盗賊退治(その1)
今回は二章で出てこなかったヒロインがメインとなります
この間遂に2000ユニークPVを突破しました!
この作品を呼んでくれた皆さん!ありがとうございます!
「おら!しっかり働け!皿に汚れが残ってんぞ!」
「ぐぐぐ、くそっ何で俺がこんな目に」
観光都市エアフにある飲食店で昼過ぎの忙しい時間帯に、店主が作業が遅い皿洗いを叱り飛ばす。一方の皿洗いは不満を垂れながらも黙々と作業を繰り返す。
もし此処に王都で政治に関わっている者がいれば驚いたことだろう。何せ皿洗いをしているのが異世界から世界を救うために召喚された勇者の一人である御剣本人なのだから。
「俺は勇者だぞ、なのに何でバイトみたいなマネをしなくちゃいけないんだ。」
何故、御剣が皿洗いをしているかと言うと簡単に言えばツケが払えないからだ。異世界に勇者として召喚され調子に乗っていた御剣はあらゆる店で支払いをしてこなかったのだが、つい最近謎の仮面を被った男に襲われ武器や金を奪われてしまった。
その結果自分の強さの要であるスキルが使えず、彼の横暴な態度に不満を溜めていたものが一気に支払いを求めてきた。
本来なら莫大な”勇者税”を使えば何ら問題はなかったのだが、それは仮面の男に盗まれ、領主も盗まれたのは勇者の責任という事で追加の”勇者税”をくれず、無一文になってしまった御剣は今までの支払い分タダでこき使われることとなってしまった。
「毎日毎日朝早くたたき起こされて皿洗いと掃除、何でこんな目に合わなくちゃいけないんだ。」
正直、誰が見ても御剣の自業自得なのだが、元々甘ったれた人間である彼は自分が悪いとは欠片も考えていなかった。
「どうにかして、楽に大金を手に入れなきゃな、、」
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「アシュリーさん、本当にバンさん達の護衛は必要なかったんですか?」
「うん、バンさんは奥さんが病気で今は大変だし、傍に居させてあげないと、それに魔物や獣除けの香水をしてきたから大丈夫だよ。」
嘗て祐二が暮らしていた集落からエアフの街までの道のりを進む馬車の中で、作物の納品に向っているアシュリーとニスアはのんびりと話している。
いつもならば魔獣や獣対策に護衛が二人位付いてくるのだが、今回は護衛を行うバンの奥さんが病気に罹ってしまい、その看病に付き添わせたいという事で護衛は無しになっている。
勿論、その分彼女達も気を付けており、体に人間には殆どわからないが魔獣や獣が嫌う香水をして、煙玉や一瞬で火が付く松明など備えは万全だ。
盗賊などが現れた場合は逃げる以外はどうしようもないのだが、金を持っている商人とは異なり余り人が通らないこの山道では盗賊は出てこないだろう。
「それにしても祐二さんがいなくなって、もう二週間ですか。早いですね。」
「そうだね、多分今頃は王都にいるんだろうけど何やってるのかな。」
暇を持て余すように会話をしていくのだが、その内容はどうしても祐二のことになってしまう。勇者に喧嘩を売り、強盗を仕掛けた祐二。国から指名手配されている彼の事がどうしても心配になってしまう。
「まあ、捕まったって話は聞かないですから、大丈夫なんでしょうけど、、」
「ユージ君、割とムッツリだから王都の歓楽街で悪い女の人に騙されないか心配だね。」
「ですよねー。」
祐二と一緒に暮らしていた際、アシュリーとニスアは彼が時々風呂上がりの自分達をチラ見していたり、対面して話をする際に偶に視線が胸の方に寄っている事を知っていた。
大和祐二16歳、そういった事には興味津々なのである。しかしそれを必死に隠そうとする彼が面白くてアシュリーやニスア、ミラはからかってしまうのだが。
「う~ん、でもユージ君ムッツリの癖にヘタレだから迫られたら逃げちゃいそうだけどね。」
「ですよね~。」
その後も他愛ない話を続けていくと、馬車の中で寝息が聞こえる。どうやらニスアは疲れて眠ってしまったらしい、そんな彼女に気遣いアシュリーは馬をゆっくりと走らせた。
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それから日も沈んできたので、馬を一旦止めて野営の準備を開始しようとするが馬の様子が何処かおかしい、落ち着きがなく今にも暴れ出しそうな様子だ。
「どうしたの?落ち着いて、どうどう。」
馬を落ち着かせようとするが、馬は粗ぶったまま止まらない。幸いニスアがまだ眠ったままなのが救いだ。
そして馬を落ち着かせようと試行錯誤する事数分、アシュリーの目の前に身なりを整えた複数人の男が武器を構えながら現れる。
「貴方達誰?服装はきれいだけど、武器を構えてるって事は盗賊?」
「だ、黙れ、良いか!大人しくしろ!お、俺達はこのあたり一帯を縄張りにしている盗賊だ!か、金を寄越せ、お、大人しくしてたら危害は加えない!」
盗賊たちは武器を構えて、さも凶悪そうに言うが、声は震えて構えている剣も震えてしまっている。正直怖さなど全くない。
また、このあたり一帯を縄張りにしていると言っていたが、ついこの間までこの付近には盗賊などおらず、また彼らの服装が小綺麗なのを見るに昨日今日にできた盗賊団なのだろう。
「悪いけど、お金は無いよ。この馬車にあるのは野菜だけ、だから帰ってくれるかな?」
彼らを全く恐れていない態度でアシュリーは彼らの要求を突っぱねる。本当のことを言えば多少の路銀はあるのだが、こんな奴らに渡すつもりは全くない。
「お、おい、どうするよ金が無いって、それじゃ俺ら戻っても勇者に怒られるだけじゃねえか!盗賊何てやりたくもないことやってんのに!」
「馬鹿、何名前出してんだ!バレたら俺達も王国騎士団を追放処分されるかもしれねえんだぞ!」
アシュリーの返答に困ったように盗賊たちが言い争う。早口であまり聞き取れなかったが彼らにも何かしらの事情があるらしい、かと言って金を渡す気はないのだが。
その後も盗賊たちは言い争っていたのだが、やがてアシュリーと荷台で寝ているニスアに目を付けると厭らしい目つきで新たな要求をしてくる。
「だ、だったら、お前らだ!」
「は?」
「ウ、ウチのボスは女好きでな!か、金が無いんだったら体で払ってもらうぞ!い、言っておくけどな逆らったらどうなるかわからないぞ!」
アシュリーとニスアは容姿、スタイル共に最上級と言っていい女性であり、盗賊団は女好きのボスの機嫌を損ねない為、彼女達自身を差し出す方向に決めたらしい。また、上手くいけば自分達もお零れで彼女達を抱けるかもしれないと期待しているのか、下卑た笑みを浮かべている。
「ふーん、そっか、そうなんだ。」
嘗て一緒に暮らした祐二とは違う、その薄汚い欲望を隠さない盗賊たちの態度にアシュリーはゴミを見るような目つきを向ける。
「ユージ君やニスアちゃんには見せたくなかったけど、盗賊相手なら仕方ないか。ニスアちゃんは、、、まだ寝てるね。」
そう言うとアシュリーは唐突に服を脱ぎ始める。上半身の服とスカートを地面に投げ捨て下着姿になると盗賊と対峙する。
一方の盗賊は露になったアシュリーの肉体に目が釘付けになり、全く動かない。
「このスキルを使うとね、服がどうしても破けちゃうから、下着はまあ仕方ないか、それじゃあ死なないように手加減するね。出来るかどうかわからないけど。
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「ふわあ~~あ、あれもう夕方ですか?」
「ふふ、大分疲れてたんだねニスアちゃん。」
漸く眠りから覚め、荷台から降りると野営の準備を進めているアシュリーを手伝うニスア、荷物を運んでいると荷台の陰に複数人の男達がパンツ一丁で縛り上げられているのを確認して、驚きの余り声を挙げる。
「うわ、何ですかこの人達、何か凄いボコボコにされてますけど!」
「あはは、実は途中で盗賊とばったり遭遇しちゃってね。でも何か勝手に自滅したから縛っておいたんだ。明日エアフの街に付いたら領主さんに引き渡そう。」
その後、夕食を食べ湯あみをし、眠りに就く。獣除けの為に焚火は付けたままだ。寝ている間に盗賊が逃げてしまわないか心配だったが、盗賊たちは何故か酷く怯えており、馬車の底に括り付けたため逃げる心配はないだろう。
この時ニスアは盗賊たちの体にまるで爪や牙で肉を抉られたような傷跡がある事、アシュリーが天幕の一部を破いて下着代わりにサラシや褌として体に巻いていたことに気付いてはいなかった。
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「どうですか、勇者様。我が領地の新しい名物、”鬼面饅頭”のお味は?」
「美味しいですけど、良いんですかコレ?指名手配犯の顔を模したとか。」
エアフの街の領主の館で街の守護を任された勇者の一人である太田智花は、街の新たな名物と言う”鬼面饅頭”の感想を聞かれて困っていた。確かに味は申し分ないのだが、よりにもよって国から指名手配を受けている人間をモチーフとした事には呆れてしまう。確かに民衆からのウケは良いだろうが、もし国王の耳にこの菓子の存在が知られたら処刑されるのではないか?ある意味商魂逞しいともいえるかもしれない。
「それでこちらが本題なのですが、、」
「行方不明なった勇者の捜索と盗賊退治ですよね。」
智花が今日、領主の館に来たのは別に新たな名物の試食に来たわけではない、彼女が今日ここに呼ばれた理由、それは行方不明となった御剣の捜索と急に現れた盗賊退治の為だ。
エアフの街の守護はローテーション制で、智花が来たのなら御剣は王都に帰ってもいいのだがツケが貯まっていたせいで払い終わるまでは帰れなくなり、智花も御剣の行動に目を光らせることが出来たのだが、ある日御剣が泊っている宿からいなくなり同時に彼に従っていた騎士達も行方不明となってしまったのだ。
いくらクズでも勇者は勇者、捜さなければならないのだが同時にエアフの街の周辺で商人や旅人を襲い金銭を要求する盗賊が出るという報告が挙がってきた。
ツケが貯まっている勇者の行方不明と同時に現れた金銭を強奪する盗賊、既に領主と智花はこの二つの事件の真相に気付いていたのだが、確実な証拠がないため口には出さない。
「はい、それで今朝、この街に野菜を卸している集落の者から盗賊の一味を捕まえたと連絡がありましてね。」
「本当!それでその盗賊は、、」
「確認した所、残念ながら嘗てミツルギの配下だった騎士の一部のようです。」
領主の言葉を聞いて、溜息を吐いてしまう。間違いない御剣はツケを払うためにタダ働きをするのが嫌で配下の騎士を使って盗賊として金を盗んでいるのだ。今までツケにしてきた自分が悪いのに。
「今から、その盗賊を捕まえてきた者達を呼んできますね。」
領主が使用人に命じて、盗賊を捕まえてきた者達を呼んでくる。数分後扉がノックされ二人の女性が入ってくる。
一人は銀髪で智花とそれ程年齢は変わらないだろう、可愛らしい顔立ちで胸がデカい。もう一人は二十歳くらいの獣人でこちらはキレイと表現できる顔立ちで胸がとてもデカい。
「「あっ!」」
「あっ!」
「彼女達が盗賊を捕まえてくれた方達で、、、おや?もしかしてお知り合いでしたか?」
智花の顔を見てアシュリーとニスアは思い出す、祐二が初めて街に来た際に出会った勇者で他の勇者とは違い彼を馬鹿にしなかった人だ。
「えっと、確か勇者の一人のトモカ様だっけ?以前ユージ君と一緒に話していた?」
「はい、確か祐二さんのお知り合いで、、」
一方の智花も二人の顔と胸を見て思い出していた。初めてエアフの街に来た日、漸く見つけた大和が御剣達に馬鹿にされていた所を助けてくれた人達だ。そしてその豊満な胸に大和の思考がフリーズしていたことも思い出す、あの後宿に帰って改めて持つ者と持たざる者の圧倒的な差に悔しさで思わず泣いてしまった、何故自分は持たざる者なのだと。
「おっぱいお化けとおっぱい怪獣!」
そんな思い出から口からとんでもない言葉が出てしまった。




