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俺TUEEE勇者を成敗 ~俺にチートはないけれどもチート勇者に挑む~  作者: 田中凸丸
なりあがりたい勇者と奴隷の少女
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14話:狼煙

「それじゃ、行くぞ。」


 祐二が合図し、右手の指の間にそれぞれナイフを挟み投げる準備をする。ギールとの特訓も数週間が過ぎ、いよいよ”勇者税”徴収の日が近づいてきた中、祐二は今日この日最後の仕上げを行っていた。

 彼の視線の先には十字架に張り付けられたグリードと彼の頭の上の乗っているリンゴが写っている。


「いやいやいや、待て待て待て。」


「ん?どうした?」


 祐二が構えた途端にグリードが首を振り祐二を止める。一方の祐二は顔に疑問を浮かべ構えを解いている。


「何故、今私は磔にされて、頭にリンゴを乗せられて的のような目に合っているんだ。」


「的のようなっていうか的だよ。さっき言っただろ”大道芸”のスキルの一つ”ナイフ投げ”の成果を確認するって。」


「それで何故私が的の役割をさせられる!」


「何故ッて、第二王女にそんな真似はさせられないだろ。」


「私だったらいいのか!!」


 祐二の発言にグリードは叫ぶが、祐二やギール、第二王女のソニアは”錦の御旗”として活動開始するまで時間が無いため彼の言葉を無視して、”ナイフ投げ”の成果を確認しようとする。


「それじゃ、行ってみよー。」


「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!」


 祐二が再度構え、人差し指と中指の間に挟んでいたナイフをグリードの頭の上に載っているリンゴに向って投げる。

 回転しながら飛んでくるナイフにグリードは思わず目を瞑ってしまうが、投げられたナイフは見事リンゴだけを刺し、彼に当たることは無かった。


 安堵するグリードを無視し、祐二とギール、第二王女であるソニアは向かい合い、互いに頷く


「いよいよ後数日で”勇者税”徴収の日だな。」


「ああ、お前と出会ってから今日まで教えられることは可能な限り全て教えてきた。まだ正面からの戦いでは厳しいだろうが、不意打ちでならいい勝負ができるはずだ。」


「ユージ、ギール。ここから先はもう後戻りはできないがそれでもいいのか?」


 自分達の計画に巻き込んでしまったことに対して、罪悪感を感じているソニアが”今ならまだ降りることができるぞ”と言ってくるが、彼女の言葉に対し、祐二は笑みをギールは頷きを返す。


「いや、俺はもうとっくに勇者に喧嘩を売ってるから既に後戻りはできないぞ。」


「私は降りる気などありません。」


「そうか」


 彼らの言葉にソニアは安堵と感謝を覚える。そして今後の詳しい作戦を説明するため三人はギールの所持する廃墟に入っていく。



「おい、私は無視か?いつまで磔にされてるんだ?もしも~し、聞いてます~?」


 そしてグリードは磔のまま一晩を過ごすこととなる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて、それでは作戦を説明する。」


 廃墟の中、ギールが王城の内部が記された羊皮紙を広げる。羊皮紙には細かな寸法や隠し部屋の存在なども記されており、これを持ち出すだけでも大きな罪となる。

 逆に言えばそれだけの覚悟を持って此処にいる彼らは勇者から”勇者税”を奪おうとしているのだ。


「各勇者に割り振れられた部屋は王城の北側、食客などをもてなす貴賓室だ。そこで国に滞在している勇者は暮らしている。」


「そして”勇者税”は徴収日に一旦王城に集められ、納めた額が徴収書と間違いが無いかを確認をし、宝物庫に保管され翌日勇者に渡される。」


 ギールとソニアは普段王城で暮らしており、”勇者税”の仕組みや勇者の行動については熟知している。もし彼らと出会わなければ、祐二の目標である”勇者税”の撤廃は困難な道になっていただろう。


「此処からが本題だ。ユージ、お前は俺達がサポートをするから”勇者税”徴収日に徴収用の馬車に隠れて王城に忍び込むんだ。そして宝物庫に忍び込み”勇者税”を盗み出す。宝物庫までのルートは後で説明するから頭に叩き込んでおけ。」


「ん?勇者に渡す前に盗み出すのか?でもそれじゃまた勇者税が徴収される可能性があるんじゃ、、」


 祐二がわざわざ勇者本人から”勇者税”を盗んでいる理由、それは責任の所在をはっきりするためだ。勇者に税金を納めた後にその税金を盗まれてもそれは盗まれた勇者の責任となる。だが、勇者に納める前に盗まれてしまえば、その責任は勇者以外の者の責任となり様々な問題が発生してしまう。こういった責任の所在は重要な問題なのだ。


 祐二はそれを心配しての発言なのだが、ギールとソニアは何も問題が無いと言わんばかりの態度で作戦の続きを説明する。


「ふう、ユージ。お前は納められた”勇者税”がどの程度の額か知らないだろう。いいかグレーリア大陸全土から金貨が集められるんだぞ。とてもじゃないが一人で盗み出せる額ではない。今回の作戦で盗み出せるのは精々金貨数百枚だろう」


「お、応。」


「そして私の父上は小心者だから、多少盗まれたとしても勇者達にはその事実を隠そうとするだろうし、市民からの反発を買わないために再徴収はしないだろう。何より今回の作戦の目的は”勇者税”を盗み出す事だけじゃない。」


「え、?」


「今回一番重要なのは、”王城に潜入し、勇者税を盗み出した”という事実が重要なんだ。」


 ソニアの発言に祐二は疑問を覚える。勇者達から”勇者税”を盗み出すのと王城から”勇者税”を盗み出す。盗む対象が異なるだけで然程違いは見られないが、どうやらその違いが王女達の”勇者税”廃止の重要なカギとなるらしい。


「詳しい説明は作戦が成功してからだな。それに王城から”勇者税”を盗み出した後も勇者の信用を落とすためにユージ殿には引き続き勇者から”勇者税”を盗んでもらうぞ?」


「あ、ああ。俺としてもそのつもりだから、そこは安心してほしい。」


 その後、王城の宝物庫潜入のルートから逃亡までのルートまでを頭に叩き込み、徴収日までの数日間は準備に当てられることとなり、今日は解散となった。


 各々が帰り支度をする中、祐二はギールとソニアにある言葉を掛ける。


「あのさ、二人共。本当にありがとう。」


「どうした急に?」


 いきなり礼を言い出した祐二にギールが困惑の表情を浮かべるが、大事な話だと理解し彼の話を黙って聞くことにした。


「もし二人が、いや二人だけじゃない。第一王女やミラにも出会わなかったらさ、多分何処かで俺リタイアしてたよ。一人で無茶してボロボロになって勇者に返り討ちにされてそこら辺の道端で死んでたと思う。でも王女達が俺に協力してくれて、ギールが俺を鍛えてくれたおかげで此処まで来れた。本当にありがとう。」


 今まで自分を支え、鍛えてくれた者達。これから行う作戦で祐二が捕まり処刑される可能性もある中、祐二は後悔をしないため、伝えたい言葉を伝えたい人達に伝えていた。


 尚この時、グリードがさりげなく外されていることに気づいた者はいなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「装備に問題は無いな。」


 作戦当日の前夜、祐二は装備の確認をしていた。ドワーフの王族との交流により祐二の装備は御剣と対峙した時から大分改良が進められ、勇者並とまではいかないまでもかなり質が向上していた。


 連射速度や装填できる矢の数が上がり先端に様々な薬品を仕込めるようになった右手の籠手に装着された連弩、今までは吹き矢を仕込んでいたが”大道芸”によりナイフ投げができるようになった祐二の為に、毒を仕込める溝が掘ってある投げナイフを5本仕込んだタイプに改修された左手の籠手、試験官を内蔵した腰のベルトはより強度を増したガラスの試験官に変え戦闘中でも割れないように配慮されている。

 狩人として活動する際のクロスボウは置いていく。威力は高いのだが重くかさばり、またあくまで目的は”勇者税”を盗むことなので勇者と対峙する必要はないため、威力が低い小型のクロスボウで十分なのだ。


 装備の確認を行い明日に備えて祐二は眠ろうとするが、ドアがノックされ二人の女性が入ってくる。一人はこの家の持ち主ミラで、もう一人は勇者の一人である田中に奴隷として購入されたが、暴力を振るわれた後に解放された元貴族の令嬢だ。

 彼女は路地裏で泣き崩れていた所、祐二達に保護され何かと忙しい祐二とミラに代わって家事を行う使用人として雇われている。田中に殴られた顔も今ではすっかり元通りになり、元から好きだったのだろう。家事を嫌な顔せず笑顔で行う優秀な使用人となっている。そして一緒に暮らしている以上、彼女も祐二の正体が何者であるかも理解している。


「どうした、二人共。明日は早いから俺はもう寝るけどどうかしたのか?」


「うん、ユージは明日王城に忍び込むんだよね。」


「応。」


 どうやらミラと貴族の令嬢は祐二の事が心配になり、様子を見に来たらしい。確かに失敗してしまえば捕まって処刑されてしまうのだ。彼女達が心配するのも当然だろう。だが祐二は彼女達の不安を消すかのように笑い飛ばす。


「大丈夫。ちゃんとルートも確保してるし、隠れている限り兵士に見つかる事もない。余程の事が起きない限り心配ないさ。」


「、、あの!主様!」


 祐二がそう言うと元貴族の令嬢が祐二の手を握り、目を見つめてくる。突然の行動に祐二が驚き、ミラがもっと驚き目を見開きながらも令嬢は言葉を続ける。


「主様はあの日、私を地獄から救い出してくれました。もしあの日主様と出会っていなければ私は路地裏で悪漢共の慰み者となっていました。」


「いや、あの時はミラもいたんだが、、、」


「それからの私の幸せは主様の傍にいる事です。ですからお願いです。どうか無事に帰ってきてください。もう私に地獄を味合わせないでください!」


「ああ、分かった。」


 やたらとキラキラした瞳で見つめてくる令嬢に祐二もどう対応していいか分からず、”取り敢えず頷いとくか”と数少ない人生経験から学んだ事を活かす祐二、一方のミラは自分が蚊帳の外である事に若干の不満を持っていた。


「ええっと、それでミラ。何か怒ってる?」


「べっっっっっつに~~~~~」


 自分は彼に相応しくないと考え、頭で理解していても心は納得できていない。女心は複雑なのである。



主人公、どんどんフラグを建てていきますね。


感想、ご質問どんどん募集しています

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミラ、可愛い〜( *´艸`) ミラにも幸せになってもらいたい〜
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