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ミラの正体

今回はミラの話です。

 祐二が御剣達を襲撃し、見事勝利を収めた日。彼の活躍を最初から最後まで鑑賞し、祐二と接触をした女性、ミラ。彼女は祐二に意味深な言葉を継げるとその場を去り、その数日後祐二に旅の同行を申し出た。

 祐二は彼女の素性に疑惑を持っているが己の正体を脅されている以上、旅の同行は拒否できなかった。そんな彼女の正体は、祐二にとって思いもよらない者だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 祐二とミラが初めて接触した日、祐二と別れたミラは娼館には戻らず、この街で世話になっている宿に向っていた。宿に着いた彼女は部屋に入ると鍵を掛け、盗聴の心配がないことを確認すると部屋の鏡に口紅で絵を書いていく。その絵は特殊な魔法陣で扱うには専用のスキルが必要だが、()()()()()()使()()()()()()から扱うためのスキルオーブを貰い、習得しているため問題はない。

 

 やがて、鏡に波紋が浮かび、そこからミラとは異なる顔が現れる。美しいとしか表現できない顔立ち、男ならば涎を垂らして貪るであろう身体つき、女性ならば涙を流して羨むであろう装飾品。彼女こそがグレーリア大陸に七つある国の中で勇者を召喚した聖教会の本殿がある国、セイン王国の第一王女であり、ミラが仕える主である。

 ミラが使った魔法、それは魔法陣を介することで離れた相手と通話を可能とする魔法で、主に諜報活動で使われる。


「久しぶりね、ミラ。無茶はしてない?」


「はい、姫様も無茶はしていませんか?」


 本来、王族相手ならば、このように気軽に話してしまえば即刻死刑であるが、王女はミラの性格を気に入っており特にそのようなことにこだわりはない。

 その後、お互いの近況連絡など世間話した後に本題に入る。


「それで、貴方が連絡を取るという事は、」


「はい、勇者達の今後の扱いについてです。」


「ッ!分かりました。聞きましょう。」


「まず、勇者の篭絡ですけど、これは駄目ですね。確かにあの勇者は僕に夢中になってますけど、完全に力に酔ってる状態です。これじゃ扱いきれないよですね。下手に勇者税を廃止したら暴走して余計な被害を出すのがオチでしょう。」


「そうですか、そうなるとやはり、」


「ええ、暗殺か”錦の御旗”を見つけるしかないですね。」


 ミラの正体、それはセイン王国の第一、第二王女に仕える私兵で現在、王女からある任務を請け負っている。その任務は”勇者税を廃止するために勇者を篭絡若しくは暗殺せよ”という内容である。

 

 勇者の存在、それはセイン王国だけでなく各国でも扱いに困っていた。世界を救ってくれたことには感謝しており、それ相応の礼も弾んでいる。だがそれでも御剣達一部の勇者は身勝手が過ぎた。訓練では騎士を甚振り、城下街では騒ぎを起こす。中でも酷いのが勇者税を使って遊び歩いていることだ。

 本来、勇者税は勇者としての活動を支える為の資金であり、遊ぶ為の金ではないのだ。遊びに使われるくらいなら、いっその事廃止したほうが良いのでは?というのが一部国の上層部の考えだった。


 だがここで一つ問題が発生した。御剣達があまりにも身勝手すぎたのだ。もし勇者税を廃止したら彼らは暴れまわり、国に剣を向けるのではないか?勇者の力は一人で騎士団にも匹敵する力、その力が自分達に向けられたら、そのような恐怖が浮かんでしまい、誰も何も言えず国王すらも黙っている状態だった。それどころか一部貴族は勇者に媚びを売り、自分達も勇者税の恩恵を受けようとすらしている。


 ”民を幸せにするはずの勇者や自分達が彼らを不幸にしている。”その状況に我慢できなくなった第一、第二王女は勇者税を廃止するため、ある計画を父である国王にすら黙って実行している。

 それは、勇者を篭絡し自分達の操り人形となってもらうか、それが無理なら勇者を暗殺若しくは再起不能な状態にし、勇者税を払う価値を無くすという計画だ。


 当初、この計画は第一、第二王女が実行するはずだった。彼女たちは容姿に優れており、勇者達も何度か王女達に声を掛けていたからだ。計画を実行している最中に純潔を奪われるかもしれないが、それでも民の幸せにつながるのなら、それでも構わないと王女達は考えていた。

 しかし、そこで彼女達の代わりに計画の実行を申し出たものがいた。それが彼女ミラである。


「申し訳ございません。貴方にこのような役目を押し付けてしまい、本来なら私が行うべきはずなのに」


「やめてくださいよ姫様。僕が自分から名乗り上げたんだから、それに姫様も僕の過去を知ってるでしょ。」


「ですが、それでも、私は貴方に幸せになってほしいと!」


「無理だよ、こんな汚れ切った体じゃ。だったらせめて国の役には立たないと。」


 ミラ、彼女は現在王女達に仕えているが、最初から仕えていたわけではない。むしろ最初は王族の敵であった。

 金を受け取れば、どのような依頼もこなす犯罪組織。それが嘗てミラが所属していた組織であり、彼女はそこで主に暗殺を請け負っていた。

 男を魅了する容姿と肉体、そして相手を静かに殺すことが出来るスキルを持つ彼女に暗殺者は天職であり、彼女もそれを理解している。

 

 ある時は騎士団の団長を殺すため恋人としての関係を築き、営みをした後に毒矢で殺し、ある時は貴族を殺すため豚のような貴族に娼婦として抱かれ、寝静まった隙をついてナイフで殺した。他にも様々な殺しを行ったが、共通しているのは男に抱かれ、男はその代償として彼女に殺される事だった。


 その後王国の騎士団による一斉捜査で組織は潰れ、ミラは能力の優秀さから王女に私兵として雇われることになったのだが、その時にはもう彼女は自分の体や経歴が汚れ切っていることを理解しており、表の世界で生きることは諦めていた。今回の作戦に志願したのもその諦めからだった。


「姫様知ってます?僕の初めての相手?なんと人間ですらない、張り・・」


「ミラ!」


「あ、ごめんなさい。話がそれちゃいましたね。それで、ええっと勇者の篭絡は意味がないってとこまでは言いましたっけ?」


「はい、それで残っているのは暗殺か”錦の御旗”を見つける事、ですが勇者に対抗できる者などいないでしょう。でしたらもう暗殺しか手段が、、」


「そのことで姫様に良い知らせが、見つかりましたよ”錦の御旗”」


「っ!本当ですか!」


 ”錦の御旗”それは当初王女達が考えていた計画だったが、問題があり実行できなかった計画だ。その内容は”勇者税を遊びに使う勇者から金を取り戻し、民衆に分け与える。正義の義賊を民衆の希望として祭り上げ、同時に勇者の信頼を落とし、勇者税を廃止する”と言う内容だ。勇者達は死なずに済み、民衆にも新たな希望が生まれる。現状可能な限りで考えられる。最も良い計画だったのだが、幾つか問題があった。


 一つは勇者に勝つことが出来る強さ、ウルトラレアスキルを持つ勇者に対抗できる人間など簡単に見つかるわけがない。

 二つ目は誠実さ、仮に勇者に勝てたとしても取り戻した金を民衆に分け与える人間は存在するのか?金は簡単に人を変える。勇者税の額の多さから心が揺らいでしまうのではないのか?そうなってしまえば民は希望として捉えずに終わってしまう。


 王女の知り合いにこの二つの条件を満たすものがおり、当初はその者を”錦の御旗”にしようとしたのだが拒否されてしまい、篭絡や暗殺に移るしかなかった。そんな中見つかった新たな”錦の御旗”その話に飛びつかずにはいられない。


「詳しく話を聞かせてください。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そのような方が。」


「はい、勇者や部下の騎士を見事に倒し、勇者税も全額街に暮らす者たちに返還されるでしょう。それに僕の色仕掛けも通用しなかったし、まぁもしかしたら、ただのヘタレなだけかもしれないけど。」


「でしたら、ミラ貴方がすべきことは分かっていますね。」


「はい、”錦の御旗”と接触し、本当にその者がふさわしいかどうか見極めます。すでに鬼面の男の服に香水を染み込ませましたので、匂いを辿れば正体も分かるでしょう。」


「頼みましたよ。」


 それを最後に通信が切れる。ミラは息を吐き、ベッドに倒れると祐二について思いをはせる。


「民衆を救う正義の義賊か、、、絵本の中だけと思っていたけど、本当にいたとはね。」


 王女に仕える前、組織に居た頃に読んだお気に入りの絵本、悪政を敷く領主に立ち上がり、見事に領主を打ち取り、最後は領主に攫われた村娘を助け出し村娘と結婚した義賊の話。幼いころ劣悪な環境の中でいつか自分にも絵本の中の義賊のような人が助けてくれて、結婚して幸せになると信じていた。だが実際はそんな人間はおらず、そのうち諦めて暗殺者の仕事を受け入れていった。


「もし彼と早く出会っていたら、僕のことも助けてくれたかな?」


 もしもっと早く出会えていたら、自分を救って結ばれていたのかな?一瞬そのような考えが浮かぶが、すぐに否定する。


「って何言ってんだ僕は、僕みたいな汚れた女はふさわしくないか。どっっちかって言うと王女様の方がふさわしいかな。」


 様々な男に抱かれ、殺してきた彼女。民衆の為に立ち上がり、希望となっていく鬼面の男。きっと鬼面の男は英雄として祭り上げられていくだろう。昔から英雄と結ばれるのは、一国の王女と決まっている。自分なんかがふさわしいわけがない。ミラはシーツを被ると明日朝早くから鬼面の男の正体を探るため眠りについた。

次回はこの話の続きで王女側の話になります。


感想、意見どんどん募集しています。

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