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俺TUEEE勇者を成敗 ~俺にチートはないけれどもチート勇者に挑む~  作者: 田中凸丸
なりあがりたい勇者と奴隷の少女
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17話:家に帰るまでが強盗

「ブハッ!」


 王城から金貨を盗み出し、あと一歩と言うところで何者かに矢を撃たれ王城の外壁を落下していた祐二、だが幸い森の中に向って落ちていった結果、木の枝がクッションとなり致命傷となるような事態は避けられた。


「どのくらい気を失っていた?王城の中の兵士はどうしてる?」


 落ちた衝撃で気を失い、暫くして目覚めたものの自分がどの程度気を失っていたのかはわからない。辺りがまだ暗いことから、それほど時間は経っていないようだが長居して、兵士が外壁の外にやってこないとも限らない。早めに此処から立ち去るべきだ。


「痛ッ!」


 何とか立ち上がろうとするが、右腕と右足に激痛が走り、また倒れてしまう。右腕は王城の外壁を掴んで己の体を持ち上げた際に脱臼を、右足は矢に射抜かれたことで血がドクドクと流れ出している。

 祐二は適当に落ちている木の枝を添え木として右足に巻き付け、再度立ち上がる。右腕は後回しする、今は何よりも逃げることを優先しなければいけないからだ。


 ギールに教えてもらった逃走用の馬がいる場所へ向かうが、その足取りは遅い。骨折などはしていなくても落下の衝撃で、体の節々を痛めたせいだ。もし今兵士と対峙したら碌に戦えずに捕まる事だろう。


 途中、小休憩を挟みながらも馬の居る場所へ向かうがこのままだと、王城の兵士が侵入者が外壁の外に逃げたことに気づかれるかもしれない。そうなる前に急ごうとするのだが体は言う事を聞かず、のろのろとしか動いてくれない。

 それから、三度目の小休憩を取っていると森の向こうから馬の鳴き声が聞こえ、やがて馬に跨った何者かが祐二の目の前に現れる。

 一瞬、兵士に見つかったと思ったがその人物は鎧を身に着けておらず、フードと仮面で顔を隠しており、馬から降りると祐二に近づいてくる。


 暗闇でわからなかったが胸のふくらみからその人物は女性である事、また仮面は祐二が使用している鬼を模した面とそっくりである事が分かり、その人物に心当たるがある祐二は驚きの声を上げる。


「ミラ!何で此処に!」


「シー、大きな声出すと気づかれちゃうよ。」


 家で自分の帰りを使用人である元令嬢と待っているはずのミラがこの場所にいる事に驚くも、ミラに口を人差し指で抑えられてしまう。確かに彼女の言う通り大きな声を出すと見つかってしまうので此処は彼女の言う通り黙っているべきだろう。


 ミラは祐二が腰に吊り下げている金貨が入った袋を馬の腰の部分に引っ掛けると、祐二に手を差し出し、立ち上がらせ、馬に跨らせる。


「僕と王女様には遠距離で会話できる特殊なスキルがあってね、それでお願いされたんだよ。『ユージが王城の兵士に見つかったから、逃げる手伝いをしてくれ』って、それで急いでユージの荷物から予備の仮面を拝借して、馬に乗ってここまで来たってわけ。」


「そうだったのか、ありがとうミラ。」


「お礼なら第一王女に言ってよ。そんな事よりもしっかり捕まっていないと振り落とされちゃうよ?」


 馬の手綱は現在ミラが握り、その後ろに祐二がいる。俗にいう二人乗りと言う物で、祐二が馬から振り落とされないようにするにはミラの腰に手を回さないといけないのだが、余り女性と触れ合ったことがない祐二は少しの抵抗を見せながらも情けない態度で左手を彼女の腰に回す。


「ひゃん♪」


「うわ、すまん!」


 余りにも可愛い悲鳴を上げるミラに驚き、慌ててを手を離すが振り返り祐二を見るミラの目にはからかいの感情が宿っていた。


「ププッ、何このくらいで驚いてるの?ユージってやっぱヘタレだね。」


「うっさいわ!」


 自分がからかわれたことに気づいた祐二は、何だか馬鹿らしくなってしまったので今度は普通に腕を腰に回す。祐二がしっかりと自分に手を回したことを確信したミラは、馬を走らせ、王城を後にする。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「取り敢えず、今回の作戦は成功と言って良いだろう。」


 祐二が王城から金貨を盗んだ翌日、”錦の御旗”の事を知っているメンバー全員がギールが所持している廃墟に集まり、昨日の作戦結果を確認している。尚祐二の怪我だが右腕は肩に包帯を巻き、右足は傷口を消毒し、薬草を煎じた軟膏を塗り右腕と同じように包帯で巻き、暫く安静という決断を下された。


「ユ―ジが見つかってしまったことは想定外だったが、逆にこれで王城にいる多くの人間が”王城に侵入し、勇者税を盗んだ”という事実を認識し、やがて噂として王都の民にも広まるだろう。嬉しい誤算だな。」


 祐二がミスをして見つかったというのに、何処か嬉しそうなギール。そんな彼に対して以前からの疑問を祐二はぶつける。


「なあギール。作戦開始前にも言っていたけど、”王城に潜入し、勇者税を盗み出したという事実”が重要ッてどういう意味なんだ?」


 彼らが、今回の作戦に力を注いでいるのは分かっていたが、その目的までは知らされていなかった。果たして”王城に潜入し、勇者税を盗み出したという事実”の何が重要なのか?今後も彼らと行動を共にする以上、知らなくてはいけない。


 そう思い、疑問をぶつけると第一王女であるレイアがギールの前に立ち、祐二にある質問をする。


「ユージ殿。貴方は今回、王城から金貨数百枚を盗み出しました。それで質問です。今回の事件の責任は誰が負うべきでしょうか?」


「は?誰が責任を負うべきって、そりゃあ、宝物庫の番をしていた騎士か、もしくは俺を取り逃がした騎士なんじゃ、、」


 レイアの質問に対して祐二は答えるが、何故彼女がこんな質問をしたのか?その意図はまだ理解できていない。


「ふうむ、では質問を変えましょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「え、それは勇者が戦争が終わっても”勇者税”で遊び歩くのが許せなくて、それを奪い返してやろうと、、」


「では、その”勇者税”の継続を考えた挙句、可決したのは?」


「それは王様で、、」


 王女の質問に祐二は答えようとするが、途中で口を閉ざす。何故だかとても嫌な予感がしたからだ。具体的には自分が国のトップを争う椅子取りゲームに巻き込まれるような予感がしたからだ。


「そうですね、”勇者税”を継続することを決めたのは私の父を含めた七つの国の王です。さて、もう一度質問です。戦争が終わったのに”勇者税”を継続していたため起こった今回の事件、誰が責任を負うべきでしょう。」


「・・・”勇者税”継続を決めた王様。」


 そんな祐二の回答にレイアは満足げな顔をすると更に質問を続ける。


「はい、正解です。では更に質問をしましょう。民の苦しい生活を無視して”勇者税”を継続した結果、今回のような事件が発生しました。民が苦しい生活の中、必死に納めた”勇者税”、それを盗まれたのに今だに”勇者税”継続を訴える無能な王。そんな王は果たして必要でしょうか?いっその事退役して別の者に王位を譲った方がいいのではないでしょうか?」


「まさか、今回の作戦の目的って、、」


 流石に此処までヒントを出されて気づかないほど祐二は馬鹿ではない。嘗てミラが祐二に向って言った”今後大陸で起こる騒動の中心人物になる”という言葉の意味を今漸く理解した。


「はい、父である国王に”勇者税”が盗まれた事、及び”勇者税”継続の責任を取ってもらい、退役してもらうための口実づくりです。その後は私が王位を引き継ぎ”勇者税”廃止を訴える予定です。とはいっても今回盗んだのは”勇者税”の中でも極一部ですので、退役させる理由にはまだ不十分ですけれど。」


「とんでもねえ事の片棒担がされてた!」


 まさか自分が第一王女の王位継承の為に働かされていたことに驚きを隠せない祐二、一方の第一王女はそんな祐二の態度に不満を覚えたのか、少し怒りながらも説明を続けていく。


「そんな言い方をしなくてもいいではないですか。言っておきますけどこれが確実に”勇者税”を廃止できる方法なんですよ。”錦の御旗”が活動し、民の人気を得ると同時に王や勇者への不満を募らせることで立場を脅し、私が王位を継ぎやすい状況にする。そうすれば”勇者税”廃止を訴える私に民も賛同し反乱なども起きないですし。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、何とかショックから立ち直った祐二は、今後の活動として暫くは勇者や勇者に媚びを売る貴族から”勇者税”を盗むこととなった。そうすることで民に疑問を覚えさせ、第一王女が即位しやすい状況を作るらしい。


「っと、ユージ。お前にはまだ仕事が残っている。」


 夜も更けてきたので解散と言うことになった際、ギールが祐二に向って先日盗んだ金貨が入った袋を投げつける。余りの重さに思わず前のめりになるが何とか耐える。


「仕事、一体何の?」


「”錦の御旗”として重要な仕事だ。」


 そう言うとギールは馬を用意し、祐二をある場所へと向かわせる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 王都から馬で数時間離れたところにある金山、此処では”勇者税”が払えず奴隷となった者達が劣悪な環境の中、金貨の為の金を毎日掘っている。本来であれば国から雇われ、ちゃんとした装備やスキルを備えた者が従事しているのだが、今の彼らは重労働に嫌気がさし奴隷たちを鞭で痛めつけながら、日々怠惰に過ごしている。


 この日の仕事も終わり、奴隷たちは近くに廃材で作られた家屋で眠りに入ろうとしている。家屋とはいっても釘も碌に打ち付けておらず、縄で縛っただけであるため、少し強い風で崩れてしまうようなボロ屋敷だ。

 冷たい風が体を震わせる中、何処からか馬の鳴き声が聞こえる。こんな時間に誰かが馬に乗っているらしい。だが奴隷である自分達にはなんの関係もないことだ。

 そう考え、再度眠りに就こうとするが音はどんどん近づいてくる。やがて馬が家屋の前を通り過ぎた瞬間、金属音が彼らの耳に届き目を覚ます。今の音は紛れもなく、硬貨が落ちる音だ。


 慌てて、家屋から出ると彼らの目の前には数枚の金貨が落ちていた、いや自分達だけではない。周りを見渡すと先程の馬に乗った男が奴隷たちがいる家屋を駆け抜けながら、馬に縛り付けた袋から金貨をばら撒いている。

 奴隷たちは皆、喜びを隠さずに金貨を拾っていく、幸い長く辛い生活の中で仲間意識が芽生えていたため奪い合うような事態にはならなかった。皆この金でどうするかを必死に話し合っている。

 奴隷としての自分を買い、奴隷から解放されようとする者、家族への仕送りにしようとする者。皆、希望に満ち溢れた顔をしている。


 そんな中、奴隷の一人が金貨をばら撒いている男の顔を一目見ようと走って追いつこうとする。追いついた先は採掘した金を溶かすための溶鉱炉で、これ以上先に進んでも奴隷はいないため馬に乗った男は来た道を逆走していく、そして奴隷の男とすれ違った瞬間、溶鉱炉の火が僅かに馬に乗った男の顔を照らす。その顔は仮面を付けており、ランセ大陸にすむ魔物”鬼”に特徴が似ていた。


「鬼面の男・・・」


 王都で噂になっていた男が実在していたことに彼は歓喜する。



 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 姫様、くれぐれも気を付けてくださいよ… 勘の良い奴なら、姫様たちの秘事に気付く奴らも出てくるかもしれない…
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