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王女の反乱

 ミラとの通話を終えた後、セイン王国第一王女レイア・セインガルドは様々なことを考えていた。手に負えない勇者たちの事、諦めていた”錦の御旗”が見つかった事、それによりミラに暗殺という最悪の手段を取らせる必要が無くなった事、今後の計画の進め方などだ。

 やがて、頭の中で情報の整理が着くと広い部屋の中、一言呟く。


「嫌な女ですね、私。ねえ貴方もそう思わないませんか。」


「いえ、決してそのようなことは。」


 彼女の質問に答えたのは、二十代前半の男だ。落ち着いた佇まいながらも、その立ち姿には一片の隙も無い。深夜の王女の部屋に王女と一人の男、第三者がこの状況を見たならば、逢引きか男が夜這いを仕掛けてきたと勘違いしてしまうだろう。だが、決して二人は恋人関係ではないし、ましてや男は夜這いを仕掛けに来たわけではない。


 彼の名はギール。王女の専属の騎士で王国でも最強と名高い人物であり、勇者達に戦術指南を行っていた。そんな彼が何故此処にいるのか、それは第一、第二王女が当初”錦の御旗”として彼を祭り上げようと考え、彼に計画を話し協力を頼んだからである。勇者に勝つことが出来る実力を持ち、幼いころからの付き合いであるため彼の誠実な性格が嘘ではないことも分かっているからだ。結果として断られてしまったが、それでも協力はしてくれており、今も極秘の通話中に盗聴されていないか、何者かが襲ってこないか、それを心配し護衛をしてもらっている。


「本当に?世界を救った勇者に恩を仇で返すようなことを企んで、自分を慕ってくれる女の子に汚れ役を押し付けているような女ですよ。」


「勇者が民に苦しい思いをさせているのは事実、であれば遅かれ早かれこの国は崩壊してしまうでしょう。国の崩壊を防ぐためには勇者に代わる希望が必要なのもまた事実です。ミラの件もそうです。王女殿下が彼女を大切に思っているように彼女も王女殿下を大切に思っているのです。ならば貴方が今なすべきことは彼女の思いに応えるべく”勇者税”廃止の為に動き出すことです。ミラの身を案じ立ち止まっている場合ではありません。」


「相変わらず、貴方は優しいんですね。」


 自分を貶めるような発言を否定するギールに、王女殿下は自己嫌悪をしてしまう。彼ならば自分を慰めてくれるとわかった上で敢えて自分を卑下するような発言をしたのだ。”やはり自分は嫌な女だ”第一王女は誰にも言うことなく自分を貶す。


「ねえ、ミラの報告から”錦の御旗”が見つかったらしいですけど、やはり貴方にも”錦の御旗”を頼めませんか?」


「何故?”錦の御旗”は見つかったのでしょう?」


「それでも数が多いに越したことはありません。それにミラの話を聞く限り見つけた”錦の御旗”は正面からでは勇者と戦うには厳しいと思えます。であれば貴方にも”錦の御旗”として活躍し、二人で民の希望になってほしいのです。」


「何度も申し上げたように私にその役目はふさわしくありません。今の私は勇者に()()()()()()()()にも関わらず、立ち上がることも出来ない臆病者です。そのような人間に誰が救えましょうか?」


「ッ!それは貴方が民を巻き込まないために我慢をしているからでしょう!でも今の民は助けを求めています!希望の象徴となる人が必要なんです!ですから、、、」


「それでも、私は”錦の御旗”にはなりません。」


 何度も繰り返した会話、どれだけ自分が懇願しても彼はそれを断る。だがそれは彼が臆病だからではない。

 王女達の計画の目的は”勇者税”の廃止、もしそれを実現できたとして平和に終わるだろうか?否、きっとそうはならないだろう。御剣達は国に剣を向け、彼らにおべっかを使っている貴族も甘い汁を吸おうと反逆を企てるだろう。

 それだけではない、勇者を神の御使いとして崇めている聖教会すらも敵に回すかもしれない。そうなった場合、真っ先に被害にあうのが民衆だ。戦う術を持たない彼らはあっという間に蹂躙されてしまうだろう。ギールは民を守る騎士として決してそのような真似をする訳にはいかないのだ。


 彼とて、勇者には不満がある。いや不満と言う言葉だけでは足らないだろう。恨み、殺意、憤怒、ありとあらゆる憎しみの感情が勇者にはある。今すぐにでも勇者を切り殺したいと考えている。それでも騎士として守るべき人達を危険にさらすわけにはいかないのだ。故に彼は自分の感情を殺すことでそれを抑えている。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 その後、ギールと他愛のない会話をし彼と別れた後、王女は今後の計画と勇者達について考える。


「ギール、何故貴方はそこまで自分を殺せるの?」


 ギール、王女にとっては幼馴染であり、最も信頼のおける相手であり、想い人でもあった。そんな彼が自分の侍女と結婚した時、悲しくもあり、嬉しくもあった。そして彼の妻が勇者に殺されたと聞いた時には、勇者達に問い詰めようとしたがギールに止められた。その時の彼の顔は今でも忘れられない。目には憎しみの感情を灯しながらも、必死に唇を噛んで耐えていたのだ。

 結局その後ギールは勇者達を責めることなく、勇者達も反省することもなく勇者税で遊び惚けるようになってしまった。


 そして勇者が民に苦しい思いをさせながらも遊び歩いている事、自分の想い人を傷つけた事が許せず、王女達は多くの者を敵に回す作戦を立てた。その結果がどうなるかはまだ分からない。それでも民を苦しませる今の状況からは抜け出せるはずだ。


 政治面では第一王女である自分が狸共を相手にする。戦力面では武力に秀でた第二王女が信頼するに足るものを集める。そして”錦の御旗”が民衆を味方につける。必要なピースは全て揃った。もうこれで止まることは出来ない。成功するかどうかわからない、反逆者としての汚名を着せられるかもしれない。だとしても今動かなければ国は崩壊してしまう。

 

 覚悟を決めた王女は、寝間着に着替え明日朝早くに妹である第二王女と情報の共有を図るため眠りに入った。


「ギール、貴方が力を貸してくれたら、、」


 叶いもしない願いを呟きながら。


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