騎士団長の軌跡
今回の話は9話に少し出てきた行方不明になった騎士団長の話です。また4話を読んで頂けると騎士団長の身に何が起こったか察しが付きます。
なお、今回の話は本筋には全く関わらない話です。
「騎士団長が行方不明?」
「うむ、そうなのだ。」
ギールによるスパルタ特訓の休憩中、グリードは祐二とギールにある相談事をしていた。それは彼が所属する王国騎士団の総括をしている騎士団長が一昨日から行方不明になっているという内容だった。
「行方不明って、何かの任務中に騎士団と逸れたって事か?」
「いや、そうではない。」
詳しく話を聞くと、騎士団の普段の仕事である訓練や王都の見回りなど特に何の変哲もない仕事を終えた翌日から急に仕事場に現れなくなったそうだ。
当初は遅刻でもしたのかと思ったが、一日経っても現れず何か事件に巻き込まれたのではないかと騎士団の皆で捜索を開始したらしい。しかし騎士団長は見つからず、また騎士団が利用している宿舎の騎士団長の部屋を調べてみたがこれと言った争いの痕跡なども見つからず、捜査が行き詰っているらしい。
「で、それを何で俺達に相談するんだ?」
「そうだな、薄情なようだが俺とユージは騎士団とは何の関係もない。相談されたところで力にはなれんぞ。」
「うむ、それなのだがどうも部下が怪しいのだ。なぜか一部の騎士が騎士団長の捜索に難色を示していてな。これは私の推測なのだがもしかしたら騎士団の一部が何か良からぬ企みをしていて騎士団長はそれに巻き込まれたのではないかと考えている。」
そういって、グリードが鍵が付いた一冊の分厚い本を差し出す。何でも騎士団長の部屋を調べた際、机の引き出しが二重底になっていて、そこに隠されていたらしい。明らかに騎士団長が行方不明になっている事と関係しており、中身を確認したいのだが生憎グリードには解錠の技術は無い。その為ギールと祐二に解錠をお願いしに来たのだ。
ギールは解錠の技術は持っているし、祐二も一応”大道芸”のスキルで解錠は練習中だ。それほど複雑な鍵ではないし、開けるのは問題なさそうなのだが、持ち主本人の許可を取らずに勝手に鍵を開けるのは少し抵抗がある。
それでも必死にお願いするグリードに根負けし、二人は針金を使いカギを開けていく。数十秒後”カチン”と音がし、鍵が外れ、本の内容が明らかになる。
「ええと、〇月〇日、、、これは日記か?」
「だとしたら、行方不明になる直前の曜日の日記を確認したほうが良いな。」
グリードを中心に三人は日記を読み進めていく。
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〇月▲日、晴れ
本日も大きな事件はなく、訓練と見回りを行う。一見平和に見えるがそれでも油断はできない。何でも巷では”鬼面の男”という存在が話題になっているらしい。
”鬼面の男”その存在は私も知っている。勇者から”勇者税”を奪い指名手配されている男だ。民衆はその男を勇者に代わる新たな英雄として歓迎しているらしい。
まったく嘆かわしい!確かに最近の勇者の一部には私も思うところがあるが結局は強盗とやっている事は同じなのだ!例えその男がどれだけ民衆に崇められようと王国騎士団総括騎士団長として、そのような犯罪行為は認められん!いつその鬼面の男が現れても問題ないように明日からの騎士団の訓練をより一層厳しなくては。
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〇月◆日、晴れ
最近部下の様子がおかしい。騎士団では風紀の乱れを防ぐため、合同訓練以外では女性騎士団と男性騎士団は触れ合う機会はなく、また宿舎も離れており若手の騎士団から文句が何度も出ていたのだが、それが無くなっている。
他にも訓練や訓練中の休憩時間で一部の騎士達が集まって何かを話していたり、一日の業務が終わった後彼らが宿舎の倉庫に集まっているのを何度か見かけたことがある。
彼らは何かを企んでいるのだろうか?もしや今の騎士団の体制に不満を持つ者を集めて謀反でも企んでいるのか?今度、極秘裏に調査する必要があるな。
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「おい、これって!」
「ああ、きっと騎士団長はその部下たちを調査して、何かの事件に巻き込まれたのだろう。続きを読むぞ。」
騎士団長行方不明事件の手がかりを掴み、皆前のめりで日記を読み進めていく。
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「やはり、今日も集まっているな。」
ガシャガシャと音が鳴る鎧を脱ぎ、顔を隠すローブに身を包み私は部下の後ろをついていく。ここ最近はずっと、倉庫に部下が集まっているのを見ていたから恐らく今日も集まるのだろうと考えていたが、どうやら当たりだったようだ。
部下の騎士は倉庫の前に立つと周りをキョロキョロと見ながら、扉をノックし何かを呟く。恐らく合言葉なのだろう。
部下が倉庫に入って数分後、私も倉庫の扉に近づき耳を当てるが中の声は良く聞こえない。何かしら叫んでいるのは分かるが、その内容が聞き取れない。仕方ない、中にいる部下にバレないようコッソリと扉を開けるしかないか。
私はゆっくりと扉を開き、わずかに開いた隙間から中の様子を確認する。奴らめ、一体何を企んで、、、
「ウホヤラナイカーーーーーー!!!」
「アッーーーーー!!!」
バタンッ!!
慌てて扉を閉めて眉間を揉む。どうやら最近の私は疲れているらしい、変な幻覚が見えてしまった。改めてゆっくりと扉を開き中の様子を再確認する。
「オウイエアーーー!!」
「アッーーーーーーーーー!!!」
バタンッ!!
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「え~と『〇月□日、晴れ、私は何も見なかった。そう、決して何も見なかったのだ。』・・・」
日記はこの日付で終了し、後は空白のページが続いているだけだった。
「何も見なかったってさ。良かったな。」
「いや、明らかにこれ見ちゃいけないものを見た人が書いた文だろ!しかも日記はここで終わってるし!絶対見た後に何かに巻き込まれてるだろうが!一体何を見たんだ騎士団長は!」
取り敢えずこの件に関わりたくない祐二の台詞に対し、グリードが大声でツッコミを入れる。その後もギャーギャーと騒いでいたが、やはりこれは騎士団の仕事であり、ギールと祐二は関われない(関わりたくない)という事で日記の取り扱いや騎士団長の捜索はグリードが極秘に一人で行う事となった。
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「ふ~」
慌てて倉庫から自室に逃げて、一息つく。倉庫で見た景色の恐怖は、若い頃に参加したマグマレックス討伐に勝るとも劣らない物だった。
「しかし、男所帯とはいえまさかあんなことになるとは、、、」
倉庫で見た景色が脳内で再生されそうになり、慌てて頭の中の映像を振り払う。今日はもう疲れた、酒を少し飲んで寝るとしよう。そして部下達には何も知らないふりをしてあげよう。うん、そうしよう
そう思いながら酒瓶の蓋を開けようとするとドアがノックされる。こんな時間に誰だろうか?
「入れ。」
「は、失礼します。」
「お、お前は。」
部屋の入ってきたのは、先程倉庫で色んな意味汗を流していた部下だ。
思わぬ来客に狼狽してしまいそうになるが、何とか表情に出さないようにする。もしここで彼らの秘密を覗いたことがバレてしまったら、どうなるかわからない。自分の貞操を守るためにも真面目な顔で部下と対面しようとするが、
「騎士団長、貴方見てましたよね。」
「ッ!!何の事だ!」
部下が言い放った一言で一気に表情が崩れ、冷や汗が流れる。そんな騎士団長の反応に部下は彼が自分達の秘密を知ってしまった事を確信する。
「騎士団長、お忘れですか?私には”追跡”のスキルがある事を。」
「ッは!しまった!」
「やはり、見てしまったんですね。」
「ま、待て。確かに見てしまったが別に誰かに言いふらすつもりはない!男所帯の騎士団ではそんな関係になってしまう事もあるだろう!安心しろ私は理解がある方だから、別に差別したり冷遇するような事はしない!」
そう言って部下を止めようとしてくるが、部下はどんどん近づいてくる。今この時の騎士団長は処刑される恐怖を味わう死刑囚のような気持だった。
「見たのなら仕方ありません。貴方もこっち側に来てもらいますよ。」
「ま、待て!!」
「大丈夫、痛いのは最初だけです。」
「頼む、待ってくれ!!」
「さあ、新しい世界の扉を開きましょう」
「や、止め」
「アッーーーーーーーーーーー!!」
その後、行方不明だった騎士団長だが、後日一部の騎士が独立して作った新たな騎士団”薔薇の騎士団”の団長として突如表舞台に姿を現すことになるのだが、それは全く本筋には関係のない話なのであった。
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