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俺TUEEE勇者を成敗 ~俺にチートはないけれどもチート勇者に挑む~  作者: 田中凸丸
なりあがりたい勇者と奴隷の少女
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19話:もう一人の鬼面

「えっ?」


 鬼面の男に向ってスキル”必中”を使い、矢を放った勇者田中、だが彼の口から出たのは勝利の雄たけびではなかった。

 今自分の目の前に映っている光景に田中は理解できなくなる。自分は確かに”必中”のスキルを使い鬼面の男を狙って矢を放った。”必中”のスキルはその名の通り、自分が狙いを定めたものに必ず自分の攻撃が当たると言う物だ。

 相手がどこに居ようと関係ない、例えば相手が田中の真後ろに居ても放たれた矢は、普通ではありえない軌道を描きながら、相手に向って飛んでいく。

 だからこそ、鬼面の男に向って放った矢は鬼面の男に突き刺さるべきだ。なのにどうして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか、田中は理解できなかった。


「ええええ、何で!何で!何でだよぉぉ!痛い!痛い!痛いよぉぉぉ!」


 放った矢が自分に刺さっている事と矢が刺さったことによる痛みで田中はパニックになる。元々魔族との戦争時も前線ではなく、安全地帯から矢を放っていて怪我をすることなどはなかった。そんな中今まで味わったことのない痛みに田中の心は折れかけていた。


 醜態をさらしている田中に鬼面の男、祐二は悲しげな視線を送りながらも近づいていく、幸い田中は痛みによるパニックで祐二が近づいていることに全く気付いていない。そのまま腰に巻いてある試験管から睡眠薬をハンカチに染み込ませ、田中の口を塞ぐ。


「ぐっ、ふぐっ、、、、すー。」


「っし、これで二時間は眠ったままだろう。今の内にっと。」


 田中が眠ったことを確認した祐二は、彼の肩に刺さった矢を引き抜き傷薬などを用いて治療を進める。伊達に野生動物の多い集落で一年間も暮らしていない、この程度の怪我の治療なら慣れたものだ。

 クラスメイトに怪我を負わせたことに多少罪悪感は感じるが、田中も祐二の足を射抜いたのだ。お互いさまという事で許してもらおう。


 「しかし、”必中”ね。狙ったものを必ず射抜けるってのも考え物だな。」


 治療を終え、彼の懐から金貨が入った袋を奪うと田中を道のわきにどけながら一人呟く、祐二の左手には小さな鏡が握られており、これが田中が放った矢が田中自身に返ってきたトリックの種だ。


 田中の所持するウルトラレアスキル”必中”それは弓や投擲で放った物を狙った獲物に確実に命中させるスキルで、それは()()()()にも適用される。

 田中が祐二を睨みながら矢を放とうとした瞬間、祐二は自分の顔の前に鏡をかざした。その結果田中は鏡に映った自分の顔を睨むこととなり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 後は、田中のスキル”必中”が発動して田中に向って矢が飛んできたという訳だ。田中は混乱していたが、彼のスキル”必中”はきちんと役割を果たしていた。


 といっても祐二にとってはこれはかなり危険な博打だった。”必中”が自分自身にも適用されることはギールから聞いており心配はしていなかったが、田中がもう一つ持つスキル”千里眼”が厄介だった。


・千里眼:ウルトラレアスキル、ありとあらゆるものを見通すことが出来る。障害物を透過し、遥か彼方にある物を目に捉えることが出来る。レベルを上げることで過去や未来すらも捉えることが出来る。


 もし、あの瞬間田中が”千里眼”を使っていた場合、鏡の存在はバレてしまい作戦は失敗して祐二は心臓を射抜かれていただろう。

 だからこそ、”千里眼”を使わせないため祐二はこの場所であのような言動を取ったのだ。


 鏡の存在が分かりにくい夜中に時間帯を選び、”千里眼”を使う必要は無いが弓を使わなくては届かない距離まで近づき、”千里眼”を使うという発想を持たせないために挑発し冷静さを失わせた。

 これらの入念な準備より無事作戦は成功したが、代わりに祐二の毒舌攻撃で田中のプライドはズタズタで下手したら、もう立ち上がれないかもしれない


「でもな、田中。少なくともお前のやってることは勇者がやっちゃいけない事だ。別に見返りを求めるなって言ってるわけじゃないし、主人公になりたいって気持ちもわかるさ。でもそれに他人を巻き込んじゃダメだ。」


 深い眠りに入り、聞こえていないのは分かっていても祐二は田中に語り掛ける。地球に居た時、彼から子供の頃、テレビの中のヒーローに憧れていたと聞いたことがある。

 そんな子供の頃の憧れが叶う世界に招かれたせいで田中は暴走してしまった。もし彼が再度心から誰かを救いたいと行動できる人間に成る事ができるのなら、どうか彼を認めて欲しい。

 祐二は彼が一から再スタート出来ることを願い、その場を後にする。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さてと、今日はどの娼館で遊ぼうかな~~」


 祐二が田中から金貨を強奪していた同じ時間、勇者の一人である海藤は支給された”勇者税”の一部が入った袋を握りしめながら、一人光り輝く歓楽街へと向かっていた。

 海藤にとって”勇者税”とは自分達が遊ぶ為の金であり、女遊びを覚えた海藤は毎日と言って良いほど歓楽街で遊びふけっていた。日々様々な娼館を渡り歩き豪遊していく海藤、そんな彼に娼婦たちは侮蔑ともいえる異名を海藤に付けていたのだが、彼本人はその異名の本当の意味を知らず、自分の強さの証明と勘違いしていた。


「昨日は、ロリっ娘の所で遊んだし、今日はグラマラスな魔族の商館に行こうかな~。」


 これから向う娼館を頭に浮かべながら、道を歩いていると彼の目の前にフード付きのローブで顔を隠した人物が立ち止まっている。

 明らかに不審者と分かる姿に海藤はその人物を迂回して娼館に向おうとするが、フードの人物が海藤に話しかけきた。声質からしてどうやら女性らしい。


「ねえ、君って勇者の一人のカイドーだよね。勇者がこんな所で何してるの?女遊び」


「うるせえ!だったら何だ!別にいいだろう俺は世界を救った勇者なんだぞ!お前こそこんなとこで何やってんだよ!客引きかなんかか!」


 一応自分が勇者であるという事を自覚している海藤は、勇者が娼館に通う事は恥ずかしいことだと自覚している。その為フードの女が自分の目的を当てたことに思わず大声で怒鳴ってしまう。もっともそんなに恥ずかしいなら行くなと言う話なのだが、助平な性格の海藤にはそれは無理だろう。


「別に勇者が助平でも僕は困らないよ。でもそのお金”勇者税”でしょ?」


「だったら何だよ?」


「そのお金はね、みんなが苦しい思いをしてまで納めたお金だよ。勇者に世界を救って貰いたくて、その勇者の力になりたくて納めたお金なんだ。遊びに使っていいお金じゃない!」


 女がそう叫んだ瞬間、フードが落ちて女の顔が露になる。女は仮面を付けており、それは手配書に乗っている鬼面の男が付けている仮面にそっくりだった。


 鬼面の男がまさか女であることに海藤は驚き、体が止まってしまう。鬼面の女はその隙を見逃さずに所持しているスキル”奇襲”を使うと、瞬間移動ともいえる速さで海藤の懐から金貨数百枚が入った袋を摺り取る。


「あ、テメェ!」


「じゃーね、これは貰っていくよ。」


 そう言って、女が海藤の隣を通り過ぎ走り去っていく、海藤も急いで追いかけようとするが元々体は鍛えておらず、異世界に来てからもずっと女遊びにふけっていたため追いつけるはずもなく、どんどん鬼面の女との距離は開いていく。


 逃げ切れることを確信した鬼面の女は更に足の速さを上げようとするが、その瞬間彼女の周りに閃光が発生し、違和感に足を止めた瞬間彼女の体を衝撃が襲う。

 衝撃そのものは大した威力ではなかったが、体が痺れてしまい上手く体を動かすことが出来ず、その場に倒れてしまう。

 そして、海藤がゆっくりとした歩みで鬼面の女に近づいていく、その瞳には邪な感情が宿っていた。


「な、、に、、、を。」


「へへ、上手くしゃべれねーだろ。俺から逃げようなんざ百年早いんだよ。なんたって俺は魔法を無詠唱で使えるんだからな。」


 勇者の一人である海藤は、魔法に関連したウルトラレアスキルを所持しており、中でもその中の一つ”詠唱破棄”によって、長い詠唱を行わなくとも魔法を行使することができる。それにより先程逃げた鬼面の女に威力は低いが体の自由を奪う電撃の魔法を放ったのだ。


「知ってるか?俺は”神速の勇者”って呼ばれてるんだ。どんな攻撃魔法も一瞬で使えて、敵を一瞬で滅ぼすからそう呼ばれてんだ。お前みたいなやつが逃げれる訳ねーんだよ。」


 得意げに自分の異名を自慢する海藤だが、”神速の勇者”という異名は歓楽街の商館で働く娼婦達が()()()()で付けた侮蔑である事を彼は知らない。

 もしその真相を知ってしまったら、きっと海藤は二度と歓楽街を堂々と歩けないかもしれない。


「それにしても、お前結構いい体してるな~。」


 先程受けた魔法の衝撃で体を隠していたローブが外れてしまい、動きやすいためだろうか、女が身に着けている服はライダースーツのようにぴっちりと体に張り付き、彼女の体のラインを浮かび上がらせている。

 豊満な胸、引き締まった腰、水蜜桃のように形の良い尻、そのどれもが男の情欲を掻き立て、さらに女が付けている香水なのか、蠱惑的な香りも鼻腔を刺激し、海藤の頭の中は性欲で一杯になってしまう。


「へへ、俺は優しいから見逃してやってもいいぜ、まあその代わり、多少の()()()は貰うけどな。」


 股間を膨らませながら近づく海藤に、鬼面の女は這いずりながら男との距離を取る。海藤は鬼面の女が逃げようとしていると判断しその背中を眺める。何やら鬼面の女が手元で何かを弄っているようにも見えるが、背中が邪魔で何をしているかはわからない。しかし自分の勝ちは決まっているのだ。わざわざ気にする必要はない。


「そんなに怯えんなって、大丈夫、優しくするし、気持ちよくもするから。」


「ぼ・・は・・きめ・・・」


「ああ、何だって聞こえねーよ!」


「僕は決めたんだ。もうあの頃みたいに簡単に自分の体を売ったりしないって、アイツに僕は相応しくないけど、それでも傍にいて恥ずかしくない人間に成るって決めたんだ!」


 女がそう叫んだ瞬間、勢いよく振り返る。女の手にはこの世界には存在しないはずの武器、海藤がいた世界ではとっくに廃れた武器である二丁のフリントロック式の拳銃が握られていた。


「へっ?」


「この距離だったら外さないよね。」


 ドパァァン!


 間延びした音が響くと同時に海藤の体が吹き飛ぶ、命中率に難のある武器だが海藤は覆いかぶさるように近づいてきた為、幸い二発とも命中した。

 そのまま吹き飛んだ海藤に向って、痺れが収まった体で追い打ちをかける。自分が銃で撃たれたという衝撃で海藤は混乱しており、幸い致命傷は避けているが傷は深く体を動かすことはできない。そんな海藤の股間に向って鬼面の女は踵落としを喰らわせ、銃撃と股間への衝撃で海藤は泡を吹き気絶する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふー、あーすっきりした。」


 重傷を負った海藤はそのまま放置して鬼面の女、ミラは帰路に着く。


「あの舞踏会の時から、この勇者には一発キツイのお見舞いしたかったからね。」


 何故ミラが鬼面を身に着け、祐二と同じく勇者から”勇者税”を奪うような真似をしているかと言うと理由は二つ、祐二への支援と勇者への私怨である。


 元々ミラの役目は勇者を篭絡することだったが、祐二が鬼面の男として活動して以来その役目は、祐二への支援へと移り変わり、生活面などで住居を提供するなどしてサポートしていた。

 そして、”勇者税”が勇者へ支給され、祐二が鬼面の男として活動する際、彼女も鬼面を被り勇者から”勇者税”を奪う事を決意した。祐二一人では相手できる人数や奪うことが出来る”勇者税”にも限度があり、それを補うためと複数の人物の犯行にすることで国王側の人間の捜査をかく乱するためだ。


 そして最初のターゲットに海藤が選ばれた理由、それはただ単に彼が嫌いだからだ。舞踏会で海藤に絡まれ、助平な目つきでしつこく見つめられていたことをミラはとても根に持っていた。娼婦や暗殺者として働いていた時には別にそう言った視線は気にはしなかったのだが、祐二や第一、第二王女、ギールなど彼女を一人の人間として偏見の目で見ない人達と出会ってからは、そう言った助平な視線がやたら不快に感じるようになり、ミラはどうしても海藤に蹴りを入れたかったのだ。


 結果、無事”勇者税”を奪い、海藤に蹴りを入れることが出来目的を達成することが出来、ミラは満足していた。


「う~ん、でもユージがこれを知ったら怒るかな?でも事前に相談したら絶対反対しただろうし、どうしよう?」


 これら一連の出来事は祐二には黙って行っている。彼が知ったら反対することは目に見えているし、彼に心配を掛けたくなかったからだ。かといっていきなり金貨数百枚を手に入れた理由なんて思いつかないし、正直に言うしかないだろう。


「言うしかないか。」

 

 何とか隠し通そうとも考えたが、できれば彼に不誠実なことはしたくないミラは打ち明けることに決めた。それで多少喧嘩するかもしれないが彼ならきっと最後は許してくれるはずだ。

 再度ローブとフードで体を隠したミラは、人目に付かないように路地裏を走りながら我が家へ向かうが途中、自分の恰好を改めて見直す。

 体のラインがはっきりと浮かぶ特殊な衣服、伸縮性に優れた素材で作られ、暗闇に紛れ込むように薄い黒で染められた服。露出は少ないのだが、何故か妖しい雰囲気を放っている。


「さっきの勇者もそうだったけど、男ッてこういう服も好きなのかな?」

 

 娼婦として働いてきたミラは、露出の多い服は男に喜ばれることは知っていたが、こういった体のラインは浮き出るものの露出が少ない服が男の興奮を煽るとは知らなかった。

 そして同時に祐二はどうなのか?という疑問も浮かぶ。


「ユージもこの格好に興奮、、、いやいやいや、何考えてるんだ僕は、、、でも喜んでくれるなら偶に着てあげても、、、いやいやいや、、、、でも少しくらいなら、、、、いやいやいや。」


 何故か妙な葛藤をし始めたミラだが、家に帰ればその恰好のまま祐二と鉢合わせることに彼女は気づいていなかった。

 

感想、ご質問どんどん募集しています!

また今回出てきた”神速の勇者”の説明については別の話で詳しく説明します。

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[良い点] ミラに何も無くて良かった!
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