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それぞれの反応(お偉いさん編)

「なんという事だ!」


 セイン王国王都の王城の一室、王城の広間で大臣から報告を受けた国王は頭を抱え叫んでいた。扱いに困る勇者に金を与えて、何とか抑えていたところにとんでもない知らせが届いたのだ。

 何でも今朝、エアフの街に派遣した勇者(実際は厄介払い)の部下である騎士が突如帰ってきて、勇者が謎の男に襲われたと言ってきたのだ。しかも民が納めた勇者税や王室が寄付した一級品の装備まで奪われたという。


「何たる事だ。何たる事だ。厄介払いも出来て漸く落ち着けると思った矢先にこんなことが起こるとは!これでもし勇者共が怒り狂って、我が国に剣を向けたらどうするというんだ!」


 周りの部下が不安そうな顔をしているが、国王はそれが目に入っていないのか、ただひたすら喚いている。今、国王の頭の中は勇者達の機嫌を取るための策を考えることで一杯であり、周りを見る余裕などないのである。

 国王が小声でブツブツと呟いてから数分後、国王は顔を上げ、自分を補佐する大臣を含めた部下に指示を出す。


「民から再び勇者税を徴収せよ!そして勇者を襲った男に懸賞金を掛けろ!懸賞金も民から徴収せよ!」


「な!待ってください国王!これ以上民から税金を徴収しては民は暮らしていけません!それに懸賞金も民から徴収するですと!国の宝物庫には、まだ財が残っております。そこから出せばよいではありませんか!民を殺す気ですか!」


 王の突然の提案に大臣は異を唱える。彼は国の財政にも詳しく民が苦しい思いをしている事を知っており、これ以上民を苦しめる事には流石の彼も賛成できなかった。


 だが、勇者に怯えている国王は大臣の言葉など耳に入らないようであり、どんどん話を進めていく。


「民などいくら犠牲になろうと構わん。それよりも勇者の怒りが我らに向かないようにするのだ!」


 最早王には、民を思いやる気持ちなどなかった。彼は唯ひたすら勇者の怒りが自分達に向かないことしか頭にない。

 エアフの街の領主が、御剣に”勇者が暴れまわったら勇者税が打ち切られるかもしれない”と脅しをかけていたが、それは恐らく実現しないだろう。少なくとも今の国王は勇者の力を完全に恐れており、勇者達から金を要求されれば、あっさりと手渡してしまうだろう。(御剣達には知る由もないのだが)しかもその金を自分の懐からではなく、民から出させようとする所から自分を犠牲にするつもりなど毛頭ない小物な性格がうかがい知れる。


 あまりの王の身勝手な言葉に大臣が絶句していると、国王の意見にある人物が異を唱える。第一、第二王女である。


「お父様、勇者税を再び徴収する必要などないのではないでしょうか?」


「な、何を言っているレイア、勇者税は勇者を支援するための金だぞ。それが無くては勇者は活動できないし、彼らが私達に剣を向ける可能性もあるのだぞ。」


「ですが、一部の勇者はその勇者税を遊びに使っている始末。そのようなものに金を払うなど無駄でしょう。それに勇者達もよほどのバカでない限り国を敵に回すような愚かなことはしないともいますが?」


「だ、だが、しかし。」


「それに父上、これ以上民から税を徴収していては民の不満が爆発して王家への反逆を企てるかもしれんぞ?」


「う、うぐ。」


 第一王女であるレイア、自分の騎士団の団長を務めている第二王女であるソニアから反論を受けて国王は口をつぐんでしまう。


 確かに娘たちの言う通り、勇者には金は払いたくはないし、国民が不満を爆発させて反逆を企てるのも遠慮したい。だがそれでも自分の身の安全には変えられない。国王が娘達を宥めようと反論を考えている間に第一王女が話を進める。


「それに話を聞く限り、勇者達は”勇者税”を受け取った後に襲撃された様子、となれば盗まれたのは勇者の責任ではありませんか?わざわざ私達が責任を負う必要はありませんわよ。お父様」


「そ、そうか私達の責任にはならないか。」


 娘から”勇者税”を盗まれたことが自分達の責任にはならないと教えられ、安堵する国王。それにより落ち着きを取り戻し、先程よりはマシな状態で今後について部下と話していくが、実は父の矮小な性格を熟知している娘により、誘導されたとは気づいていない。


 その後、部下達との話し合いにより、勇者税の徴収はなくなり、鬼面の男の懸賞金は国の宝物庫から出すこととなった。懸賞金について国王は最後まで渋っていたが、第一、第二王女が賛成し部下である大臣や他の騎士たちも賛成してしまったため、国王も賛成するしかなくなっていた。


 一見、父である国王の意思を優先しているように見える王女達だが、その実着々と勇者税の廃止に動いている事を知るものは、まだ多くない。

 勇者を恐れ彼らに媚びを売り、国民を顧みない国王。同じく勇者に媚びを売り”勇者税”を横領する貴族や騎士、やがて彼らが今までの報いを受けることは、まだ誰も知らない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「これは困りましたね~。」


 セイン王国にある聖教会の本殿、そこにある隠し部屋の中で一人の男が酒を飲みながら呟いている。暴飲暴食を繰り返した結果であろう膨れた腹と寂しくなった頭髪、部屋にあるベッドには裸の女が気を失って横たわっており、先程まで淫らな行為に及んでいたことが伺える。

 およそ聖職者に見えぬ容姿と行為を行っているこの男こそ、法王に仕え時に意見することさえ可能な正教会の枢機卿である。

 そんな男がなぜ隠し部屋にいるかと言うと、この部屋は表向きは熱心な聖職者として活動している彼が不満を爆発させた際に、その不満を解消させるために作られた部屋だからである。豪勢な食事、酒や煙草、一晩で金貨が何十枚と飛ぶような女、可能な限りの贅沢を集めたこの部屋で枢機卿は日々の疲れを癒している。


 一言でいえば彼は俗物であった。聖職者でありながら富や権力、女を欲し強者に媚び弱者をあざ笑う。だが普段はその素顔を隠し一見真面目に働いているため、本性を知るものは殆どいない。


 そんな彼には今困っていることがある。鬼面の男の存在である。鬼面の男が勇者を襲撃し”勇者税”を奪い、更にその金を民に返還しているという噂が広まっているのだ。この噂は民にとっては嬉しいものだが、彼にとっては非常に困る。もしこの噂が広まれば勇者達の信用が無くなり、”勇者税”を廃止しようとしている第一、第二王女が動き出し、本当に”勇者税”が廃止するかもしれないからだ。


 それだけはどうしても避けたい男だったが、その理由は正教会が召喚した勇者達の信用が失墜することを恐れているわけではない。彼が”勇者税”廃止を避けたい理由、それは彼自身が”勇者税”を横領しているからだった。


「勇者税が無くなってしまえば、もう贅沢はできませんからね~。この贅沢が二度と味わえないなんてそんなの絶対いやですよ。」


 贅沢な食事に高級娼婦を毎日味わう。こんな生活を維持するためには金が要る。その為彼が考えたことは”勇者税”を横領することだった。国民から集められる大量の金、その一部をかすめ取り自分の贅沢に使う。そのような行為をして恥ずかしくないのかと問い詰めたいところだが、彼はこの生活を自分の働きに対する正当な報酬だと考えており、罪の意識などは全くない。


「しかし、どうしたものですかね?そろそろ金が貯まってきて、漸くあの魔族の女を抱けると思ったのに。このまま鬼面の男が活躍していけば、やがて愚民どもが勇者税に疑問を持ちますね。」


 何とかして”勇者税”の存続を考えるが、戦争が終わった今”勇者税”に疑問を持つ者は、聖教会内部にも何人かいる。鬼面の男が活動を続けていく限り、”勇者税”に疑問を持つ者は増えていくだろう。


「仕方ありません。この国で活動することは控えて、帝国に活動の場を移すとしますか。魔族の女を今すぐ抱けないのは不満ですが、()()()()()()()()()()()()()いずれ抱けるでしょう。上手くいけば第一、第二王女も抱けるかもしれませんしね。」


 そう言うと、枢機卿は直ぐ旅の支度を始める。ベッドで気を失っている女は適当に部下にでもくれてやろう。彼らも日々の業務には不満がたまっているはずだ、きっと喜んでくれる。


「そんな事よりも今は急いで帝国に向いませんとね。勇者を妄信しているあの皇帝なら私も歓迎してくれるはずですし、あそこには()()()()()がいますからね。防犯面も安心です。あそこなら鬼面の男がどれだけ活躍しても勇者税は無くなりません。いやむしろより一層活躍してくれれば、、」


 顔に気持ちの悪い笑みを浮かべながら、枢機卿は旅の支度を進める。きっと今彼の頭の中では、誰も抱いたことがないと言われている魔族の娼婦や第一、第二王女があられもない姿になっているのだろう。

 そんな男の姿を見て、彼が聖職者であると思う人間はきっとこの世に一人もいない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「勇者様を襲撃しただと、何たる不敬者だ!」


 セイン王国に隣接する、とある帝国。そこの若き皇帝は部下から勇者襲撃の話を聞き激昂していた。


「世界を救った勇者様に暴力を振るうなど、恩知らずにも程がある!今すぐその男を探し出し、即刻捉えて処刑せよ!」


「で、ですが陛下その男は、セイン王国にて活動を行っており下手に介入すれば外交問題に発展します。」


 部下から問題点を指摘され、皇帝は歯ぎしりをする。恐らく、内心では納得していないのだろう。


「それと、皇帝陛下、先程我が帝国に移住してきた勇者殿から追加の勇者税を要求されたのですが、、、」


「それがどうした。さっさと民から徴収すればよいだろう。」


「で、ですがもう一部の民は財産の全てを勇者税として支払っており、これ以上税を徴収するとより一層民の生活が苦しくなります。事実、草の根を齧って生活している民も出ている状態で、とてもではないですがこれ以上税を納めるのは、、」


「何だと!税を納められないだと!貴様たちは世界を救ってくれた勇者に対して感謝の気持ちが無いのか!それでも人間か!財がないなら作れ!奴隷として自らを売り払ってでも金を用意しろと恩知らずの民に伝えろ!」


 皇帝の余りにも酷い考えに部下が反論しようとするが、皇帝は聞く耳を持たず部下を部屋から追い出す。それから数分後、皇帝の自室に一人の若い女が訪れる。彼女はこの帝国を納める現皇帝の妻であり、夫である皇帝に一言申し入れに来たのだった。


「貴方、今のはいくら何でも無いわ。私達の国を支えている民に奴隷に墜ちろだなんて、彼らが支えてくれているからこそ、今この国は成り立っているのよ。恩知らずはむしろ私達の方よ。」


「貴様こそ何を言っている。この国を支えている?奴らは怯えるだけしか能の無い奴らだ。ならば自分を売ってでも金を勇者様に納めてもらわんと困る。勇者様はこの国を救ってくれたのだからな。それより何故貴様が此処にいる?貴様は勇者様から夜伽を求められたはずだろう?まぁ今は昼だが、貴様はその美しい容貌以外取り柄が無いのだから、さっさとその体を使って勇者様を喜ばしてこい。」


「貴方は、実の妻すらも勇者に捧げようとするの!」


「勇者様が求めたのだぞ。ならば差し出さねばならんだろ?」


 何をおかしなことを聞いているんだ?とでも言いたげな皇帝の表情に妻は絶句する。先の戦争の時から夫は勇者に依存気味だったが、まさか此処までとは思わなかった。最早この国は勇者と勇者を妄信する皇帝によって独裁国家となり果ててしまっている事に絶望してしまった妻は、重い足取りで皇帝の自室から出ていき、自分の体を求めた勇者の元へ向かう。


 帝国へ移住してきた勇者、移住してからは日々賭け事と女遊びに金を使い傍若無人に振舞っている。もし、このまま勇者が自分勝手に振舞い、夫がその言いなりである事が続けば近い将来、帝国は滅亡するだろう。自分が夫に捨てられたことよりもそちらの方に深いショックを受けた妻は窓の外から景色を眺め、呟く。


「鬼面の男、貴方はこの帝国を救ってくださいますか?」



感想、質問どんどん募集しています。

質問に関してはネタバレにならない限り、応えさせていただきますので”感想”にてご質問してください

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