盗賊退治(その2)
「それで、今日はどれくらい商人から奪えた?」
「ええっと、銀貨が9枚、銅貨が34枚ですね。」
「馬鹿野郎!それじゃ全然ツケを払うのに足りないだろ!」
エアフの街にから少し離れた山間部、そこにある洞窟で複数人の男達がたむろし、金を数えている。その中でもリーダー格の男である勇者御剣は、手元にある金が目標金額に遠く届かないことに酷く憤っていた。
「くそ、どいつもこいつも無能なせいで全然金が集まらねえ。」
「まあまあ落ち着いてくださいよ旦那、焦ったらうっかりとんでもないミスをしちまうかもしれやせんし、ゆっくりやりましょうや。」
そんな彼にくたびれた皮鎧を着た男が近づく。口には薄ら笑いを浮かべ、どこか信用できない雰囲気だ。
「しかし、あっしも幸運ですぜ。狩人として終わっていた所にまさかあの勇者様と出会えるなんて、お陰で盗賊として活躍できるようになったんですから。」
「ああ、そうだな。俺もお前が声を掛けてくれなかったらずっと皿洗いの毎日だったぜ。」
そう言って笑いあう二人、この二人は性根が腐った下衆同士故か、初対面で直ぐに気が合い、行動を共にした。
此処は最近エアフの街周辺に現れるようになった盗賊の本拠地、そしてその盗賊の頭目は人々を救う勇者である御剣であった。
始まりは数週間前、エアフの街にある様々な店へのツケを払うために日々雑用をこなしていた御剣に皮鎧を着た男が声を掛けたところから始まった。
皮鎧の男の名前はダスト、元は王都に存在していたとある犯罪集団のメンバーだったのだが、王国の騎士団による強制捜査で解散し、命からがらエアフの街まで逃げて狩人として暮らしていた。
しかし、元々他人の不幸を喜んだり、平気で不正を行う性格から狩人組合では嫌われ者でずっと銅級のまま落ちぶれてた、そんなときダストは自分と同じように周りに不満を持つ御剣を発見し、彼を利用して一儲けしようと企み、ツケをさっさと返却したい御剣もあっさりと彼の計画に賛同してしまう。
その計画とは単純に”盗賊として商人から金を盗み、その金でツケを返済する”という、最早計画とすらも言えない物だった。
こうして彼らは、嘗て御剣に仕えていた部下を使って商人を襲わせ、自分達は洞窟でその金を受け取りツケを返済、残った金で繁華街で遊ぶ毎日を過ごしていた。
きっと今の御剣を見ても誰も勇者とは思わないだろう。
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「ボス、ただ今帰りました!」
御剣がまったく金が集まらないことを部下に八つ当たりしていると、洞窟の入り口から部下が帰ってくる。
確かあの部下達には、エアフの街から少し離れたところにある集落との道の間に潜んで商人を襲いっ用命じたはずだ。帰ってきたという事は何かしら進展があったのだろう。
「おう、お前達ちゃんと商人から金は奪ってきたんだろうな。」
「そ、それが商人には出会えず、金も手に入らなかったんです。」
「何!じゃあ何で帰ってきてんだよ!」
「ま、待ってください!代わりにいい者を連れてきたんです。」
金を奪えなかった部下に御剣が激昂すると、慌てて部下が自分達の後ろから荒縄で縛られた女性二人を差し出す。
一人は獣人の女性で、縄で縛られたことによって強調された豊満な胸やくびれた腰によって酷く性欲を掻き立てる。
もう片方は金髪の少女で、獣人の女性と違い体に凹凸が無く御剣としてはあまりそそらない。
「じ、実はこの女達はエアフの街に野菜を卸そうとしていた奴らでして、ミツルギ様もずっとこんな洞窟暮らしで溜まっているでしょう、それでこいつ等を攫ってきたんですよ。」
「へえ。」
先程までは怒っていたのだが、部下が自分の為に女を攫ってきたことを知った途端、上機嫌になっていく御剣。金髪の女はどうでもいいが、獣人の女は見た事もないほどの巨乳だ。いったいどれほどの質量を持っているのか、どれほどの柔らかさなのか?直接触って確かめたくなる。
「しょうがねえな。特別にお前らは許してやるよ。んじゃ、獣人の女お前こっち来い。あ、金髪の女は要らねえ。俺貧乳に興味ねえし。」
御剣の台詞に金髪の少女は少しカチンと来たが、此処は耐える。まだその時ではない。
「え~ミツルギさん、まさか一人で楽しむつもりっすか?俺達も混ぜてくださいよ。」
「ああ、嫌だよ!お前らは、そこの金髪の女で我慢してろ!」
御剣が早速楽しもうとするところに他の部下も混ざろうとするが、こんな極上の女は一人で楽しむに限ると考えている御剣は、金髪の少女を部下にあてがう。
「えー、こんな山も谷もない女で遊んでもなー。」
「だよなあ、どうやって楽しめっていうんだよ。」
「まあまあ、今はこの女で我慢しましょうや、旦那もあの獣人の女でひとしきり遊んだ後はお零れをくれるかもしれやせんぜ。」
金髪の少女をあてがわれたダストを始めとする御剣の部下達がどんどん不満を吐いていく。そんな失礼極まりない態度にとうとう金髪の少女も我慢が限界だっった。
「どいつもこいつも、馬鹿にしやがって、乳がデカかったら偉いのか?乳が無かったら悪いのか、、あんな脂肪の塊、、、地球に居た頃も馬鹿にしやがって。」
「ん?おいどうした貧乳女?」
急にプルプルと震えだし、俯いてブツブツと何かを言い始めた金髪の少女に部下たちが声を掛けるが少女は聞こえていないのか、ひたすらブツブツ言っている。
「挙句の果てにちょっと見栄を張ってパッドで胸を盛ったら、疑似太〇炉やら偽乳特盛隊やらへんな渾名を付けやがって、、男なんて男なんて、、、乳がデカけりゃいいのか、、」
「お、おいアンタ・・・」
「ヤローー!ぶっ殺してやるーーーーーー!!!!!!」
ブチブチと荒縄を引きちぎり、金髪を逆立て立ち上がる少女、その姿はまるで怒りで限界を超えた超サ〇ヤ人だった。
「え、ええええええ!!!」
「キシャーーーーーー!!!」
奇声を挙げ、金髪のカツラを盗賊に投げつけながら殴りかかる勇者の一人、太田智花。そんな彼女の暴走により洞窟内は大混乱となる。
「ちょ、ちょっとトモカちゃん落ち着いて!」
「ああ!乳を突いて!そんな無駄肉もぎ取ってやる!!」
「そんなこと言ってないから!!」
囮捜査で智花と一緒に盗賊団のアジトに潜り込んだアシュリーが必死に彼女を押さえつけようとするが、智花は聞く耳持たずひたすら暴れ続けた。
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「ええと、これは一体?」
「グルルルルルルル!」
「どうどう。」
洞窟の入り口で、自身に仕える騎士達を待機させていたエアフの街の領主は、顔が殴られパンパンに腫れている盗賊団と獣のようなうめき声を挙げる智花を見て困惑していた。
本来の計画であれば、囮として太田智花と彼女の護衛を申し出たアシュリーが盗賊のアジトに人質として連れていかれ、智花のスキルで盗賊団のスキルを封印し、騎士団を送り込むことで一網打尽にするはずが、何故か智花が一人で盗賊団を討伐してしまった。
一体何があったのだろうか、そして盗賊団がひたすら「貧乳怖い、貧乳怖い」と叫んでいる。本当に一体何があったのだろうか?
「しかし、まさか本当に勇者が盗賊団の頭目だったとは、、」
薄々感づいていたが、この目で実際に見るとショックが隠せない。いくら人格に問題があるとはいえ人として最低限の良識はあると信じていたのだが、どうやらそれは間違いだったらしい。
「それでは、この元勇者ミツルギは責任をもって王都に送り返させていただきます。しかし、本当に助かりました。何とお礼を申し上げて良いのやら。」
「感謝するなら、乳をくれっ!!!」
「ええ、、」
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「ただいまニスアちゃん。」
「あ、お帰りなさいアシュリーさん。」
領主の館でアシュリーの帰りを待っていたニスアが、彼女が無事に帰ってきたことに喜びを露にする。
盗賊を捕まえてから数日、領主に協力を頼まれて準備やらなにやらで慌しかったが、無事に終わり何よりだ
「それで、盗賊はどうなったんですか?」
「うん、やっぱり勇者が率いていた盗賊で、一旦トモカちゃんが王都まで連行して行ってから、またこの街の守護に戻ってくるって。」
「そうなんですか・・・王都に」
アシュリーの言葉を聞き、何かを考えるニスア。そして何度が頷くとアシュリーに向ってある話をする。
「あのアシュリーさん、実は私も王都に行こうって考えてて、それに同行したいんです。」
「ええ!どうして!」
「ユージさんに会うためです!一度はユージさんを信じて見守ろうと考えたんですけど、この間主神、、、じゃなかった。叔父からある連絡があってそれをユージさんに伝えないといけないんです!だから私は王都にいってユージさんに会いに行きます!」
「そっか、じゃあアタシもついていくよ。ニスアちゃん一人じゃ心配だし。」
「えええ!」
ニスアの瞳を見つめ彼女も何かしたらの覚悟があると察したアシュリーは自分も同行することを決める。ニスアは驚いているが、アシュリーにとってニスアは可愛い姪っ子のような者。一人で行かせるわけにもいかないのだ。
こうして、智花、ニスア、アシュリーと祐二の正体と活動を知っている三人の女性が王都に向い、祐二と出会うのだが、その先で何が起こるのかは誰も知らない。
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