とある女の話
時系列としては舞踏会の後の話になります
セイン王国の王城の一室、第一王女や第二王女が秘密の会合などを行う部屋で第一王女であるレイアとミラは優雅なお茶会を過ごしていた。
別に何か用事がある訳ではないのだが、近衛騎士であるギールが祐二を一日中鍛えており、二人共暇だったのでお茶会をすることになった。
「所でミラ。」
「はい、何です。」
カップに新しく紅茶を注いでいるミラに、第一王女がある事を質問する。それはこの間の舞踏会の一件以来ずっと気になっている事でレイアは夜も寝られないのである。
「あなたユージ殿にはもう告白したのですか?」
「ブッフウウゥゥゥゥ!」
突然の爆弾発言に思わず紅茶を吹き出してしまった。先程までのんびりとお茶を楽しんでいたのだがレイアの一言で一気にミラは狼狽してしまう。
「その反応から察するにまだ告白していないんですね。」
「というか何でいきなりそうなるんですか!」
ミラの態度から彼女がまだ告白していないことを察したレイアはため息を吐くが、ミラとしては何故自分が祐二に告白をするのか?それが理解できなかった。
「何故ッて貴方、彼の事が好きでしょう?」
「違うよ!前にも言ったけど僕とユージはそんなんじゃ無いから!」
「では、もし彼に一人の女性として求められたら貴方はどうするんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
ユージが自分を求める?あのヘタレが?そんな事があるはずがないと思ってしまうが、同時にもし求められたらどうしようかも考えてしまう。
確かに特訓で色々なものが溜まっているかもしれないし、偶には発散させてあげた方が良いかもしれない。少なくとも勇者のように乱暴な事はしないだろうし、求められるという事は自分は彼にとって魅力的な女性として映っているという事で悪い気はしない。
「割と満更でもなさそうですね。」
「っは!い、嫌違いますよ!今のはその、そう!あれです!僕は元娼婦ですからそういうのはお手の物ですし、後腐れのない女として変にユージに罪悪感とか責任とか負わせなくて済むという意味で、、」
「ミラ、私は娼婦としてではなく一人の女性としてと言ったんですよ。」
レイアの言葉に再度ミラは黙ってしまう。一人の女性。それはつまりユージが自分に恋愛感情を抱いているという意味だ。
元々彼が元娼婦の自分の経歴を知っていても、一人の人間として扱ってくれている事は知っているし、それを好ましいと感じている事も自覚している。でも、嫌だからこそ、
「だったら僕は断りますよ。ユージのような人に僕みたいな汚れ切った女は相応しくないですから、きっとユージに相応しいのは彼と同じように誰かの為に立ち上がれる清純な女性ですよ。僕はそれを陰ながら応援するだけで満足です。」
改めて自覚してしまう、彼のような人間に自分は相応しくないと。だから自分の思いは隠し、彼の恋を応援するだけで自分は満足なのだと、それを言葉にしレイアに伝えたのだが。
「それが一番後悔するんですよ!!!」
「お、王女様。」
ミラが自分の考えを告げた途端、レイアの雰囲気が豹変し、バタン!とテーブルを強く叩く。突然の事にミラが驚いていると、肩を上下させながらレイアが落ち着きを取り戻す。
「はー、はー、すいません思わず我を忘れてしまいました。ミラ、これから一つあるお話に付き合ってもらえますか?」
「あるお話?」
「ええ、とある馬鹿な女の話です。」
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その女には好きな男性がいました。女は高い地位をもった一族の生まれで男は女の側近でした。女はいつの頃からか男の事を好きになり、将来は彼と婚約を結びたいとまで考えるようになっていきます。
そんなある日、女は男からある相談を持ち掛けられます。
「その相談と言うのは恋愛相談でした。」
「はあ。」
「女はそれを聞いて舞い上がりました。自分が告白されると思っていたんでしょうね。相談されているという時点で違うというのに、ホント馬鹿ですよね。」
”ヘッ”と自虐的な笑いをしながら、レイアは話を続けていく。
男が恋をしていたのは女に仕えているメイドで、男はそのメイドにどのようにすれば好きになってもらえるかを女に相談に来たのでした。
それはそれはショックでした好きな男性に告白されると思っていたら、別の女との仲を取り持ってくれと言われたのですから、かと言って相談を断って彼に嫌われるのは嫌だったから仕方なく相談に乗ってあげることにしました。
「でも女の苦悩はそれだけでは終わらなかったんですよ。」
「それだけとは?」
「後日、そのメイドから男の事が好きだから仲を取り持ってくれと相談されたんですよ。その時に女は理解しましたよ。自分の恋は叶わないと。」
まさかの両想い、自分の入る余地が全くないことに気づいた女はそれはもう悲しみました。いっその事二人の仲を険悪にしてやろうとも思いましたけど、二人とは長い付き合いでそれには抵抗がありました。
「あの日は仕事を終えて直ぐにベッドに潜り込んで一晩中泣きましたよ。」
「はぁ。」
時折自分の体験談のように話すレイアにミラも何となく誰の話か予想出来ていた。
「それからは自分の感情を押し殺して、必死に二人の仲を取り持ちましたよ。二人が幸せならそれでいいと。」
その後、女の奮闘もあり無事二人は恋人同士になり遂には結婚までたどり着いたが、結局女は男に気持ちを伝えられず、男とメイドも女の気持ちには気付くことは無かった。
「そして結婚式では友人代表としてスピーチを頼まれて別の意味で泣きたい気持ちを抑えながら、二人を祝いましたよ。ええ、祝ってあげましたよ!」
「鬼ですね。その二人。」
「そしてその日の晩、私は引き出物のケーキを肴にやけ酒を飲みましたよ!”今頃二人は初夜を楽しんでるだろーな”とか考えながら泣いて一人でやけ酒を飲んでましたよ!、う、う、うえ~~~ん!」
とうとう自分の話である事暴露し、号泣するレイアに何だか面倒くさそうな酔っ払いに捕まったような表情を浮かべるミラだが、確かに状況としてはそれ程違いはないだろう。
「その後も地獄でしたよ!他国に特使として派遣される際も護衛と使用人として二人が付いてきて、馬車の中で”あ、私邪魔者だな”って考えたり、男が深夜そのメイドの部屋に向う様を見て、このあと何が行われるのかを想像して、一人寂しく自分を慰めたり、妊娠したメイドに喜ぶ男を見て、”本当ならその場所にいるのは私のはずだったのに”って考えたりしたんですよ!極めつけは二人の子供が生まれて二人に頼まれて名付け親になった事ですよ!”王女様のお陰で私達は結ばれることが出来ました。どうかこの子の名付け親になってください”って私の面影が全くない赤ん坊の名前を必死に考えたんですよ!びええええええええええええええん!」
「ちょ、落ち着いて王女様。」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんん!!!」
女性として出してはいけない泣き声を出し始めたレイアに流石にいたたまれなくなったミラが何とか泣き止まそうとするが全然泣き止まず、結局泣き止んだのは一時間後の事だった。
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「ええっと姫様大丈夫?」
「ええ、お見苦しい所をお見せしてしまいました。」
「本当にな。」
醜態をさらした姉に対して訓練を終えて帰ってきたソニアが何とも言えない視線を向ける。
「コホン、それでミラ、私が言いたいのは自分の感情を押し殺すと必ず後悔するという事です。」
「はあ、そうですか。」
「そもそも彼と貴方は別に貴族ではないのですから、相応しいとか相応しくないとかそんな事は無いんですよ。」
その後、主にレイアのせいで微妙な空気になってしまい、お茶会はお開きとなる。きっとレイアはこの後自分が晒した醜態に悶絶することになるだろう。
帰り道の途中、ミラは王女に言われたことを思い出す。
「自分の感情を押し殺すと後悔するか、、か、でも僕は。」
自分の過去は洗い流せるものはなく、常に自分に付きまとい、重しになる。例え祐二本人が気にしなくてもそれを見る周りの目もある。やはり自分のこの感情は胸の内に隠しておくべきだろう。
それからどのように進んでいったのか覚えていないが、自分達の家に着く。ソニアが王城に戻ってきたという事は祐二もそろそろギールとの特訓を終えて帰ってくる頃だろう。彼の為にも美味しい夕食を作ってあげなくてはと考え扉を開ける。
「って!うわユージ!どうしたの!」
扉を開けた瞬間、人がうつぶせで倒れていた。その背格好から同居人の祐二だと分かるがミラが声を掛けても返事はなく、耳を澄ませると寝息が聞こえてくる。
どうやら訓練を終えて家に帰ってきたまでは良いもののそこで力尽きてしまったらしい。流石にそのまま床で寝かせるわけにもいかないのでソファーまで連れて行って膝枕をする。
相当疲れていたらしく、ソファーに移動させた際にもずっと寝ており、今も偶に頭を撫でたりしているのだが全く起きる気配が無い。
「ふむ。ま、今はこれが一番心地いいし、これでいいか。」
もし彼と恋仲になれば今よりも心地い時間が手に入るかもしれない。だが、過去を振り切れない今のミラにとってはこれが限界なのだ。彼女は想い人に膝枕している時間がもう少しだけ続くよう願いながら頭を撫でていく。
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