アシュリーとニスア
今回はヒロインに焦点をあてたサイドストーリーです。
祐二がフェストニアに来てから、ずっと暮らしていた集落。もちろんそこにも鬼面の男の手配書と噂は届いていた。ただ一つ違うのは、人々の反応だ。
エアフの街の人々は鬼面の男の存在に歓喜しているのに集落の人々は喜んではいるものの、どこか複雑そうな顔色をしている。それは勿論祐二がずっと世話になっていた家に暮らしているアシュリーと偶に泊ってくるニスアも同じだった。
今アシュリーの家の居間のテーブルには鬼面の男の手配書があり、それをアシュリーとニスアが向かい合うように見つめている。
「これ、祐二さんですよね。」
「ユージ君だね。」
二人は鬼面の男の正体に気づいていた。いや、集落に住んでいる者全員が気づいていた。鬼面の男は祐二なのだと。
ニスアは事前に祐二から聞かされ、集落の人々は”マグマ・レックス討伐”から雰囲気が変わった祐二を見て気づいていた。
「やっぱり、一人で危ないことしてる。」
手配書を見てため息を付くアシュリー、祐二が旅に出る前日に自分が問い詰めた通り危ないことをしている事に呆れを抱いてしまう。
「でも、噂を聞く限りでは街の人達からはかなり好評みたいですよ。」
「それでも、心配だよ。勇者を襲撃なんてそんなことして、国からも指名手配されて。」
「う、確かにそれはそうですね。」
祐二の行動が多くの人の希望になっている。それは確かにうれしいのだが心配する気持ちはまた別である。そう簡単に割り切れるものではない。
「本当につらい時は戻ってきてくれるといいんだけど、、、」
「多分、難しいですよね。」
伊達に一年も一緒に暮らしたわけじゃない。祐二が自分達に迷惑を掛けないため集落には戻っては来ないだろうと二人は考えている。例えどれだけ彼の帰りを待っていても、祐二がどれだけ帰りたくてもきっと彼は戻ってこない。
「いっその事、私が祐二さんを追いかけようかな?」
「いいんじゃない。好きな人の傍に居たいっていうのは普通の事だから。」
ニスアの発言に対してのアシュリーの返答にニスアは一気に顔が赤くなってしまう。
「な、何を言ってるんですか!私はただ心配だから、祐二さんを追いかけようと思っただけで、べべ、別に祐二さんに惚れているとかそんなんじゃないですよ!」
「その反応が答えみたいなものだけどね。」
「うう、」
アシュリーとニスアの見た目の年齢はそう変わらないが、実際は29歳と16歳で13も離れているのだ。アシュリーにとってニスアや祐二の考えを読み取ることなど朝飯前だ。
「い、いつから気づいてたんですか?」
「ユージ君と最初に出会った時からかな。だってユージ君の無事を知って抱き着いたり、やきもち妬いたりわからない方がおかしいよ。」
確かに自分の行動を振り返ると恋する乙女そのものだとニスアは悶絶してしまう。そしてアシュリーにバレていたという事は、祐二にもバレていたのではないか?と考え、さらに悶絶してしまう。
「アシュリーさんは、今後どうするつもりなんですか?」
「アタシはずっと此処にいるよ。ユージ君の事は心配だけど、帰ってきたときのために居場所を作っておかなきゃ。」
「はう~、何と言う正妻オーラ、敗北感が、」
「それで、結局どうするの?」
アシュリーの質問に対して口を閉ざすニスア、本音を言えば追いかけたい。だが、世界を管理する神である自分が人に過剰に干渉するの神々のルールに反している。
自分はどうすべきなのか?悩んだ末ニスアも一つの答えを出す。
「私も祐二さんを待ちます。」
「追いかけなくていいの?」
「はい、祐二さんが何をするか知っていて、それでも信じて送り出したんです。なのに心配だからと追いかけたら、祐二さんに失礼ですから。私も祐二さんが帰ってきたときの為に居場所を作ります。」
「そっか、ニスアちゃんがそうしたいのなら止めないよ。でもそうなるとユージ君は一人旅か。やっぱり心配だな。」
国に追われながら一人で勇者を相手にする。言葉にすれば簡単だが実際は夢物語といっても問題ないほどの難しさだ。”せめて彼を支えてあげる仲間がいれば”そう考えてしまうアシュリーにニスアが表情から考えを読み取ったのか励ます言葉を言う。
「大丈夫です。人との関わりを断つなんてそんなの無理です。宿にしろ食堂にしろ人とは関わらないといけないんですから、きっと祐二さんの正体を知って支えようと思う仲間もできますよ!」
「うん、そうだね。」
ニスアの言う通りだ。人との関わりを断つことは難しい。生きていこうとするなら必ず人と向き合わなければならない。そうやって人は絆を深めていく生き物なのだから、いつかユージにも鬼面の男として活動する以上人との関りが発生する。きっとその時、敵になるものもいれば味方になるものもいるだろう。もし見方ができたのならば彼を支えて欲しい。アシュリーは願った。
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アシュリーとニスアは知らないが、実はすでに二人の願いは叶っている。祐二が御剣達を襲った数日後、王都行きの馬車で出会った女性。彼女は祐二の正体を知っていながら旅の同行を申し出た。
彼女の存在は祐二にとって、とても重大なものになるのだが、この時はまだ誰も知らなかった。




