2話:王都到着そして逃げる(その2)
「捕らえろ!」
騎士団のリーダー格の男が叫ぶのと、祐二が動くのは同時だった。
「ミラ、口を塞げ!」
祐二が地面にボールのようなものを投げつけると、それは破裂し中身の粉を周りに撒く。そして周りの騎士達は粉を吸い込み、むせ始める。
祐二が投げたもの、それはスレーヤから教えてもらった特製の催涙薬だ。少しでも吸えば、涙や鼻水が止まらず下手をしたら呼吸不全になる代物で粉を吸い込んだ騎士達は、ろくに動けずに逃げ出す祐二とミラを追うことはできなかった。
騎士達から逃げて数十分、二人は今裏路地に隠れて様子を伺っている。
「今の所、追ってくる様子はないな。ミラは大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ。」
「しかし、いきなり騎士団に目を付けられるとはな。まさか正体がバレたのか?」
祐二の言葉にミラは顔を曇らせてしまう。祐二が鬼面の男であると王女達に伝えたのはミラだからだ。当初の計画では、王女の部下と穏便に接触を図るはずだったのだが、何処かで手違いがあったのかそれとも王女に敵対する者の密告によって祐二の正体がバレてしまったのか、祐二が強盗の容疑者として追われることになってしまい、彼に迷惑を掛けてしまった。
「何とか逃げることはできたけど、これからどうするか?荷物も殆ど宿に置いてきたし。」
現在の祐二とミラの装備は、祐二が弓とクロスボウそして魔物の解体に使う折り畳みナイフ、後は痺れ薬など少量の薬だけだ。一方のミラも大型のナイフと小型の盾と、王都の騎士団を相手にするには心許ない。
それ以外の装備、祐二が鬼面の男として活動した際に使っている道具(武器を内蔵した籠手や多くの毒薬や劇薬、鬼の面など)は宿に置いてきており、宿に戻ろうものなら騎士たちに捕まってしまうだろう。
「取り敢えず、先ずは逃げる事か、ミラ悪いけど旅の同行は此処までだ。」
「え!どっどうして!?」
「どうしても何も奴らの目的は俺なんだし、ミラを巻き込むわけにはいかないだろ。それに宿の荷物を調べられたら俺が指名手配犯だってこともバレちまう。そうなったら下手したら死刑だ。ミラは俺に脅されたとか、たまたま同行したとか、そう言えばいいさ。」
「だ、駄目だよ!そんなの!だってユージが騎士に追われたのは、、、」
何かを伝えようとするミラに祐二は続きを促そうとするが、突如表から大声が聞こえてくる。慌てて表通りを見るとグリード率いる騎士団が町民を蹴散らしながら祐二達の方へ向ってきていた。
「なっ!マジかよ!どうやって俺達を追ってきた?」
「多分、騎士団の中に”追跡”のスキルを持っている奴がいるんだと思う。”追跡”のスキルを持っていると目に見えない足跡とかも追えるから。」
ミラのいう事が本当ならば、祐二はどこまで逃げても無駄という事になる。何とかしてこの状況を打開しようと祐二は考えるが、その間にも騎士団はどんどん近づいてくる。
有効な策が思いつかないまま、”諦めて捕まるか”と考えていた祐二だが、突如ミラが祐二の手を引いて裏路地の奥へ走り出す。
「ユージ、こっち!こっちに行けば逃げられる!」
「逃げられるって”追跡”のスキルは目に見えない足跡を追いかけられるんだろう?」
「うん!でも”追跡”で追う事ができるのは地続きの道のりまでなんだ。途中で川とか入ったり、馬車に乗ればもう追う事は出来ないんだ。」
そう言って裏通りの奥を進んでいくと水路が見えてきて、その水路を二人でジャンプして超える。これで暫くは追ってこれないが、騎士団も馬鹿ではない直ぐに水路を飛び越えたと気づくだろう。
「助かったよミラ。ごめん俺のせいで巻き込んだのに、でもお陰で逃げる方法が分かった。後は俺一人で何とか逃げるよ。」
「それなんだけど、裏路地の奥まで進んでいくと僕が昔住んでた家があるんだ。先ずはそこに行って今後について話さない?」
ミラの提案に祐二は困惑する。確かに彼女の申し出はありがたいが同時に理解できないところもある。騎士団の目的は祐二であり、ミラは騎士団に襲われかけたが、それでも祐二に巻き込まれた形であるのは変わらない。本来なら祐二を糾弾してもいいはずなのに、それどころか祐二を助けようとする。
まるで祐二の傍で彼を守ることが仕事であるかのように。
祐二は彼女の事をあまり知らない。当たり前だ。出会ってまだ一週間と少ししか経っていないのだから、それでも彼女が何か考えが有り祐二の傍にいる事は分かっていた。
「なぁ、ミラ、お前の目的は一体何なんだ?普通騎士団に追われてる男を助けはしないだろう。犯罪の片棒を担ぐようなものなんだから、それにさっき言おうとしていた事、それは一体何なんだ?」
祐二からの質問に対して、ミラは俯いてしまう。王女と祐二の協力を取り付けるなら、彼女の正体と目的は祐二に明かすべきだろう。だがもしそれを明かしてしまった場合、現状に追い込んだのがミラだと祐二に知られてしまった場合、彼はミラをどのような目で見るのだろうか?
裏切り者を見るような目で見るんだろうか?それとも薄汚い物を見るような目で見るんだろうか?汚れた経歴を持つ自分を一人の人間として見てくれる彼にそのような目で見られたくない。ミラは口を閉ざす。
そんなミラの様子を見て、祐二も無理に問うのはやめることにし、ミラの誘いを受け彼女の家へ向かう事にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ミラの家へ向かい始めて数分、騎士団が追ってくる様子はない。ミラの言う通り”追跡”のスキルは地続きでないと追えないらしい。当面の安全を確保した二人だが空気は重い。
それからも会話することなく歩き続けていると、祐二が急に飛び上がりクロスボウを構える。スキル”聴覚強化”を発動して周りの様子をうかがっていた所、とんでもない速さで祐二に近づく者の気配を感じたからだ。
そして先程祐二が立っていた場所に何者かが突撃し、地面を破壊する。幸い目標は祐二だけだったらしくミラに被害は及んでいない。
祐二は武器を構え、砂煙が晴れるのを待つ。やがて砂煙が晴れると、そこには人の身長程の剣とそれを手にする仮面をつけた騎士がいた。仮面で顔は分からないが体型や髪形から女だという事はわかる。
「ほう、私の”突撃”のスキルを避けたか、流石は”錦の御旗”候補だな。うんうん戦い甲斐がありそうだ。」
「お前はさっきの騎士団の仲間か?」
「ん?いやいや違うぞ。私はさっきの騎士団とは関係はない。いや一応関係はあるが今は関係ない。所で貴殿に一つ提案があるのだが、、」
武器を構えた祐二に対して騎士は緊張した様子もなく話しかけてくる。祐二としては話を聞かずにさっさと逃げたいのだが、先程の突撃がスキルだとすると祐二の足では逃げられないだろう。
「提案とはなんだ?」
「私と模擬試合をしてくれないか?」
「は?」
「私と模擬試合をしてくれたら、勝敗に関係なく貴殿を騎士団から逃がそう。どうだ悪い提案ではないと思うのだが?」
急に戦えと言われて祐二は困惑する。騎士団に追われている今、見知らぬ相手と戦っている余裕はないのだ。
「悪いがそんな暇はないし、騎士団から逃がすって、お前はそんな事ができるのか?」
「できるとも、実際この一帯での騎士団の捜査は私が中断させているし、今後貴殿が騎士団に追われないようにすることも出来る。」
「そんな話信じられるわけ、、」
「ユージ、彼女の言ってることは本当だよ。彼女にはそれができる。」
祐二が騎士の女を疑っているとミラが騎士を庇うような発言をする。どうやらミラは騎士の女の正体や立場を知っているらしく、騎士の事を信頼しているようだ。
正直なことを言えば、このまま騎士団から逃げ続ける自信もない。今はわずかな可能性でも賭けるしかないのだ。祐二は騎士の女の提案を受け入れることにした。
感想、ご意見どんどん募集してます。
本日から新作も投稿しましたので興味があれば読んでいただけると幸いです。
「魔法を使えない僕の職業が実は魔法使いをボコボコにする仕事なのはおかしい話ではない」
https://ncode.syosetu.com/n9129fy/
こちらは一話2000字から3000字ほどの気軽に読める作品となっております。あともの凄い厨二です。




