4話:ようこそフェストニアへ
今回は、サクサク進めたので二話連続で更新します。今回の話で新たなヒロイン(未亡人)が増えます。
「ウワアアアアアッッッ!!!!」
体を光が包んだかと思うと、いきなり見知らぬ森の上空に祐二はいた。訳が分からないがこのままだと地面に激突することだけは分かる。”この人だけは守る!”と自分に抱き着いているニスアを強く抱きしめる。転移直後よりも密着しているが、今はそんなことを気にしている余裕はない。ただひたすら”即死だけはしませんように!”と祈る。
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アシュリーにとって祠へのお供え物は、日課だった。この集落で信仰されている”豊穣の神ニスア”、グレーリア大陸で信仰されている神”英知の神トラル”、ランセ大陸で信仰されている神”勇気の神シェン”、シャーフ大陸で信仰されている神”節制の神ジゲン”の三神に比べれば、知名度は圧倒的に低い。というよりこの集落でしか信仰されていない。それでも自分たちに恵みを与えてくれる立派な神には違いない。その感謝を込めて彼女は、毎日祠へお供え物をしているのだ。
「そういえば、そろそろニスアちゃんが来る日だ。」
集落にたまに来る。女神と同じ名前をした女の子、”豊作”のスキルを持ち、畑を耕すのを手伝ってくれる子だ。彼女のおかげで不作を乗り越えたこともあり、集落の人の中には”本物の女神ニスアが降りてきた!”と言っている人たちもいる。
もっともアシュリーにとっては、彼女が本物の女神ニスアかどうかは関係ない。彼女は自分達の為に力を貸してくれる出来の良い女の子なのだ。
「ニスアちゃんが来るなら、あの子の好物のシチューの用意をしないとね♪」
集落にニスアが来るとき、彼女が一晩お世話になるのがアシュリーの家なのだ。とある事情により、一人で住むには広すぎる家に住むアシュリーにとって、ニスアは寂しさを埋めてくれる嬉しい来客なのだ。
また、彼女は誰かの世話を焼きたいという母性の強い性格だ。ニスアはそういった意味でもどこか抜けているので彼女の性格に合致している。
鼻歌を歌いながら祠を後にするアシュリー、いま彼女の頭の中では、ニスアにどんなおもてなしをしようか、シチューの具材は何にしようかとニスアの世話をすることしか頭にない。
だからだろう、普段の彼女なら上空から聞こえる叫び声に気づき行動を起こすはずだが、今回は何も反応できなかった。
祠を後にし、集落へと向きを変えた瞬間、後ろで木の枝が幾つも折れる音がし、何かが祠の近くに落ちる音がしたのだ。鈍い音からして石や鉄などの鉱物ではなく、生き物だろう。
突如、発生した異常事態にアシュリーはすぐに振り返る。視線の先には想像通り生き物、それも二人の人間だ。二人は男女で抱き合っている。
女性は男性にしがみつくように、男性は落下の衝撃から女性を守るようにして抱いている。男性側の怪我のほうが酷いようだが女性も怪我をしているだろう。アシュリーは、彼らに応急処置を行うべく近づき体を確認する。
「って!ニスアちゃんじゃない!なんで空から落ちてきてるの。ってそんなこと気にしている場合じゃないか!」
「男の子の君も大丈夫?応急処置済ませたら、すぐに集落の人呼んできて医者に連れてってもらうから、それまで死んじゃダメだよ。骨折とかあってもお姉さんが治るまでお世話してあげるから絶対に死んじゃダメだよ!」
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今、祐二は至福の気分を味わっている。先ほどまで上空数十メートルから落下して全身の節々が痛かったはずなのに、今は昼食後の昼寝よりも心地の良い睡魔に誘われているのだ。後頭部に当たる柔らかな感触、どこからか聞こえる子守唄、この二つが相まって覚醒しかけていた祐二の意識を再び眠りへと誘う。
「どこか痛むところはない?痛かったから言ってね。摩ってあげるから。あっ、それとも水タオルが欲しい?」
「って、どなた!?」
見知らぬ女性の声により、祐二の意識は覚醒する。体を起こそうとするが全身に激痛が走り、起こせない。声がした位置から、自分は件の女性に膝枕をされているらしい。なら、せめて顔を見ようと首を動かしたが無理だった。首が痛くて動かせないというわけではない、十分我慢できる痛みだ。それでも顔がわからなかったのは、単純に顔が隠れていて見えなかったのだ。
そう、彼女の顔は、彼女自身の胸に隠れて見えなかったのだ。ニスアも巨乳の部類に入るが彼女はさらにその上、爆乳の部類だ。祐二が今までの人生で出会ってきた女性の中で、間違いなく一番胸が大きい女性だろう。ちなみに二位はニスアである。
「こーら、急に動いたりしないの。骨折はしなかったけど全身打撲してるんだから。ゆっくり動いて。」
「す、すいません。ところで此処はどこで、貴方はどなたですか?」
彼女に言われた通り、ゆっくりと上半身を上げる祐二。周りの景色を見る限り、ここは誰かの家で自分はそこにあるベッドで寝ていたのだろう。そして女性もベッドに乗り自分に膝枕をしていたのだろう。よく見ると端っこに瞼を赤く腫らしたニスアが寝ている。
「ごめんね。名乗るのが遅れちゃってたね。アタシはアシュリー、この集落で猟師をやっているんだ。祠へのお供え物を終えた後、君たちが空から落ちてきて怪我をしていたから急いで医者の元まで連れてきたんだ。ちなみに此処はアタシの家ね。」
「そうなんすか。助けていただきありがとうございます。俺は祐二と言います。ここから凄く遠い場所の生まれでちょっとした事故でここに来ました。」
互いに自己紹介し、向き合う。アシュリーと名乗った女性は可愛いといった顔立ちのニスアとは異なり、綺麗といった顔立ちの女性でニスアとはまた別方向で10人中10人が美人と認める女性だ。若干ツリ目気味の目尻も綺麗という印象を彼女に与える。
体型に関しては、胸は先ほどの通りで胸に対して腰は細く尻と合わせて見事なくびれのラインを作っている。年齢は20代前半だろうか、少なくとも15歳の祐二よりは年上で”優しいお姉さん”という印象だ。
そして何より特徴的なのは、彼女の頭部と腰部に犬のような耳と尻尾があることだ。腰まで伸びた髪に隠れているように見えながら、チョコンと存在感を出している犬耳、茶色が若干混じった黒髪と同じ色の尻尾、恐らく彼女がニスアが言っていた獣人族なのだろう。
「そうだ!神っじゃなかった。ニスアさんは大丈夫なんすか?俺と一緒に落ちてきたって言ってましたけど。」
慌てて、ベッドの端で寝ているニスアを確認する祐二、一応自分が抱きかかえるようにして落下したがどこか怪我でもしていないか心配になる。
「ニスアちゃんなら大丈夫、怪我一つないよ。君よりも先に目が覚めて、泣きながら君のことを心配してたよ。それで泣き疲れちゃって今は眠ってる。」
「そっ、そうですか。」
「ニスアちゃんが怪我をしなかったのは、君が庇ったからだよ。誰かを守るために身を呈するってのは中々できないことだよ。エライエライ♪」
祐二の咄嗟の行動を褒めながら頭を撫でてくるアシュリー、動きに合わせて胸が揺れるのだがそれよりも子供扱いされていることに羞恥を覚えてしまう祐二。
「それで、何があって君は空から落ちてきたの?これからどうする?取り敢えず怪我が治るまでは、アタシがお世話するけど、怪我が治った後は故郷に帰る?それとも旅の途中だったりした?」
アシュリーからの質問に口を閉じてしまう祐二、正直どこから説明してよいのかわからない。自分が地球という世界から来た事、世界を救うはずがショボいスキルしかないため諦めたこと、など説明しても信じてもらえないかもしれない。
祐二が困惑していると「う~ん」ニスアが呟きながら、目を覚ます。そして祐二を見て顔を輝かせる。
「祐二さん。目を覚ましたんですねっ!よかったです。二人同時の転移なんて初めてだから私、転移座標失敗しちゃって、迷惑ばかり掛けて本当ダメダメですね私。でも、無事でよかったです~。」
感動のあまり抱き着くニスア、全身に激痛が走り「グアアアアッ」と叫ぶ。だが彼女はそんなことお構いなしに強く抱きしめる。
天国の柔らかさと地獄の激痛、両方を味わえる抱擁から数分立った後、ニスアがアシュリーに事情を話す。
「つまり、ユージ君は故郷で無実の罪を着せられて逃げていた途中で、ニスアちゃんと出会って一緒に旅をしていたと。」
「はい、それで一緒に正体を隠しながら各地を転々とし、この集落に向っていたところソニックファルコンに襲われてそのまま空高く持ち上げられて、地面に落とされてしまったんです。」
ニスアの説明によると、どうやら祐二は故郷で無実の罪を着せられた悲劇の人らしく。そして命尽きる寸前でニスアに救われ、一緒に旅をしていた。ということになっている。因みにソニックファルコンとはフェストニアに存在する魔物で、”音速飛行”という音速で飛べるスキルを持っているらしい。
「それで、今回この集落に来たのは、重大なお願いがあったからなんです!それでできれば長ともお話をしたいんです。」
「長を呼ぶのは構わないけど、重大なお願いって?」
「はい、それは祐二さんをこの集落に住まわせていただけませんか?」
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「別に、構わんよ。」
「そんな、あっさりでいいんすか?」
あの後、集落の長を呼んできてもらい、再度事情を話し頼み込んだのだが二つ返事で了承を貰ってしまった。
「この集落は豊かじゃし、一人増えたところで何も問題はない。それに今年は豊作すぎて収穫量に対して消費が追い付かんのじゃ、売るにしても買ってもらわなきゃ腐らせてしまうしの、むしろこっちから是非とも住んでほしいといった所かの。」
長の説明を聞き、安堵する祐二。正直苦い顔をされると覚悟していたのだが、そんなことはなく、笑顔で祐二の移住を受け入れてくれた。”気のいい人達”というニスアの説明通りいい人達だ。
「じゃが、集落で暮らす以上きちんと働いてもらうぞ。お主なにか得意なことはあるか。」
「それでしたら、祐二さんには猟師がむいていると思います。猟師向きのスキルを持っているので、鍛えたら一流の猟師になります。」
長からの質問に答えるニスア。祐二は正直”今は何もできません”と答えるつもりだったが、ニスアからのフォローにより何とか働き口を見つけることには成功したようだ。
「となると後は住む場所じゃな。今は空き家など集落にないし、宿も旅人の為に用意したもので長期間住むのには向いておらん。」
「それだったら、アタシの家に住みなよ。ユージ君。」
提供する場所について、意外なところからオファーがあった。何とアシュリーが自分の家に住まないかと誘っているのだ。
「アタシの家だったら広いし、部屋も沢山ある。それにユージ君が猟師に向いているんだったら、アタシが直接教えてあげられるし、手間もかからないよ。」
「でっ、でも俺男ですよ?」
「ん?男だから誰にも頼らず生きていきたいってこと。ダーメ、自立しようって心は立派だけど、困ったときは素直に誰かを頼らなくちゃ。」
祐二が戸惑っている理由は、自立どうこうではなく男女が一つ屋根の下で暮らすことなのだが、今この場でそれを気にしている人は祐二以外にいない。
どう反論していいか祐二が困っているうちに話が決定した。
・祐二は猟師として働くこと。
・アシュリーの家で暮らすこと
この二つは、もう決定事項で変えることは無理らしい。今後どうなるかは祐二の努力と自制心の結果次第だ。
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「うん♪、よく似合ってる。死んだ旦那の服だけど、サイズが合ってよかったよ。」
長との話し合いが終わり、あのまま夕食となり食事を終えた後、アシュリーからボロボロになっていた制服の代わりに服を渡されそれに着替えたのだ。
「結婚してたんすか?」
「うん、見合い結婚でね。といっても一緒に暮らしたのは半年くらいで、その後魔物に殺されちゃったんだけどね。」
「す、すみません。嫌なこと思い出させたみたいで。」
思わず聞き返してしまった後、デリカシーの無いことを聞いてしまったと祐二は顔を曇らせる。そんな祐二の様子に気づいたのか、慌てて彼女はフォローに入る。
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。もう十年近く前だし、アタシも吹っ切れてるよ。」
「ん?十年前、すいませんアシュリーさんっておいくつ何ですか?」
「今年で28だよ。」
アシュリーの返答に祐二は目を見開く、アシュリーはどう見ても20代前半の女性にしか見えず、とても28歳には見えないのだ。
「獣人族は、20歳で成長が止まるからから分かりづらいでしょ。実際、獣人族同士でもお互いの年齢がわからないんだ。亡くなった旦那も同い年かと思ったら、当時もう80歳だったし。」
「はっ!80歳!」
ニスアがフェストニアについて説明した際、獣人族は成長が止まると言っていたが、まさか本当だったとは”これが異世界”祐二は自分が異世界に来たと改めて実感した。
「年のせいか、アタシのことを娘に思っていたのか分からないけど、旦那は子供も諦めててアタシには指一本触れず、口づけや交尾もしなかったね。」
「こ、交尾」
アシュリーから若干恥ずかしい言葉が聞こえ、祐二は反応に困る。思春期真っただ中の祐二にとって美人の女性と一つ屋根の下で暮らす状況は、天国でもあり地獄でもあるのだ。
「だから、ユージ君が来てくれてよかったよ。今まで広い家でずっと寂しかったから。」
もっとも、アシュリーからしたらそんなことはお構いなし。静かな我が家に新しい同居人が増えたことを素直に喜んでいる。
そんなアシュリーの純粋さに自分が恥ずかしくなっていた祐二に、アシュリーが手招きをして”こっちにこい”と言っている。祐二がそれに応じて近づくといきなり胸に顔を抱き寄せられた。ニスアに抱き着かれたときも凄い感触だったが、こちらはもっとすごい。祐二が柔らかな感触に戸惑っていると耳元でアシュリーが呟く。
「今まで、辛かったね。無実の罪を着せられて追われる身になって、大丈夫ここには君を糾弾する人なんていない。ずっと逃げ回って疲れたよね。今日はアタシが思う存分甘やかしてあげる。」
どうやら彼女は、ニスアの作り話を信じ祐二を慰めようとしているらしい。祐二からしたらそんな作り話を信じ慰めてくれる彼女に申し訳ない気持ちがあるのだが、アシュリーはそんなことお構いなしに祐二を抱き寄せる。
「な~に、やってるんですか、二人とも」
祐二の背後で殺気が籠った声がする。アシュリーの胸に抱き寄せられているので顔は見えないが、恐らくニスアだろう。顔は見えないが、見えなくて正解だったかもしれない。なぜならニスアは今般若のごとき顔をしているのだ。
「ニスアちゃん。お風呂どうだった。ぬるくなかった?」
「いえ、とてもいい湯加減でした。そんなことより、この状況は何ですか?」
「辛い思いをしたユージ君を甘やかしてあげようと思って、そういえばニスアちゃんも一緒に逃げてたんだよね。おいで一緒に甘やかしてあげる。」
ニスアの怒りもなんのその、祐二と一緒にニスアも胸に抱き寄せるアシュリー。彼女の母性の強さの前には、女神の嫉妬も敵わない。
「今日は、三人一緒に寝よっか?子守唄歌ってあげる。それとも膝枕のほうがいい?」
「膝枕でどうやって三人一緒に寝るんですか?」
アシュリーの提案に突っ込みを入れるニスア。とりあえず祐二の異世界生活は自制心を鍛えるところから始まりそうだ。