13話:異世界転移で成り上がるのは当たり前である
今回は主人公の出番は少なく、また一部不快になる描写があるかもしれません
彼、田中敏行にとって異世界に召喚されることは夢だった。ライトノベルやネット小説で数多くある冴えない主人公が異世界に転移し、チートな能力を手に入れ世界を救い、数多くの魅力的なヒロインと結ばれる。
田中は、そんな都合の良い夢を何度も想像し、同時に現実でそんな事があるわけないと諦め、御剣達のいじめに日々耐え忍んでいた。
そんなある日、異世界の神を名乗るトラルと言う人物から、チート能力を授けるから世界を救ってほしいと言われ、異世界に転移することとなる。
「遂に僕が主人公の時代がきたーー!」
夢にまで見た異世界転移、しかもチートを授けてもらえる特典まで付いてくる。この時田中は自分が物語の主人公になったと勘違いし、幾多の魅力的なヒロインとハーレムを築いて結ばれる妄想までしてしまい浮かれていた。
だが、ここで幾つか田中の理想と異なる事が発生してしまった。一つは転移者が田中一人だけでなく、他のクラスメイトも一緒に転移し、その中に御剣達もいた事だ。お陰で武岡がいるときは彼が守ってくれるのだが、武岡が居ない場所では御剣達に虐められた。
もう一つは、田中のチートスキルが地味だった事だ。派手な魔法や剣戟を繰り出す海藤や御剣とは違い、自分は弓を確実に当てることが出来るのみ。無論それも充分なチートなのだが、見た目の派手さから、異世界の人間達は御剣達を賞賛し田中はそのオマケという扱いになり日に日に不満を貯めていく。
「でも、きっと皆もいつか僕の凄さがわかるはずだ。そうすればあんな屑共よりも僕を称えるに決まってる。」
そんな希望を抱きながら、日々を過ごしていた田中だったが、結局彼の扱いが変わることは無かった。国王は圧倒的な力と派手さを持つ御剣達を贔屓し、彼らに見目麗しい貴族の令嬢達と他の勇者よりも多額の勇者税を与える一方、田中にはご機嫌取り用の令嬢はおらず、勇者税も他の勇者と比べて少ない(それでも一生安定して暮らせる額の)勇者税しか与えられず、終いには「タナカ?あんな弱い勇者放っておけ」とまで言われる始末だった。
「何でだよ!戦争の時も沢山の魔物を倒したのに!何でこんな不公平な目に会わなきゃいけないんだ!」
日々、周りの物から存在が軽んじられる視線を向けられ、御剣達に虐められる毎日、自分の傍にはヒロインなどおらず、人間の屑である御剣達にばかり女が寄ってくる。転移してから一年が過ぎる頃には田中の精神は崩壊寸前であったが、田中はここである事に気づく。
”もしかして、これって成り上がり系じゃないのか?”一口に転移物と言っても色々種類がある。主人公一人で転移し、チートで無双するタイプ。ヒロインと二人で転移し、危機を乗り越えるタイプなど様々だ。
そして、田中は今の自分の立場を”成り上がり系”ではないのかと考え始める。”成り上がり系”とは簡潔に言えば、最初は理不尽な目に会っていた主人公がやがてチートを手に入れ、自分を害していた者達を跳ね飛ばし、どんどん成り上がっていく物語だ。
周りから見下され、不平等な目に会う自分、田中は今の自分の立場がまさしく”成り上がり系”の主人公そのものではないかと考えた。いや、勘違いするようになり、御剣達を”成り上がるための噛ませ犬”として、彼らに与えられた貴族の令嬢達を”自分が助けることでハーレムのメンバーになるヒロイン達”と捉えるようになった。
「安心してくれ、僕が絶対に君達を御剣達から助けて見せる!僕はアイツらみたいに酷いことなんてしない!君達を幸せにしてみせるよ!」
「・・・・・・は、はい。」
それからの田中の日々の行動は変わり、御剣達の奴隷と化している貴族の令嬢を見ると急に大声で”君達を救って見せる!”と声を上げ、手や肩を触ってくるような事を毎日繰り返していた。
これは田中なりの異性への愛情表現だったのだが、それを向けられた貴族の令嬢たちは怯えていた。ヘドロのような濁った眼でまるで自分達を”何かの枠に嵌めたような人間”として見てくる視線に、御剣達のような性欲を隠さない視線とは別ベクトルで令嬢たちは恐怖した。
もし、少しでも彼の意にそわない行動や発言をしてしまった場合、自分達の身に危険な事が起こるのではないか?令嬢たちはそう考えていた。
そして彼女達の考えは間違っていなかった。
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「くそ!くそ!ふざけるな!僕はお前を奴隷扱いしないって言っただろ!なのに何で怯えてるんだよ!何でお前から僕に近づかないんだよ!何で僕を求めないんだよ!」
「ヒッ、ごっごめんなさい。痛っ!何でも命令には従いしますから殴らないでください!」
「命令したら、あの屑共と同じになるだろ!そんな事も分からないのか!」
王都の裏路地の一角、そこで田中は見目麗しい女性を殴っていた。女性は元貴族の令嬢で”勇者税”により財産を没収され、奴隷に身を落としていた所を田中に買われた。自分を奴隷に落とした勇者に何か思うところもあったが、豚のように肥えた人間に買われ、純潔を散らされるよりはマシだろうと考え大人しく従っていたが、もしかしたらそちらの方がまだ幸せだったかもしれない。
田中に奴隷として買われた初日、田中は元貴族の令嬢を王城の自分の部屋に案内するとこう言った。
「僕は君に酷い事はしない。君を奴隷扱いしないから安心してくれ。」
最初、貴族の令嬢は自分の耳を疑ったが、確かに言葉の通り田中は貴族の令嬢に命令や暴力を振るう事は最初の内は無かった。
奴隷の令嬢が違和感を感じ始めたのは三日目、令嬢を見る田中の目に不満の色があったのだ。それから田中は四六時中、令嬢をヘドロのような濁った眼で見つめ続け、令嬢は怯えていた。そして五日目ついに田中は訳の分からない事を言いながら、令嬢を殴った。
「くそ!何怯えてるんだよ!お前は僕のヒロインなんだぞ!なのに何で主人公の僕に怯えてるんだよ!」
それから令嬢は毎日田中に殴られ続け、彼に買われてから七日目。遂に、屋外でも殴られるようになり、裏路地に悲痛な音が鳴り響いている。
「くそ、コイツじゃ駄目だ。やっぱりアルティが僕のヒロインなんだ。彼女は助けを求めてた。僕が救ってあげなくちゃ、、」
「お願いです。もう殴らないでください、、」
「うるさいな!ヒロインじゃないのに勝手に喋るな!もうお前は要らない!どっかへ消えろ!」
田中はそう叫ぶと、顔が腫れあがった令嬢を放置して王城へ向かって歩いていく。裏路地に残された令嬢は奴隷から解放されたことに喜びながらも、これからどうすれば良いのか分からず涙を流す。
裏路地に女性がすすり泣く音が響き始めて十数分、何処からか足音が聞こえて令嬢に声を掛ける。
「おい、アンタどうしたんだ?泣いて、、ってその怪我どうした!」
「大丈夫?ちょっと待ってて、今傷薬出すから!」
彼女に声を掛けたのは、勇者と同じ黒髪の青年と少年的な雰囲気を持ちながらもどこか妖しげな色気を持つ女性であった。
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「やっぱり、そこら辺の奴隷じゃヒロインじゃない。アルティがヒロインだ。」
王城の一室、田中に割り振られた部屋の中で、田中は爪を噛みながらブツブツと呟く。自分が”成り上がり系”の主人公だと気づいた(実際は唯の勘違いだが)田中は、ある者を探していた。それは”メインヒロイン”だ。物語である以上、主人公である自分にはヒロインが必要であり、できればヒロインも自分と一緒に底辺から成り上がりたいと考えていた田中は奴隷に目を付けた。
周りから不平等な目に合う自分と不幸な身の上の奴隷のヒロインが共に成り上がっていく。”まさしく王道じゃないか!”と田中は舞い上がり、すぐさま奴隷商へ行き、見目麗しい元貴族の令嬢を奴隷として購入し、”ヒロイン”として扱った。
だが、ここで問題が発生してしまった。”ヒロイン”として購入したはずの奴隷の女性が”主人公”である自分に心を開かなかった。
粘ついた視線を送り、”酷い事はしない”と言いつつも常に監視され続けるような生活に心を開けというのは無理な話だが、そのような事は田中には理解できず彼は不満を貯め続け、遂には暴力を振るうようになってしまった。そして”ヒロイン”はまた心を閉ざし、田中はそれに不満を持ちまた暴力を振るう。そして最終的に奴隷を”解放”と言う名で捨てて、また新しい奴隷を買う。これがギールが祐二に語った勇者タナカの妙な行動の真実である。
そんな周りから理解できない行動を取っていたある日、田中は運命的な出会いをする。他の勇者と奴隷商を訪問した日、自分達に笑顔でお茶を振舞ってくれた奴隷の女性、彼女こそが自分の”メインヒロイン”だと田中は確信し、金貨三千枚という途方もない金額でも彼女を購入しようと決意する。その女性こそアルティであった。
アルティを”メインヒロイン”と思ってしまった田中は、彼女がつらい立場にいると勝手に解釈し、彼女本人の言葉も自分に気遣って嘘を言っていると捉えてしまう。そして彼は次の”勇者税”が勇者に渡される日に彼女を購入する事を決意する。
そして、”勇者税”が徴収される日、”鬼面の男”が動き始める。
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