4話:彼は弱い、だから鍛えてやる
「成程、アンタが王族の人間で勇者税を廃止したいっていうのは分かった。」
祐二と第二王女の戦いから数時間後、あの後彼らは場所を変え、今はミラが嘗て住んでいたという家で第二王女の話を聞いている。
今この場にいるのは、祐二、ミラ、第二王女、ギールの四人である。当初はグリードも着いていこうとしたのだが、彼がいては話が進まないと第二王女が帰るように命令したのだ。
そして現在、祐二は第二王女から彼女達が勇者税廃止に向けて国王に内緒で動いている事、その活動の象徴に”錦の御旗”となる人間を探しており、ミラがその候補として祐二を見出したことを王女から聞いている。
「だから、ミラはやたら俺に近づいたり、庇ったりしていたのか。漸く納得がいったよ。」
「うん、ごめん騙すような真似をして、、」
「いや、別にそれは気にしてないさ。元から何か考えがあって近づいてたのは知ってたし。」
ミラの謝罪を祐二は笑い飛ばす。彼女は申し訳ない顔をしているが、祐二としてはむしろ王都に着いてすぐに騎士団に突き出さなかっただけでもありがたいのだ。ミラと出会ってまだ一週間と少ししか経っていないが、それでも彼女が悪意をもって人に隠し事や嘘を吐くような人間ではないと祐二は考えている。
「所でそろそろ本題に入りたいのだが、話を進めても良いだろうか?」
「ん?ああ、済まなかった。どうぞ。」
「うむ、では早速だが我々は貴殿の力を借りたい。どうか”錦の御旗”として我々に協力してくれないか!?」
「断る。」
第二王女の懇願をあっさりと断った祐二に、周りの面々は驚く。第二王女達は祐二も苦しむ民の為に立ち上がったと考えており、志を同じとするならば必ず協力してくれると考えていたからだ。
「な、何故だ?理由を聞いても?」
「生憎俺は、いきなり切りかかってくる騎士やそんな部下を持つアンタをいきなり信じられるほど間抜けじゃない。」
「そ、それは」
「それにアンタの言葉を疑う訳じゃないが、王族にとっては金が集まれば嬉しいはずだろ?なのに何でわざわざ勇者税を無くすような真似をする?」
祐二の問いに対して、王女は黙ってしまう。前者の指摘に対してはグリードの暴走や王女の悪癖が重なってしまった結果で素直に謝罪するしかないが、後者の指摘は純粋に民を想っての事なのだが、祐二からしたら王族とは勇者に怯えて”勇者税”を継続するような臆病者に見えて仕方がないのだ。そんな臆病者が”勇者税”廃止に向けて動き出すと言われても、いまいち信じられない。むしろ一緒に”勇者税”で遊び歩く方がよっぽど楽だろう。故に祐二は王女の申し入れに対して断ったのだ。
「まぁ一応、俺を騎士団に突き出したりしないことから、敵ではないことは分かるよ。でも悪いがいきなり協力はできない。暫く考えさせてくれ。」
「う、うむ。前向きに検討してくれると助かる。」
それからは互いの連絡先を交換して、後は第二王女達が帰り祐二たちは宿屋に荷物を取りに行くだけだったのだが、そこで近衛騎士、ギールが手を挙げて発言をする。
「姫様、ユージ殿、此処で別れる前に一つ提案があるのですが聞いていただけますか?」
「「提案?」」
「ええ、私いえ俺にユージを鍛えさせてください。」
「鍛える?」
突如、妙な発言をしたギールに周りが注目するが、彼は気にせず話を続けていく。
「先刻の姫様とユージの戦いを見ていましたが、正直彼では勇者と戦うには力不足です。不意打ちでなら勝てるでしょうが、勇者も馬鹿ではないですし、いずれ通用しなくなるでしょう。それに彼自身も力不足を感じているようですし。協力関係を築くかはまだ分からないとはいえ、彼に死なれるのも俺達にとっては避けたい事です。でしたらユージを鍛えながら、彼の信頼を得るのはいかがでしょう。彼は強くなるし、俺達の人となりも知ってもらえます。損ではないはずです。」
ギールの言葉に祐二が苦虫を噛み潰したような表情をする。確かにギールの指摘通り、勇者と正面から戦って勝てないことは祐二自身が一番知っている。だから御剣と戦った時は不意打ちに徹していたのだ。
「でもアンタに鍛えてもらったとして、俺は勇者に勝てるのか?」
「勝てるかどうかはわからん。だが少しはまともに戦えるようになるはずだ。」
そういうとギールは腰の剣に手を掛ける。次に瞬間、祐二の目の前には剣を抜いたギールがその剣を祐二の首筋に当てていた。
まったく動きが見えなかった。今のは何かのスキルか?祐二がそう考えているとギールの口から驚きの言葉が出てくる。
「言っておくが今のはスキルではない。純粋な鍛錬による技だ。」
「それはつまり、俺も鍛錬すれば使えるって事か?」
彼の言った言葉に祐二は体が震える。それはつまり生まれによって左右されるスキルとは違い、今の技は誰でも使えるという事だ。
異世界に転移する前、ニスアがスキルが無いからと言ってその技が使えないわけではないと言っていたが、それを体現している人物が目の前にいたのだ。
「使えるかどうかは、お前の努力次第だがな。ちなみに俺は、王女の近衛騎士として勇者達の戦術指南も行っていた。故に各勇者の癖なども把握しているし、俺に勝てないようでは勇者に勝つなど夢のまた夢だぞ。」
「ハッ、上等だよ。やってやる!」
今の自分に足りないものを全て兼ね備えている者に鍛えてもらう。これほど助かることはない。祐二は彼の提案を受け入れ、教育を受けることにした。
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・おまけ
王女達が分かれてから、祐二達は宿屋に戻っていた。王女が騎士たちを退散させたと言っていたので荷物を取りに来たのだ。
だが、宿屋に戻ると女将は慌てた様子で祐二に話しかけてくる。
「ちょっと、アンタあれ一体何なんだい!」
「あれって?」
「騎士達がアンタ達の部屋に入って荷物を漁っていたら、急に倒れて動かなくなったんだよ!それで別の騎士がその騎士達を運んで行って大騒ぎだよ!」
女将の言葉を聞いて慌てて、自分達の部屋に戻るとそこは酷い有様だった。祐二やミラの荷物が鞄や籠から出され、あちこちに散らばっている。そんな中祐二が地面に転がっている一つの瓶を見つける。
「これは、成程騎士達はこの瓶の蓋を開けたんだな。」
「何それ?」
「睡眠薬だよ、揮発性が高くて瓶を開けて匂いを嗅ぐだけでもダメなんだ。」
恐らく騎士団は荷物を調べている途中、怪しい薬としてこの薬を調べて蓋を開けたところ匂いを嗅いで眠ってしまったのだろう。そして倒れたという訳だ。
その後、窓を開け空気を喚起しながら、荷物を片付けていると先程と同じように中身が揮発した薬の瓶を見つけるが、祐二はその瓶に見覚えが無かった。
「ん?何だこの瓶?」
「どうしたのッて、、、だめぇぇぇ!、それ返してえええ!」
顔を真っ赤にしたミラが祐二が持っていた瓶をひったくると即座に自分の鞄にしまう。
「ど、どうしたんだミラ、その薬ミラのなのか?そんなに慌てて中身は一体何だったんだ?」
「う、うん。この薬は僕のだけど、中身はええっと、、、」
「いや、別に言いたくないなら言わなくていいが。」
ミラの反応から聞かれたくない事の類だと察した祐二は、続きを聞かなかったが、それで正解だったかもしれない。
ミラが持っていた薬、その正体は強力な媚薬だったのだ。揮発性が高く、蓋を開けて置いておくだけでも発情し、性別にかかわらず興奮してしまうという代物だ。
別にミラはこの薬を使って祐二を誘惑しようとしたわけではない。ただ犯罪組織の一員として働いていた際、組織の先輩から「将来、惚れた男がヘタレだったら使え」といって渡されて処分する機会が無かっただけだ。またこの薬は、精力増強と言う一面もあり、後継ぎに悩む貴族に高く売れる為、いざという時に売って路銀にしようと思っていたのだ。
何となく気まずい雰囲気のまま掃除を終えた祐二とミラは、女将に迷惑を掛けたことを詫び、ミラが嘗て住んでいた家に向う。王女との連絡も考えてミラの家に住んだ方が都合がよいと考えたからだ。
この時、ミラは気づいていなかった。密封された部屋で睡眠薬で倒れ、揮発した媚薬を取り込んだ男所帯の騎士団がどうなってしまうのかを。
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「体調はどうだ?気分は悪くないか?」
「ああ、すっかり元気さ。」
騎士達の宿舎で、倒れていた騎士達と解放した騎士達が軽く話し合っている。倒れた騎士が言うように体に不調はないのだろう。倒れた騎士は大げさに腕を振る。
「いや、本当に調子がいいんだ。それどころか体が熱くなってたまらないんだ!そういえば副騎士団長は?」
「ああ、グリード副騎士団長は今日は実家に泊まるってよ。」
「そうか、残念だ。あの肉体美をこの目に焼き付けたかったのに。」
息を荒げながら、急に変なことを言い出した同僚に開放した騎士達は違和感を感じる。周りを良く見渡すと他の倒れた騎士達も息が荒くなっている。
「お、おい。どうしたんだよ急に変なこと言いだして?やっぱ、調子悪いのか?」
「「だめだ、体が熱くなってたまらん。俺はもう我慢できん!」」
倒れた騎士達はそう言うと服を脱ぎだし、他の騎士達を獲物を見るような目で狙いを定める。恐怖を感じた他の騎士は逃げ出そうとするがもう遅い。
「やらないか?」
「え?」
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後日、男所帯で出会いが無いと嘆いていた騎士達に恋人ができた。もっとも男同士だが、そしてやがて彼らは独立して”薔薇の騎士団”として、一部の女性たちに人気が出たという。
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別作品も投稿していますので興味を持って読んでいただけると幸いです。
「魔法を使えない僕の職業が実は魔法使いをボコボコにする仕事なのはおかしい話ではない」
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