8話:いざ舞踏会へ(その3)
「しかし、王族のアンタが勇者にあんな真似をしてよかったのか?」
王城の廊下、これから第一、第二王女の勇者税廃止に賛同した者達との顔合わせに向っている中、祐二は第二王女であるソニアに質問をしていた。
舞踏会でのひと悶着、ミラにしつこく付きまとっていた勇者の一人である海藤。そんな彼を黙らせるためにソニアが海藤に無理矢理酒を流し込んで騒ぎを納めたのだが、勇者と触れ合う機会が多いであろう王族がそんな事をしては、勇者や勇者に媚びを売る貴族から目を付けられてしまうのではないか?祐二はそれを心配していた。だが当の本人はそんなことは全くきにしていないと言わんばかりの態度だ。
「ん?心配してくれるのか?」
「まぁ、そりゃ俺が原因なわけだし、」
「ふふ、そうか。だが心配するな。元より私は勇者達から嫌われているのでな。」
彼女の話を聞くと、どうやら勇者税廃止に動く前からソニアと御剣のような面倒事を起こす勇者達は仲が悪かったらしい。
転移当初、御剣達は見目麗しい第一、第二王女である彼女達に言い寄ってきたらしいが、人を見る目には自信がある王女達はすぐに彼らの下衆な性格を見抜き全く相手にしなかったらしい。それで終われば問題なかったのだが、御剣達はしつこく王女達に言い寄った結果、王女達は御剣達に露骨に無視することにした。それでプライドが傷つけられた御剣達も王女達に対し逆恨みに近い感情を抱き、現在険悪な関係になっているらしい。
話を聞き終えた祐二は少し呆れてしまっていた。第二王女の勇者税廃止について詳しく話を聞いた日、”錦の御旗”が見つからなければ王女達が勇者を垂らしこんで傀儡にする計画もあったと聞いたからだ。よくそんな険悪な関係でそんな作戦を考えたものだと思ったが、どうやら御剣達は王女達の事は嫌っていても容姿が優れている為、抱くことを諦めていないらしい。とことん下半身が本体の奴らである。
「それにあの海藤とかいう勇者は、以前私達の寝室に忍び込んで下着を盗んでいったからな。私自身の手で一度奴を懲らしめてみたかった。」
「何やってんだアイツは。」
”勇者の癖に下着泥棒とは”祐二の中で海藤はもはや唯の変態となっていた。
「二人共!そろそろ部屋に着くよ。気を引き締めて!」
二人の数歩先を歩いていたミラが声を荒げる。舞踏会の一件の後、にやけている顔を見られたくない彼女は顔を見られないよう先を歩いている。そんな彼女の態度を怒っていると考えている祐二は、やはり女性の扱いは、まだまだであると言われても仕方ない。
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「お主!私の従者になる気はないか?」
ミラに案内された部屋、そこには国内外の貴族や王族が集まっており、その中の一人であるセイン王国とは別の国出身である貴族の令嬢から祐二は誘いを受けていた。
扉に入った瞬間、いきなり従者になれと言われた事に祐二は驚き、固まっている。そんな彼を見て令嬢の従者であるのだろう初老の男性が令嬢を諫める。
「お嬢様、落ち着いてください。ユーマ殿も困っておられます。」
「しかし爺も見ただろう。勇者相手に啖呵を切る彼の姿を、私はコイツが気に入ったぞ!」
従者と言い合っている令嬢を放っておいて、ソニアが令嬢の紹介をする。
彼女は、エミ・スプリングという隣国の貴族で大陸でも随一の農地を所持しており、魔族との戦争時にも前線に物資を届けるなどの活躍をしていたのだが、和平が結ばれた後は勇者税により農地の一部を勇者と手を組んでいる貴族に売り飛ばさなければいけなくなったり、作物の半分以上が王族や貴族などの有力者に回り、市民達に回らないといった現状に我慢が出来なくなり王女達の考えに賛同したらしい。
そんな彼女が何故自分に従者にしたがるのか?ソニアに確認すると彼女は勇者に従うしかない現状に大分不満を抱いており、そんな中勇者に水を浴びせた祐二を気に入ったのだろうといった返答がきた。
その後、祐二を従者にしたいエミと初老の執事との言い争いも祐二がやんわりと断ることで何とか収まり、第一王女が部屋に現れ自己紹介をする。先程の出会っていた女性が第一王女であることに驚くも今は大事な顔合わせ中だ。騒ぐわけにはいかない。
第一王女を筆頭に皆自己紹介をしていく。セイン王国の貴族、ドワーフが納める鍛冶の腕では他の追随を許さない国の王族の傍系、王女達と長年私的な交友関係を続けてきた隣国の姫、先程の貴族の令嬢と自己紹介が続いていく。彼らの出身国を聞く限りグレーリア大陸にある七つの国の内セイン王国を含む三つの国の重鎮が勇者税廃止に動いているらしい。
そしていよいよ祐二の紹介となったところで、突如第一、第二王女そして他の有力者たちも祐二とミラに頭を下げる。
「ユージ殿、貴方の紹介をする前に私達は貴方に謝罪をしなければなりません。」
「しゃ、謝罪?」
妙な空気になってしまった場に祐二が困惑する中、第一王女は淡々と話を続ける。
「私達は貴方を試していました。」
「試す?」
「ええ、貴方が本当に民の希望になるに値する人物か、私達はそれを見定めていました。」
そして第一王女は詳しいことを語る。”錦の御旗”として祐二が候補に挙がっていたが、他の賛同者、王女達自身もまだ祐二が本当に”錦の御旗”として相応しい人物であるかどうか判断に迷っていた事。そんな中舞踏会で起こった祐二と勇者の諍い、本当なら祐二の正体や王女達の企みがバレるかもしれないため直ぐにでも止めるべきだったが、逆にこれで祐二の人となりが明らかになると敢えて止めなかった事、そして祐二が勇者に水を浴びせ啖呵を切ったところで祐二に”錦の御旗”として相応しい器を持っていると王女や賛同者が判断したことを話してくれた。
「成程、だから第二王女が助けに来るのが遅れたわけか。」
「ええ、その通りです。あの時ソニアも一緒に貴方の反応を確かめていたのです。このような無礼な振舞い誠に申し訳ございません。」
「別に仕方ないさ、いきなり訳も分からない奴を信じろって言っても無理な話だしな。それよりも俺が聞きたいのは別の事だ。」
「はい、何なりと。」
「海藤がミラに言い寄ってきたのもアンタ達が仕組んだのか?わざわざ俺を試すためだけにミラも巻き込んだのか?それだけ教えてくれ。」
祐二の眼には怒りが籠っていた。確かに彼女達が祐二を試そうとするのはおかしい話ではないので、祐二も納得していた。だがその為に他人を巻き込むとなれば話は別だ。舞踏会での騒動の際、ミラは海藤に対して明らかに嫌悪感を抱いていたし、騒ぎが収まらなかったり、祐二が(あり得ない話だが)ミラを見捨てようとしたらとんでもないことになっていたのである。
もし海藤がミラに言い寄ってきたのも王女達が仕組んだものだとしたら、祐二はきっと彼女達を今後信用しないだろう。そんな祐二を見て、第一王女は慌てて訂正をする。
「いいえ、それは違います。確かに貴方を試したのは事実ですがあの騒動は全くの偶然です。それに何かあった際の対策も整えておりました。決してミラを巻き込もうとしたわけではありません。」
自分の目を真っすぐ見つめる王女、そんな彼女を見て祐二も彼女が嘘をついていないことを確信する。祐二は嘘つきがどんな目をするか知っている。嘗て姉を騙し、他人の金で遊び歩いていた男。王女の目にはあの男のような自己保身のための動揺が全くなかったからだ。
その後、祐二の自己紹介が始まり各国の重鎮達と話を進めていく。ドワーフの国の重鎮からはギールから話を聞いたらしくクロスボウについてやたらと質問をされ、エミからは従者にならないかとしつこく切り出されてしまった。
やはり、舞踏会での一件が祐二の印象を決定づけたのだろう。彼らは祐二を民衆の希望になるのに相応しい人物だと認めて好意的に接してくれた。
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「あのさ、言うのが遅れたけど、勇者に言い寄られた時助けてくれてありがとう。」
顔合わせも終えて、舞踏会も終わりが近づいたため、お開きとなり家に帰るため王城の廊下を歩いていると、ミラから突然お礼を言われる。ミラとしては早くお礼を言いたかったのだがどうしても顔がにやけてしまったり赤面してしまったりで、まともに祐二の顔が見れなかったのである。そして落ち着いてきたのがついさっきだったのだ。
「だとしても、もう良い少し助け方があったと俺は思うがな。あれでは勇者だけでなく勇者に従っている貴族や国王に悪印象を与えてしまって、二度と”ランセ大陸出身の貴族ユーマ”の立場はこの国では使えないだろう。感情に身を任せすぎだ。」
一方、海藤達が絡んでくるかもしれないため、護衛としてついてきたギールは短絡的な行動に出たユージを責めている。彼としては国の中枢に潜り込むためにも”ランセ大陸出身の貴族ユーマ”という食客として使える立場を確保したかったのだろう。
「だが、まぁ、あの時動いたことだけは褒められるべき行動だな。もしあそこで動かなければ俺はお前を騎士団に突き出していた所だ。だから、何だ。よくやった。」
「ツンデレ?」
少し顔を赤くし、祐二を褒めるギール。非難して褒めるとは見事なツンデレムーブに祐二は少し変な者を見るような目を向ける。
それから暫く歩いていると王城の出入り口が見えてくる。どうやら勇者達に絡まれることなく帰る事ができると安堵していると、ギールが前に出る。
「どうした急に?」
「シッ!誰かいる。」
”まさか勇者が待ち伏せか!”祐二たちは急いで物陰に隠れる。そして出入り口をみると確かにギールの言う通り、人だかりができており何かを話している。
女性が数人で男性が一人、女性達はとても服とは言えないボロ布を纏っており、胸や局部はさらしと褌で隠している。祐二は彼女達に見覚えがあった。御剣達とフェストニアで初めて会った時と今日の舞踏会でだ。彼女達は勇者のご機嫌取りの為に使用人として国から売られた貴族の令嬢達だ。
一方の男性は、身なりの良い服に身を包んでいるが頬がこけて肉体もやせ細っており、何処か不健康な印象を与える。
「あれは田中か!?」
女性達に覚えがある事から、男性は海藤や如月、美丘といった連中を祐二は想像していたが、実際にそこにいたのはクラスメイトの一人であり、オタクとして有名な人物。田中敏行だった。
祐二も特撮などが好きで多少の交流があった人物だが、大人しい性格ながら自分の好きな物にはとことん夢中になると言った印象だった。
そんな彼は今、複数の元貴族の令嬢達に必死に何かを語り掛けている。祐二がスキル”聴覚強化”を発動し、会話の内容を聞き取る。
『だから、大丈夫だよ!僕が絶対に助けてあげるから、もうあんな奴らに媚びを売る必要はないんだよ!』
『は、はい。』
『僕なら、アイツらみたいに酷い事はしない!絶対に君達を大事にするよ!』
『え、ええ』
話の内容を聞く限り、田中は御剣達に虐げられている彼女達を救おうとしているらしいが、田中は何処か何かに取り付かれているように言葉を発し、その目は彼女達に向けられているようでいて誰も見ていない。
令嬢達は、そんな田中が気持ち悪いのか、一歩引くように距離を取っている。
「う~ん。あの勇者危ないかも。」
「ミラ?」
物陰から様子を伺っていたミラが言葉を発する。田中に対して”危ない”と発言する彼女に理由を聞こうとするが、田中達がこちらに向ってきて隠れるのに必死になって続きを聞くことはできなかった。
いつも感想ありがとうございます!これからも精進していきますので今後ともよろしくお願いいたします!
また、誤字報告などもとても助かっております。




