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俺TUEEE勇者を成敗 ~俺にチートはないけれどもチート勇者に挑む~  作者: 田中凸丸
なりあがりたい勇者と奴隷の少女
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5話:特訓の日々

「大丈夫?ユージ。」


「な、何とか。」


 夕飯時も過ぎた深夜、裏路地にある一軒家で倒れている祐二をミラが開放している。此処は嘗てミラが住んでいた家で、第二王女やギールと連絡が取りやすいという理由で、現在二人は此処で暮らしている。


「そんなに特訓キツイの?」


「何のこれしき、勇者に勝つためには、、」


 住み始めた当初、二人きりで暮らすことに祐二は緊張していたがギールとの特訓が始まってからはそんな事を気にする余裕は無くなっていた。


「えーっと、昨日が剣で、今日は槍だっけ?」


「応、それで明日が弓だ。」


 祐二を鍛えるために始まったギールの特訓。祐二も嘗て勇者に勝つために数か月程、集落で様々な人達に鍛えてもらったが、ギールの特訓はその比ではなかった。

 

 特訓の場所は王都から少し離れた場所にあるギールが所持する廃墟で行うのだが、まず午前中は体力づくりや筋力の向上がメインの特訓で、この時点で祐二が今まで行ってきた特訓を超えていた。

 足や腕に罪人が着ける鉄球を付け、更に鎖を巻き、走ると言う内容だ。しかもペースは落とさずにだ。それ以外にも鉄球を入れた井戸を何度も持ち上げたりする訓練も行った。


 そして午前の特訓が終わると小休憩を挟み、午後の特訓が始まる。午後の特訓の最初は武器の扱い方のレクチャーだった。ギールと向き合い、実際に彼に打ち込んで使い方を学ぶという方法だった。

 此処で意外だったのは、彼の得物だった。祐二は当初ギールが剣を持っていたことから、彼の武器は剣だと思っていたがそれは違った。

 ギールはありとあらゆる武器で、超一流の腕前を持っていたのだ。勿論祐二しかもっていないクロスボウなどは当初扱えなかったが、試しに渡してみたところ翌日にはあっさりと使いこなしていた。そして彼に何故複数の武器を扱う特訓を行う理由を聞いたところ、


「戦いではいつ武器が壊れるかわからんし、望み通りの武器が手に入るかもわからん。」


 という答えが返ってきた。確かに彼の言う通り王国のバックアップを受けている勇者と違い、自分は碌なコネもないのだ(一応、王女達から協力も申し込まれているが、それでも表立って支援はできない状況だ)。


 そしてこの訓練でギールは祐二をひたすらボコボコにした。祐二の武器の扱い方に関してレクチャーはするものの基本的に「体で覚えろ」といった内容で容赦なく鍛えてくる。


 例えば剣の訓練。


「剣を腕だけで振るな!体全体で振れ!剣を体の一部と思え!軸がぶれてるぞ!」

 と言いながら、祐二に木剣を打ち込み、槍の訓練では、


「槍は突くだけじゃない!払う!斬る!あらゆることが出来る!」

 と言いながら、祐二に槍を打ち込んでくる。


 おかげで祐二の体は青痣だらけになったが、まだ終わらない。これらの特訓が終わった後は実戦の訓練だ。


 祐二はフル装備、ギールは木剣一本と言った状態で戦うと言った内容だ。勿論実戦を想定した特訓なので不意打ちの有りなのだが、悉く通用しなかった。クロスボウや吹き矢といった攻撃も躱され、彼の攻撃を”変わり身”で避けようとしても避けた先にギールの攻撃が来るのだ。ギール曰く祐二の戦い方は「相手に自分が次にどのように動くか教えている」といった戦い方らしい。


 この実戦の特訓が終わるころには、青痣を超えて紫色の痣だらけになるのだが、これでもまだ終わらない。実戦の特訓を終えた後には勉強の時間だ。国の歴史や薬学、各国の戦術の違いやスキルについてなどを鞭を片手に持つギールから頭に叩き込まれた。ただこの勉強で一つ良いことがあった。何とギールが持ってきた参考書に火薬の作り方が乗っており、さらに王家が贔屓にしている錬金術師が所持していることも判明したのだ。これで銃が使えるようになる。


 早朝から始まり、深夜に終わるギールのスパルタ特訓。終わるころには祐二はスープを流し込むくらいしか体力は残っていなかった。


「本当に大変そうだね。その特訓。疲れてるんならマッサージでもしてあげようか?」


「いや、大丈夫だ。このくらいで泣き言をいうようじゃ、絶対に勇者には勝てない。」


 明らかにボロボロなのだが、それを隠して気丈に振舞う祐二にミラが心配そうな顔をするが、言葉には出さない。男は時に強がりたい生き物であることを彼女は知っているのだ。


 その後、少しだけ話をし、お互いに寝る為に個別の寝室に移動しようとするのだが祐二が何故か動かない。心配になったミラが祐二の顔を覗き込むと祐二は寝ていた。恐らく会話の途中で限界が来てしまい、そのまま眠ってしまったのだろう。


 幸い彼が眠っているのはソファーなので、起きた時に体が痛むという事はないはずだ。ミラは祐二に毛布を掛けると寝室に向おうとするが、途中で何かを閃いたのか自分もソファーに座り、祐二に膝枕をする。そして自分に身を任せている祐二の頭を愛おしそうに撫でると一言呟く。


「カッコつけ♪」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「ハァハァ、、」


 ギールとの特訓三日目、午前の体力トレーニングを終えた祐二が息を切らす。今日も今までと同じように手足に重りを付け、体に鎖を巻き走り回ったのだが、やはりキツイ。一時間の小休憩を挟んでいるのだが体力が回復する兆しはない。


「フハハハ、情けないぞ!この程度の訓練で音を上げるとは、やはり貴様に”錦の御旗”は務まらん、ハァハァ、、」


「お前も息切れしてる上に足がガクガク震えてんじゃねえか。ゼエゼエ」


「馬鹿者!これは武者震いと言うやつで、オロロロロ。」


「吐いてんじゃねえか!」


 祐二の少し離れたところで、同じ特訓をしていたグリードが溜まらず吐くと、それを見て第二王女が注意をする。


「おい、グリード。いくら特訓がきついからと言って人前で吐くなど、、オエエエエエ!」


「あんたも吐いてんじゃねえか!」


 凛々しい女騎士が、吐瀉物をまき散らすという一部の特殊性癖の人間には興奮するような状況だが、生憎祐二はいたってノーマルな性癖なのでむしろ引いている。取り敢えず今日はこの二人には近づかないようしようと祐二は心に決めた。一方のギールは同じ特訓をしていたはずなのに息切れ一つしていない。


 ギールとの特訓に何故第二王女とグリードがいるかと言うと、ギールが祐二を鍛えると話を聞いたとたんに第二王女が「近衛騎士に鍛えてもらえるとは中々ない機会だ!」と無理やり同行し、何処からか話を聞きつけたグリードが「私こそが”錦の御旗”にふさわしいことを証明して見せる!」と第二王女と同じように無理やりついてきたからだ。だが何とか特訓に耐えている祐二に対して、二人は予想外の特訓の厳しさに若干心が折れかけている。それでも必死についてきているのは、祐二、第二王女、グリード、それぞれがそれぞれに負けたくないという思いがあるからだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 午後の第二の特訓、現在廃墟の外の敷地でギールが三人を相手に今日の訓練の内容を説明しており、三人は膝を組んで話を聞いている。尚祐二は若干酸っぱい匂いがする二人から離れた位置におり、ギールも二人から離れた位置にいる。


「今日は弓の訓練だ。」


 ギールがそう言うと、祐二に弓を投げ渡す。渡された弓は祐二が今まで使ってきた。狩猟用の弓とは異なり、黒一色の小型の弓で持ち手の部分にナックルガードのようなものが着いている。


「試しにそれを引いてみろ。」


 ギールに言われた通りに弓を引くと、これまで使ってきた弓とは異なり大分弦が重く、体勢を整えるのに時間が掛かってしまった。


「こいつは、重いな。」


「王都の弓兵部隊の中でも一部のエリートが使う特別仕様の弓だ。扱いは難しい分、威力は折り紙付きだ。あそこにある三枚の板を適当に投げてくれ。」


 彼らから少し離れた位置にある円盤状の三枚の板。祐二はそれを拾うと適当に宙に向って投げる。するとギールが手早く矢筒から三本の矢を取り出し、瞬く間に三枚の板を貫く。貫かれた板は真っ二つに割れており、その威力の高さを物語っている。


 一応、祐二も矢を連射することはできるが同じ弓を使ってできるかと言えば否だ。あれほど重い弦を引いて狙いを定めて連射するなど今の祐二ではできないことだ。


「最低二枚、今と同じように的を射ることが出来るようにするぞ。」


 それから午後の特訓が始まったが、案の定全員まともに当たらない。他の二人はまともに狙い撃つ事が出来ず。祐二は何とか的に当たるが、体勢を整えてから狙い撃つまでに時間が掛かり的が地面に落ちてしまい、一枚当てるので精いっぱいだ。

 だが、ギールは一切妥協を許さず、三人を扱いていく。その後フォームの改善やレクチャーを受けていく事で王女とグリードは一枚、祐二は地面に落ちるギリギリで何とか二枚に当てることに成功した。


 本来なら、この後は実戦の訓練なのだが、今日は異なり弓を使った別の訓練を行うことになった。訓練の内容は廃墟の中に幾つか小さな投石器を仕込んだ的が仕掛けてあり、的が石を放つ前、もしくは放った後に避けて的を射ると言った内容で、弓使いとの戦いを想定した内容だった。


「常に指には予備の矢を挟んでおけ、自分自身を矢筒としろ。」


 そう言いながら薄暗い廃墟の中、祐二の後を着いていくギール。彼は祐二のアドバイザーとして祐二に弓を使った戦い方を教えている。


「常に感覚を研ぎ澄ませ、スキルだけじゃない。五感の全てを使え。」


 彼の言う通りにスキル”聴覚強化”だけでなく、匂いや足先や肌の感覚、すべての感覚を研ぎ澄ませる。やがて足先に伝わる床の感覚に違和感を覚え、そして耳が縄を引き絞るような音を拾う。


 ”そこか!”祐二はとっさに回避行動を取る。すると祐二の顔面すれすれを小石が飛んでくる。そして薄暗く目がよく見えない中、音のした方向へ矢を放つ。矢は音のした方向へ飛んでいき的を貫く。


「フー、フー、どうだよ?」


「フム。」


 見事罠を避け、的を射抜いた祐二はギールに感想を聞くが、その瞬間祐二の頭に衝撃が走る。別の的から放たれた小石が当たったのだ。幸い石は袋に包まれており、出血などはなかったが祐二はその衝撃で気絶してしまった。


「油断大敵、明日はもっと厳しくするか」


感想、ご意見どんどん募集してます。

別作品も投稿していますので興味を持って読んでいただけると幸いです。


「魔法を使えない僕の職業が実は魔法使いをボコボコにする仕事なのはおかしい話ではない」

https://ncode.syosetu.com/n9129fy/

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