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俺TUEEE勇者を成敗 ~俺にチートはないけれどもチート勇者に挑む~  作者: 田中凸丸
なりあがりたい勇者と奴隷の少女
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11話:奴隷が欲しい勇者

今回はいつもより投稿する時間が遅くなってしまいました。申し訳ございません!

 奴隷となってしまった貴族の令嬢、アルティ。そんな彼女を訪問して現れた勇者である田中に祐二は驚きを隠せなかった。地球に居た頃の彼は大人しい生徒で、よく御剣達に絡まれていたが反発せず笑って彼らが過ぎるのを待っていた位だ。そんな彼が奴隷商を訪れ、奴隷を買おうとしていることに祐二は大きな違和感を感じていた。


 一方、アルティと初老の使用人と向かい合ってソファに座っている田中は、粘つく視線をアルティに向けながら、使用人と話を進めていく。視線を向けられたアルティはあまりの気持ち悪さに体を震わせるが田中は気づいていない。


「アルティ!良かった!まだ誰にも買われていなかったんだね!僕はずっと心配で心配で夜も眠れなかったんだ!」


「は、はい。」


「もし何か辛いことがあったら言ってくれ、僕は勇者だから君の力になれる!それだけじゃないもうすぐ君を奴隷から解放、、、」


「それで勇者様。本日はどのようなご用件で?」


 一人で勝手に盛り上がっていく田中を制するように初老の使用人が口を挟む、会話を止められた田中は不快そうな顔を使用人に向けるが、それでも行動に移すようなことはせずに用件を話し出す。


「そんなの決まってるだろ!彼女の様子を見に来たんだよ!お前達が彼女に酷い事をしていないかってな!」


「その心配は必要ありませんよ。彼女は我が奴隷商でも一番の価値がある奴隷。わざわざ傷つけてまで価値を下げるようなことはしません。」


「はっ!どこまで本当だか?」


 その後も田中と使用人の会話は続いていくが、第三者の視点から見ている祐二とミラにはどうしても会話と言うよりは、田中が勝手に話しているだけのような印象を受けてしまう。

 その後、時間が経ち使用人が田中に退席を進め、田中も帰ろうとするが最後に振り返りアルティに向って言葉を投げかける。


「僕は絶対に君を助けて見せる!だから、僕と一緒に世界を救おう!」


「い、いえ私は別に助けを求めているわけでは、、」


「本心を隠さなくても、もういいんだよ!あの日確かに君は僕に助けを求めた!僕はそれを知っている!あと少しの辛抱だからそれまで耐えていてくれ!」


 田中はそう言うと商館を後にする。彼が完全に屋敷から退去したことを確認した祐二とミラは衣装棚から出るが、その場は妙な空気で包まれている。そんな中祐二は初老の使用人にどうしても聞きたいことがあった。


「何なんだアレ?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「始まりは二週間ほど前でした。」


先程の田中と使用人の余りにも噛み合っていない会話と田中が何故この商館に通い続けているのか?祐二が確認をすると女性狩人がポツポツと話し出す。


「我が商館に勇者が数人程、訪れてきたのです。彼らの目的は女性奴隷の購入でした。確か訪れた勇者はタナカを含めた数人の勇者でした。その際にお嬢様が彼らに目を付けられてしまったのです。唯タナカを除く勇者はお嬢様の値段を聞いて諦め、帰りましたが何故かタナカだけ、その後も商館に通い続けお嬢様に執心しているのです。」


「それでアンタはお嬢様が勇者に奪われてしまうと考えたと?」


「はい!それで勇者がお嬢様を奪う前に私が金を貯めてお嬢様を先に”購入した”と言う名目で保護しようとしたのです。」


 グレーリア大陸の奴隷制度では、奴隷を解放することはかなり難しい。奴隷を解放するには国からの許可が必要なのだが、その許可を得るには奴隷本人に何かしらの理不尽な理由や濡れ衣であったなど、()()()()()()()()()()()()()が必要となってくる。


 だが、アルティの場合本人が望んで奴隷になったのだし、国王からの命令を無視しているのだ。これでは解放の許可など貰えないし、解放した途端勇者に身を捧げろと言われてしまうかもしれない。


 アルティを”盗む”と言う名目で他の地に避難させるという方法もあるが、勇者が目を付けている奴隷だ。国もきっと勇者のご機嫌取りに彼女を必死に探すだろうし、検問を抜けるのも難しいだろう。それに逃亡生活も苦しいはずだ。


 つまり、現状彼女を勇者に渡さない方法は勇者よりも先に彼女を”購入”するしかないのだ。


「ちなみにお嬢さんにはどのくらいの値段が付けられているんだ?」


「金貨三千枚だ。」


 その値段を聞いて、祐二は目を見開いた。月収の平均が金貨6枚の中三千枚となれば余程の金持ちでなければアルティを購入する事はできない。確かにその値段なら勇者も諦めるだろう。同時にそんな途方もない金額を貯めようとした女性狩人に呆れてしまう。


「というか、勇者よりも先にお嬢様を”購入”して保護したいんなら、値段を下げればいいんじゃないか?言い方は悪いがお嬢さんはアンタ達の商館の商品なんだろ?値段は変えられないのか?」


 奴隷を勝手に解放することはできないが、値段を変えられることはできるはずだ。であれば彼女の値段を下げれば勇者よりも先にアルティを保護できるはずだ。

 祐二はそう考え、進言したのだが女性狩人は首を横に振る。


「奴隷の値段を変えるにはそれ相応の理由が必要なのです。例えば怪我をしたや年老いてまともに働けなくなったなど、それ以外の個人的な理由では値段を変えることが出来ないのです。」


 確かにその日の気分で値段を変えられては、買う方も売る方も商売がしづらくなってしまう。だがアルティを守るために高い価値を付けた結果、逆にそれが彼女のピンチを招いてしまうとは何とも皮肉なことだ。


 金貨三千枚、一般人には手の届かない額だが”勇者税”を貰っている勇者達なら余裕で手が届く額になってしまう。一方の女性狩人達は”勇者税”の結果、報酬額が減った依頼を受けなければならない。これでは勇者にアルティが奪われるのを指を咥えてみているしかないだろう。


「それで、何で田中はお嬢さんにご執心なんだ?何かあったのか?」


「いえ、勇者と対面したその日、お嬢様がやったことと言えば勇者達にお茶を出したことぐらいです。」


 ここでミラを除いた全員が頭を抱える。田中がアルティにご執心で彼女を購入しようとしていることは明白だ、だがその理由が思い浮かばない。他の勇者はアルティの値段を聞いて諦めたのだ。あの御剣や海藤ですら、なのに田中はそれを気にもせず彼女を購入しようとしている。一体何が彼の琴線に触れたのだろう?


 そんな中一人、田中がアルティに執心している理由に何となく察しが付いたミラが、アルティにある事を確認する。


「ねえ、アルティお嬢様。もしかして勇者にお茶を出すときに勇者達に笑顔を向けたりした?」


「え、ええはい。勇者様はあまり良い噂を聞きませんがそれを表情に出すわけにはいきませんから、笑顔でお茶をお出ししました。」


「じゃあ、多分それが原因だよ。」


 ミラの発言に全員が頭に”?”を浮かべる。なぜそれが田中がアルティの執心する理由になるのだろう?そんな彼らの表情を見てミラが説明する。


「僕は少し前まで娼婦の仕事をしていたんだけど、偶に居たんだよ。女慣れしていないお客さんで少し笑顔を見せたり手を握ったりするだけで本気になるお客さんがね。で多分今回も同じパターンかな。」


「田中は笑顔を見せられて本気になったと?」


 頷くミラ。確かにミラやアルティのような美少女に笑顔を向けられたら本気にしてしまうかもしれない。もっとも祐二は自分がそんなにモテるような顔立ちではないと自覚しているのでそのようなことは無いが。


 地球に居た頃の田中は、男子のオタク友達以外には交友関係が少なく、女子達からは話しかけられず又自分からも話しかけることが出来なかった。そんな中自分に笑顔を向けてくれる女性、本気になるのも仕方ないかもしれない。


「でも、本当に怖いのは此処からなんだ。」


「怖い?何が」


「本気になるだけならまだ問題ないんだけど、此処から勝手にどんどんエスカレートしていく人がいるんだ。」


 そう言うとミラが体を震わせる。もしかしたら先程から彼女が言っていることは実体験なのかもしれない。


「こっちは社交辞令や仕事で話してるだけなのに、相手はいつの間にか両思いだって考えるようになって、終いには勝手に恋人扱いされるんだ。それで帰り道を着いてきたり、毎日訳の分からない手紙を送ってきたり、他にも別の男性と話していると急に現れてその人に殴りかかったりして、それからどんどん人間関係が壊れていって最終的には相手を自分の物にしようとして、監禁しようとしてくるんだ。あの勇者の目は、その時の男の目そっくりだった。」


「いわゆるストーカーか。」


 田中がミラの言う通りのような行動に出るとは確信できないが、先程の使用人と田中の会話を見ていると確かに不安になってくる。あの時の田中は目に狂気を宿し、アルティの実際の環境を無視して自分にとって都合の良いように解釈していた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 その後、時間も遅くなってきたのでアルティの事は後日考えることになり、祐二とミラは帰路に就く。


「んー、でも御剣や海藤と違って田中は別にアルティのお嬢さんに酷い事はしないと思うが、それでも問題あるか?」


「大問題だよ。これは本人にしかわからないけど、例え暴行を加えられなくても理由も分からずにプレゼントを贈られたり、知らないところで見られるっていうのは凄い怖い事なんだ。祐二もあの勇者の目は見たでしょ。あんな目をした人に奴隷として買われて四六時中見つめられたら怖いし、精神も参るでしょ。」


「う、確かに、、」


 狂気を宿した田中の目に四六時中見つめられる想像をし、祐二は寒気を覚える。確かに暴力を振るわなくても精神的な破壊力は計り知れないだろう。

 それに田中は舞踏会の日、他の令嬢にも声を掛けていた。もしかしたら彼には何か他の企みがあるのかもしれない


 そして祐二は先程から少し怯えている様子のミラにある事を聞く。


「なぁミラ、答えたくないなら答えなくていいんだが、もしかしてさっきのお嬢さんに話していた内容は実体験なのか?」


「、、うん。僕がまだ娼婦だったころ、一人のお客さんに目を付けられてずっと付きまとわれてたんだ。幸いその時はお店の護衛の人が助けてくれたんだけど。」


 体を震わせるミラに、祐二は自分が迂闊な質問をしてしまったと後悔してしまう。


「ねぇユージ、もしもの話だけど、僕がまたそう言った男に付きまとわれて困ってたらさ、助けてくれる?」


「ん?そんなの当たり前だろ。大事な仲間なんだから。」


 ミラの質問に祐二は即答する。祐二にとってミラの存在は既にニスアやアシュリーと同じくらいに大切な存在となっている。もし彼女が良からぬ輩に絡まれて助けを求めているなら、いくらでも手を貸すつもりだ。そしてもし祐二の存在が彼女にとって不利をもたらすなら、彼女の元を離れる覚悟でもある。


「そっか、、助けてくれるんだ。だったら大丈夫。僕はもう怖くないよ。」


 そう言うとミラは祐二にもたれかかりながら、帰路に着く。少し歩きにくいうえに彼女の存在を意識してしまうので困惑してしまうのだが、ミラが安心できるのなら家に着くまでの間我慢するかと祐二は考えた。

 

感想、ご意見どんどん募集しています。厳しい意見も糧としていきますのでビシバシとお願いします

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