで一生を暮らすか、ですか?」
「はい、先程見てもらった通り祐二さんが作ったスキルは文字化けしていますよね?これはまだスキルが祐二さんに定着していないことを表しているんです。定着していない今ならまだ別の世界のルールに干渉している事には成りません。ですから祐二さんには選んでいただきたいんです。スキルが定着する前に地球に戻り、二度と異世界のルールに干渉しないか、もしくは地球に戻る事を諦めて”フェストニアの世界の人間”として一生を過ごすかです。」
「少し、考えさせてください。」
ニスアが突き付けた選択肢に祐二は直ぐに答えることが出来なかった。どちらかを選べば、二度ともう片方とは繋がりが無くなる。これまでフェストニアで過ごしていたことを考えれば躊躇して当然だろう。
「分かりました、ですけど時間がありません。明日の朝には答えを聞かせてもらいます。」
そう言って部屋を出ていくニスア、今日はアシュリーと一緒に王都の宿屋に泊まっていくそうだ。部屋に残っているのは顔を下げて表情が読み取れない祐二だけとなった。
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「・・・・・・・・」
あの後、ミラたちと顔が合わせづらくなった祐二は一旦家を出て、適当な公園のベンチで黄昏ている。彼の頭の中では先程のニスアの言葉がずっとこびり付いている。地球に戻るか、フェストニアで暮らすか。
「どっちを選べば良いんだよ。」
以前、魔族との戦争が終結し、ニスアに同じような質問をされた。その時は”勇者税”で遊び歩いている御剣達が許せず、”勇者税”廃止の為に残る選択を選んだ。
その時は躊躇なく選べたはずなのに、今は迷ってしまっている。
「結局、甘く考えてたのか。」
何故あの時は躊躇なく答えられたか?そう考えた瞬間、あの時の自分は恐らく心の何処かで”いつでも地球に帰れる”と無意識に考えていただろう事に気が付く。
”勇者税”廃止の為に覚悟をして、この世界に残ったというのに結局甘い中途半端な覚悟でフェストニアに残った己に嫌悪感を抱いてしまう。
「でも、もうそんな甘い考えは駄目だ。」
しかし、今度の選択はそんな甘い考えは許されない。どちらか一方を選んだらずっとそちらで暮らすのだ。自分の一生を決める選択肢と言っても過言ではない。
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「って言っても、今止めたら凄い中途半端だよな~。」
覚悟を決め小一時間、結局祐二はフェストニアと地球、どちらを選ぶか答えは出ていなかった。もし彼がただの村人Aだったら、直ぐにどちらかに答えは出ていただろう。
だが、今の彼は大陸全土で指名手配中の”鬼面の男”として”勇者税”廃止の為に動いている。そんな彼の為に力を貸してくれている仲間もいる。なのに今地球に帰ったら彼らを裏切ってしまうのではないか?
その考えが祐二を迷わせていた。
「~~~~~~」
頭を左右に振り、一旦頭の中を空っぽにする。主観的に考えては駄目だ。祐二は客観的にフェストニアから去っていった場合を考える。
まずは”勇者税”廃止と”鬼面の男”兼”錦の御旗”だ。もし今祐二がいなくなったらどうなるか?恐らく第一、第二王女は民衆が勇者に不信感を持っている現状の勢いを衰えさせない為、自分とは別の人間を”錦の御旗”にし、活動を続けていくだろう。ギールやグリードだったら祐二よりも強いし、近衛騎士と騎士団長代理と言う立場は勇者に近づくには好都合だ。
元々仮面を付けて活動していたから、中身が入れ替わっても民衆や勇者にバレる心配はない。つまり今祐二が居なくなっても”錦の御旗”としては何の問題もない。元々彼自身、自分よりも”錦の御旗”として相応しい人間がいるなら、その者に立場を譲ってやるつもりだった。
次に自分の知り合いについて考えていく。嘗てのクラスメイトである勇者達、御剣達のような”勇者税”で遊び歩く奴らを放っておいて地球に帰るのは正直もの凄く腹立たしい、だがこれも自分じゃなくても別の”錦の御旗”が彼らを成敗すれば問題はない。
武岡や太田のような親しい者達とは連絡を取れなくなってしまうが、彼らも何か考えが有って残ったのだろうし、彼らの意思は尊重すべきだ。またニスアに確認したが転移先のルールには干渉していない為、本人が望めば地球に帰れるらしいので一生会えないという訳ではない。地球に居た頃の知り合いに関してはこちらも祐二が地球に帰っても問題はない。
「フーン。」
何だかどんどんフェストニアに留まる理由が消えていき、ショックを受けていく祐二。うなだれていると後ろから誰かが彼の肩を叩く。
”誰だ?”思い振り返ると指で頬を押される。彼の知り合いでこんなことをする知り合いは一人しかいない。
「大和、久しぶり。」
元クラスメイト、現勇者にして犯罪の片棒を担いだ太田智花だ。
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「それじゃ、太田はニスアやアシュリーさんと一緒に王都に来たのか?」
「うん、あの人達も王都にいる大和に会いに行くって言ってたから、同じ馬車に乗って。」
「そうか、、、辛かったな。」
「ん?今どこ見て言った?ん?ん?何が辛かった?ん?ん?ん?」
きっと狭い馬車の中で彼女は自分の薄っぺらな胸とニスアとアシュリーの豊満な胸を見比べて敗北感に打ちひしがれていたのだろう、祐二は思わず涙が出てしまう。
「で、何で王都にいるんだ?確かエアフの街の守護を任されていたはずじゃ?」
「あ~それなんだけど。実は御剣君がね」
そこから語られる最悪な話、勇者でありながらツケを溜めて雑用をやらされるのが嫌で盗賊に身をやつした御剣、そして太田に捕らえれた事、現在王国にて保護されている事を聞いて怒りの感情が祐二の心の奥底から湧き上がる。何処まで自分本位で生きれば気が済むのだあの男は。
「それで、大和は何で落ち込んでたの?」
「ん、嫌別にそんな話す事じゃ。」
「いいから、教えてよ。相談位なら乗るよ。」
グイグイと迫る太田に祐二も本心では誰かに聞いてほしかったのか、ポツリポツリと話し出す。”勇者税”廃止の部分はぼやかすが、自分が地球とフェストニアどちらかを選んで、選ばなかった方に二度といけない事。
今の自分が地球に戻っても、フェストニアで頑張ってきたことには何の影響もない事など、全てを話した。
「え~っと、一つ言いたいことがあるんだけど良いかな?」
祐二の話を全て聞き終えた太田が、顎に人差し指を添えながら呆れ顔で祐二を見つめる。
「それってもう答え出てるよね?」
「は?いやいや、答えが出てないから悩んでるんだぞ。」
「でも大和さっきから、フェストニアに残る理由ばっか探してるよね?それってつまり内心ではフェストニアに残りたいって事でしょ?今大和が悩んでるのは答えが出ないからじゃなくて、フェストニアに残る理由が見つからないから悩んでるんでしょ?」
「!!」
太田の台詞に祐二は驚いてしまう。確かに先程から自分はフェストニアに残る理由ばかりを探して、その理由が見つからないことにショックを受けていた。つまり、自分はフェストニアに残る事を望んでいるのだ。
だとしたら何故自分はフェストニアに残る事を望んでいるのか?”勇者税”廃止や”錦の御旗”以外で何か残りたい理由とは何だ?フェストニアに来てからの記憶を全て思い返し、理由を探る。その結果、
彼の脳裏に一人の女性の笑顔が浮かぶ。
「あ~、そっか~、そう言う事か~。」
「ん?どうしたの大和、急に?」
「いや、こっちの話。ありがとう太田、お陰で俺はどうしたいかがはっきりした。何でフェストニアに残りたいのか、それが今漸く分かったよ。」
「??、まあ悩みが解決したらいいんだけど。」
最初”鬼面の男”として活動をした時、他人に迷惑を掛けないよう人との触れ合いは少なくするべきだと考えていた。
だが、王都に着いてから様々な人と知り合い助けてもらってきた。その中で祐二は無意識の内に彼女にそう言う感情を抱いていたのだろう。
”錦の御旗”として活動している今は、自分の思いを打ち明けることはできないが、それでも自分が地球とフェストニア。どちらに残りたいのかはもうわかった。後はそれをニスアに伝えるのみだ。
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「俺はフェストニアに残ります。」
「もう二度と地球には戻れませんよ?」
「それでも、もう決めたんです。」
強い意志を感じさせる祐二の目を見て”ハァ”とニスアが溜息を吐きながら、祐二のスキルが表示された小さな黒板をなぞっていく。すると文字化けしていたスキルが今度はちゃんと読めるスキルへと変わっていく。
・装填Lv5(アンコモンスキル):銃に次弾のリロードをする際、素早く行える。その速度はレベルに比例する。
「これで祐二さんはフェストニアの人間となりました。これ以降は新しいスキルを作ってしまっても何ら問題はありません。」
「すんません。色々と迷惑かけたみたいで。」
頭を下げる祐二にニスアは”気にしないでください”と声を掛ける。そして部屋の外から様子を伺っていたミラ、アシュリー、クレアの三人が入ってきて朝食となる。
「あ、そうだ祐二さんに伝え忘れてましたけど、私とアシュリーさんもこの家に住みますから。」
「ヘッ!!!」
「僕が提案したんだよ。王都の宿は高いし、よかったらどうぞって。部屋も余ってるし。」
ニスアとアシュリーも一つ屋根の下で暮らす事になり、祐二の思考が停止する。男一人に女四人、今日この日から祐二の理性が試されることに彼は戦慄する。
その後、穏やかに朝食を食べていると玄関のドアが乱暴に開けられ、第二王女が家に入ってくる。王女は肩で息をしており、急いでこの家に向ったことが分かる。
「朝早くから済まない!緊急事態だ!」
「わわ、どうしたの王女様!そんな急いで!」
「これを見てくれ!!」
そう言って一枚のチラシを祐二やミラに見せる第二王女、チラシはまだ真新しく、昨日今日作られた物だろう。
「え~っと、『第二王女近衛騎士選抜大会開催』?」
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