1話:再開そして決別
「何だ、一体何が起こっている?」
深夜、王都から少し離れた場所にある小さな村、そこの領主である貴族は屋敷の自室で恐怖に怯えていた。彼は御剣などの横暴な勇者に媚びを売っている貴族の一人で、村人から徴収した”勇者税”の一部を横領し、私腹を肥やしていた。
罪悪感が無かったわけではない。だが、贅沢と言う物は一度味わうと手放すことが出来ず、気が付いたら、また横領し、勇者に媚びを売って”勇者税”の一部を分けてもらったりしていた。
そんな生活が一年程続き、罪悪感もなくなってきた今日この頃、深夜の屋敷でいきなり襲撃を受けてしまった。
襲撃者は男女二人、どちらも奇妙な仮面で顔を隠し高い金で雇った用心棒や一族に仕えている騎士相手に圧倒している。騎士達の中には戦闘系のレアスキルを持っている者もいるというのに。
襲撃者の強さに怯えた領主は必死に屋敷を逃げ回り、今は自室でお気に入りの娼婦と一番高い金を払った用心棒と一緒に襲撃者が来ないことを祈っている。
「な、なあ奴らは此処に来るのか?どうなんだ!?」
「そりゃあ来るだろ。奴さんの目的は多分アンタなんだから。」
軽口をたたく用心棒に激昂してしまうが、それすらも用心棒は笑い飛ばす。
「安心しなよ。俺はこう見えてもスーパーレアスキルの”上級剣術”持ちなんだから。どんな相手だろうと俺の剣の間合いに入ったら、一瞬で首と胴体がお別れさ。」
そう言って笑っている用心棒に安堵していると扉が蹴破られ、部屋の中に角が二本生えた仮面を被った男女が入ってくる。間違いない襲撃者だ。
「アンタが此処の領主か?」
「な、何なんだ貴様らは、いきなり屋敷を襲撃し追って、死刑だ死刑!おいさっさとコイツを殺せ!・・いや待て、女の方は殺すな!男だけ殺せ!」
襲撃者の内、女の姿を確認した領主は見事な肢体を持っている事に気づき、男の方のみを殺すよう指示する。恐らく女の方は生かして捕らえ、弄ぶつもりなのだろう。
「了解しましたよっと、んじゃかかってきな。」
剣を鞘から抜き構える用心棒に対して、襲撃者の男の方は腰から奇妙な物を引き抜き用心棒にそれを向ける。男が取り出したのは金属で出来た筒で持ち手の部分を木材で補強してある。俗にいう拳銃なのだがそれはこの異世界フェストニアには存在しない物で、貴族には珍妙な武器にしか見えなかった。
一体あれは何なのだろう?そう考えているとその筒から轟音が響き渡る。
ドパンッ!!!
そんな音が部屋に響いた瞬間、用心棒の剣が吹き飛ばされ壁に刺さる。突如発生した謎の現象に用心棒が呆気に取られていると襲撃者はその隙を見逃さず、痺れ毒を塗った矢を右手の籠手に内蔵した連弩で用心棒に向って放つ。
「わざわざそっちの間合いで戦う訳ないだろう。」
呆れた声を出した襲撃者の男は、痺れて動けない用心棒とその頼みの綱の用心棒が倒れて恐怖で動けない領主を無視すると、部屋にある本棚を無理矢理蹴り倒す。
「や、止めろ!!」
「やっぱり、こういう場所に隠してたね。」
本棚の後ろは隠し部屋となっていて、中には袋に包まれた金貨が山ほど入っていた。この部屋は領民から横領した”勇者税”や、勇者から譲り受けた”勇者税”を補完するための隠し部屋だった。
「んじゃ、この金は正しい持ち主に返しておくぞ。」
「国の騎士団に被害を訴えてもいいけど、その場合貴方が”勇者税”を横領していたこともバレちゃうからそこは気を付けてね。下手したら貴族の地位も奪われるかもしれないし、覚悟はしといてね。特に今の騎士団長代理は生真面目だからね。下手に証拠隠滅しようとしたり賄賂を贈ろうとしたりしたら、その場で切り殺されるかもよ?」
そう言って、金貨が入った袋を背負い屋敷を後にする襲撃者達、そんな彼らの姿を見て、部屋の隅で震えていた娼婦は一言呟く。
「鬼面の男?でも片方は女性だった。」
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「王、報告させていただきます。」
「うむ。」
「先日、鬼面の男の被害に遭った貴族の者ですが、騎士団の詳しい調査によりますと”勇者税”を一部横領していたことが判明しました。」
側近である大臣の言葉を聞いて、セイン王国国王は溜息を吐く。”勇者税”を横領していたことにもだが、それを黙認しなかった騎士団にも呆れてしまう。
一部勇者の横暴な態度に国民が不満を高めている中、貴族が”勇者税”を横領している事が知られたら不満が爆発してクーデターが起こるかもしれない。故に黙認してくれたほうが国王という立場を維持するのに都合が良かったのだが、騎士団長代理のグリードはそれが出来ない生真面目な人間であった。
「そうか、ならばその者には厳罰を与えよ。それで勇者達はどうだ?」
「タケオカ等一部の勇者は魔物討伐などで活躍しておりますが、やはり勇者の評判は低迷しております。」
「そうか。」
「何より、まだ公にはされていないですが勇者ミツルギが盗賊行為を行っていたことが一部貴族に知れ渡っています。」
大臣の言葉を聞いて苦い言葉を浮かべる。勇者ミツルギが盗賊行為を働いていた。この事実がもし国民に知られてしまったら、彼らはきっと”勇者税”を納めなくなるだろう。もしそうなったら勇者ミツルギ達は自分達に刃を向けてくるかもしれない。
そう考えると胃が痛くなってくる。何とかして勇者の力を示して、人気を取り戻せるような策を考えなくては。
「あれを行うか、、」
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「遂に俺も鉄級か。」
「フフッ、おめでとうユージ」
「おめでとうございます!主様。」
”勇者税”を横領している貴族を襲撃し、後始末をグリード達の騎士団に押し付けてきた翌日、祐二、ミラ、元貴族の令嬢で現メイドの三人は狩人組合で祐二の狩人としてのランク更新を行ってきた。
今まではレアスキルを持っておらず、ずっと銅級のままだったのだが、この間別の国の貴族のエミからレアスキルのスキルオーブを貰い、レアスキルを取得した結果、遂に祐二も一段上へと昇格できたのだ。
苦節一年半程、今までの苦労が報われた気がして思わず目頭が熱くなってしまう。
「それじゃあ、今晩はお祝いだね!」
「はい!腕によりをかけてご馳走を作ります。」
そんな祐二を祝うため、ミラとメイドの二人は食品などが売っている商業区へと向かっていく。祐二も荷物持ちとして付いていこうと思ったのだが、今日の主役である祐二は大人しくしていて欲しいと二人に言われてしまったので、大人しく帰路に着くこととする。
「しかし、少しづつだけど人が増えたな。」
帰り道、周りの人間を観察しながら歩いているが当初王都に来た時と違って、人が増えておるように感じる。
アルティを介して、鉱山で働いている者達を解放したり、盗んだ”勇者税”を第一王女の協力者と一緒に元の持ち主に返していったりした結果、皆少しづつ生活に余裕が出来ていたのだろう。
アルティに奴隷として買われた者達も人手不足で悩んでいる狩人組合に”派遣”と言う形で雇い入れ、それで得た賃金で自らを購入し、奴隷から解放された者達もいると聞く。いい傾向だ。
その後も街をを歩いていると懐かしい人物と出会う。慎重180cm越えの巨漢、義理と人情に篤い不良にして幼馴染。
「あ、武岡だ。」
「お!大和。」
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「んで、何でこんなところにいんの?」
「俺は騎士団の仕事の手伝いで王都の見回り、つーかそれはこっちの台詞だ。お前指名手配されてんだぞ。」
久しぶりの親友と再会した後、立ち話もあれなので今二人は王都にある喫茶店の店の外に置いてあるテーブルで話し合っていた。
祐二としては最近の勇者の動き、武岡としては彼が無茶をしていないか色々と確認したかった。
「ふーん。勇者はそんな感じか。あ~、それで悪いけど俺の方は何も言えないんだわ。」
「まあ、そうだろうな。でもま、無茶はすんなよ。」
第一、第二王女や他国の貴族が”勇者税”の廃止に動いていることなど明かすわけにはいかない祐二は言葉を濁すが、武岡もそれに納得する。
その後、二人の元に若い女性のウェイトレスが注文を聞きに近づいてきたのだが、
「ご注文はお決まりでしょうか?あら、タケオカさん。また来てくださったんですね。そちらの方はお友達ですか?」
「ああ!ええっと、そうなんすよ!こいつは俺の古いダチでね!王都に慣れてねえらしくて俺が案内してやろうと!あ、注文はいつもので!」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
「いやー!楽しみだなー!」
女性に話しかけられた瞬間、急にテンションが上がり挙動不審になる武岡、彼女が厨房に向いテーブルから見えなくなると息を吐いて祐二の方を見るが、祐二は面白い玩具を見つけたような笑みを浮かべていた。
「へ~、武岡此処の常連だったんだ。」
「お、応。見回りの時に休憩で良く寄るんだ。」
だらだらと脂汗を流す武岡、バレてはいけない秘密が一番バレてはいけない奴に知られてしまった。
「そういや、お前昔からああいう女性がタイプだったよな。」
「ば、ばっか、ちっげーし!そんなんじゃねえから!」
「何言ってんだ。こちとらお前の初恋相手どころか、その初恋がどんな風に終わったのかも知ってんだぞ。」
「ぐぐ。」
「何なら俺が恋のキューピッド役でもやってやろうか?」
明らかに武岡を振り回す気満々の祐二、武岡は恐らく当分の間自分は祐二の暇つぶしの玩具になる事を覚悟した。
「つーか、お前勇者なんだから、普通に告白すればいいんじゃね?玉の輿で断る相手なんて、そうそういないだろ。」
「馬鹿野郎!勇者に色恋沙汰に現を抜かす暇なんてねえんだよ!そう言うお前はどうなんだよ。国民の間じゃ相当人気だぞ。」
「人気なのは俺じゃなくて、”鬼面の男”。それに指名手配犯何だから下手に女性に手を出したら、その人に迷惑が掛かるだろ。」
「はあ、お互い大変だな。」
それから、注文していたコーヒーがテーブルに届けられ、穏やかな時間を過ごしていると、買い物に出かけていたミラとメイドの二人が紙袋を抱えながら、祐二を見つけて近づいてくる。
「あれ、ユージこんなところで何やってるのって、勇者様!」
「ああ、コイツは勇者で俺の古い友達、武岡だ。」
「そ、そうなんですか。ええっと、僕、じゃなかった私はミラと申します。ユージとは同じ家に住んでいる同居人です。」
「私はクレアと申します。主様にメイドとして仕えております。」
いきなり勇者と遭遇したことにミラは慌てているが、元貴族で現在メイドとして働いているクレアは見事な所作で武岡に自己紹介する。ここはやはり生まれの差が出てしまう。
「ぼ、僕っ娘にメイドだと、しかも一緒に暮らしてる、、だと!」
が、武岡としてはそんな事よりも祐二が美少女二人と同じ屋根の下で暮らしていることにショックを受けているらしい。
だが、まだ終わらない。彼ら四人は気づいていなかった、遠くから祐二の姿を見つけた二人の女性が走りながら向っている事を。
「・・・・・ん!」
ドドドドドッ!
「・・・・・さーーーん!」
ドドドドドドッ!
「・・・・・二さーーーん!」
ドドドドドドドッ!
「祐二さーーーん!」
ドドドドドドドドッ!ドンッ!
「ぐはっ!」
何やらもの凄い勢いで誰かとぶつかり、地面に転がり落ちる祐二。何事かと頭をさすりながら顔を上げると、そこには意外な人物がいた。
「ニスアさん。何でこんなとこに!」
「祐二さん。会えてよかったです。王都は本当に広くて迷っちゃいました。」
「もう、ニスアちゃん急に走ったりしたら危ないでしょ。久しぶりユージ君」
ニスアとは少し遅れてやってきたアシュリーが祐二に挨拶をするが、周りの人間は突如現れた女性に困惑している。特に武岡は、
「銀髪に獣耳だと!」
自分がウェイトレスのお姉さんへの恋心と勇者としての責任の板挟みで苦しんでいるのに、祐二はよくわからないが四人の女性と親しくなっている。しかも全員巨乳。先程相手に迷惑が掛かると言っていた癖に何をしているのだ。許せん!別に彼がモテていることにキレているわけではない。そう、自らの立場をわきまえない友人に怒っているのだ。
「ええっと、ユージこの人達誰?」
「ああ、紹介するよ。この人達は、、」
「大和、、」
「ん、どうした武岡?」
ゆらりと祐二の背後に立つ武岡、そんな彼の背後には世の中のモテない男の怨念がス〇ンドとなって彼に力を与えていた。
「テメエとは絶交だ!!」
「ええ!」
男の友情なんてこんなもんです。




