13話:勇者を狩る(前編)
今回の話は少し長めになりましたので2話構成とさせていただきました。
御剣達が”観光都市エアフ”の守護を任されてから町の雰囲気は変わった。彼らは自分たちの立場を鼻にかけそれはもう好き勝手に振舞っていた。
酒場では騒動を起こし、賭博場で負けると暴れ、娼館では女性達に暴力を振るう。金を払ってもらってもそれは国の騎士により勇者税として没収されてしまうので、儲けはほとんどない。しかも彼らが遊びに使っているのは民衆から徴収した勇者税であり、市民の生活は苦しくなるばかりであった。
それでも魔物の討伐をしてくれれば助かるのだが、弱い魔物しかいないこの地域では彼等がいなくとも解決してしまうので勇者が動くことはなかった。
本来なら文句を言いたくなる状況で実際、領主は御剣達に文句を言ったらしいがその翌日に領主と領主に使えている騎士全員が重傷を負った状態で発見され、市民は報復を恐れて大人しくするしかなかった。
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「最悪だな。」
観光都市エアフに着き、宿に荷物を置いた後祐二は勇者の噂を集める為、酒場に移動した。人間酒を飲むと口が軽くなり、色々と喋ってしまうものだ。そして近くにいた酔っ払いの集団に声を掛けて勇者について聞いたところ、案の定勇者への不満を吐き出した。
実際、祐二も酒場に行く前に街を散策したが、どこも雰囲気は暗く、繁華街は大きな賭博場や娼館以外は閉まっていた。恐らく勇者達が来るのを恐れているのだろう。
勇者の噂と街の現状をまとめていると、扉が乱暴に開かれ、そこから四人組の男達が入ってくる。先程まで話題に上がっていた勇者であると御剣とその部下の騎士達だ。
勇者はローテーションを組んで街の守護に当たっている。今月は御剣の番だったのだろう、勇者の存在を確認すると彼等の機嫌を損ねないようにと酒場が一気に静かになる。男の給仕が腰を低くし勇者に注文を聞きに行くと、いきなり勇者達は給仕に突っかかる。
「おい、前来た時に居た女の子の給仕はどこ行ったんだよ!彼女を出せよ!」
「そ、それが彼女は現在、怪我をしており自宅療養中でして」
「マジかよ!彼女にお酌してもらおうと思ったのに!」
「まあまあ、いいじゃないですか。勇者様、この後街一番の娼館に行くんでしょ?」
「あー、そうだった。さっき領主から支援金タップリもらったからな、お前らも一緒に来るか?」
『是非とも、ご一緒させていただきます!』
悪びれることもなく勇者税を女遊びに使うことを宣言し、騒ぐ勇者一行。そんな彼等に対して酒場の客は不満や諦め、失望など様々な感情が宿った視線を向けるが彼等は気にもしない。
やがて、酒を飲み食事を終えると御剣と部下の騎士達は料金を払わずに出て行く。
「料金払わなかったけど、いいの?」
「言っても無駄ですよ。むしろ料金を請求したら店で暴れて備品を壊していくんです。だったら大人しくしていた方がいいですよ。」
祐二の質問に対し諦めの感情を返す店主、詳しく聞くと女給も怪我をしているわけじゃなく勇者に絡まれない為に休みを出しているらしい。
「なんで俺達勇者税なんか払ってんだ?勇者達が遊ぶために金払ってんのか?」
「勇者は世界を救ってくれたんだろ?なのに俺達の生活はなんで苦しいままなんだ?」
酒も入っているからだろう。皆勇者に対しての不満を吐き出していく、いつも賑やかな雰囲気の酒場が目に見える程暗くなっていく。
彼等を見渡し、自分の決意を固めると料金を払い祐二は一旦宿屋に帰る。本当なら今すぐにでも御剣達に殴りかかりたいがすぐに返り討ちにあってしまうだろう。
宿屋に着くと荷物の籠の中から様々な装備を祐二は身につけていく。
右手には連弩と一体になった籠手、左手には吹き矢を仕込んだ籠手を付け、両足にも折り畳み式の槍を隠したブーツを履く。腰にはスレーヤ直伝の劇薬や毒薬、治療薬が入った試験管を仕込んだベルトを付けていき、どんな状況にも対応できるようにする。
最後に正体がバレないようにフードを被り、仮面を着ける。この仮面は集落にあった古木を削り作成したもので、鬼を思わせるデザインとなっている。まるでそれは、祐二や民衆の怒りを具現化したように見える。
「よし、行くか。」
可能な限り怒りを抑えて祐二は夜の街に出る。
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観光都市エアフの歓楽街の大通り、いつもであれば夜中のこの時間は書き入れ時であり多くの客や彼らを誘う客引きで賑わっているはずなのだが、今はだれ一人歩かず建物も窓を閉め切っており暗闇しかない。
そんな大通りを我が物顔で御剣達が歩いているとフードを被った男が御剣にぶつかり、倒れてしまう。
「おい、お前ぶつかったのに謝罪もなしかよ!」
「すいません。ボーっとしてたもので。」
「ったく、気分悪いぜ。」
御剣はぶつかった男を蹴とばすと騎士たちを連れて、騒ぎながら娼館へと向かう。
この時彼らは気づくべきだった。誰も歩いていない大通りでなぜ男が歩いていたのか、そして広い大通りでなぜ男が自分にぶつかってきたのか、だが酒に酔い煩悩で頭が一杯の彼らは気づくことができなかった。その結果今晩彼らが今までの報いを受ける事になるとは知る由もない。
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「相手は四人、個別で襲うか」
路地裏に隠れ勇者達を見張る祐二、頭の中で相手のスキルと性格から作戦を組み立てる。下準備はさっき行い、これからが本番だ。
ミスは許されない、改めて彼らのスキルを思い出す。
この二か月間、集落で修業を行っていた祐二だがそれ以外にも情報収集も行っていた。”スキル看破”を持つ太田に勇者と従者のスキルの調査を依頼し、ちょくちょく連絡を取っていたのだ。その結果判明した御剣のスキルは以下の三つ
・極上剣術Lv1:ウルトラレアスキル、最高峰の剣術を扱うことができる。極めた者は大地を裂き、空間をも切り裂くと言われる。
・斬撃硬化LV1:ウルトラレアスキル、斬撃を硬化し放つことができる。剣士の弱点である遠距離への攻撃を可能とし、一方的に敵に攻撃を加えることができる。
・斬撃倍加Lv1:ウルトラレアスキル、放った斬撃の回数を増やすことができる。増やせる倍率はスキルレベルに比例する。
見事に攻撃系のスキルばかり、しかも全てがウルトラレアだ。正面から挑んでは絶対に勝てないだろう。
だが、祐二は太田から御剣のスキルについて詳細を聞いたときある共通点に気づき、そこを突けば恐らく御剣に勝てると考えている。先ほど行った下準備が正にそれだ。
そして他の騎士たちは、ウルトラレアのスキルは持っていないが、全員最低一つはスーパーレアのスキルを持っていることも教えられた。ただし先天的に持っているスキルではなく、王族が保管していたスキルオーブから得たスキルでありレベルも1のままらしい、それでもコモンスキルしかもっていない祐二では正面からでは勝てないだろう。もっとも祐二本人も正面から戦う気はさらさら無いのだが。
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勇者と部下の騎士を見張り始めてから十数分、千鳥足で歩く彼らの足取りは遅い。その中でも一人の騎士は勇者達から十メートル近くも離れており、このままではどんどん離れてしまうだろう。”最初はアイツか”祐二は対象を決めると男の足元に数枚の銀貨を投げる。男は酔いながらも足元で発生した音に注意を向け、音の正体が金であることに気づくと嬉しそうに屈む。
自分の狙い通りに動いた男に祐二は、籠手から吹き矢を取り出し、屈んだことで見えるようになった首元に矢を放つ。矢の先端にはスレーヤ直伝の痺れ毒が塗ってあり、毒を取り込んだら一晩は動けない強力な奴だ。
首元に矢をくらった騎士は、違和感に気づくものの直ぐに毒が回り動けなくなる。倒れようとする男に祐二は”音遮断”を発生させ近づき肩に抱える。騎士の男は助けを求めようとするが痺れで口が動かないため喋れず、”音遮断”を発生させているため御剣達も気づかず歩みを進めてしまう。
祐二は男を裏路地に置き口に猿轡をし手足を縛る。男が恐怖を浮かべて祐二を見るが、祐二は眠り薬(揮発性が高いため吹き矢に塗れなかった)を嗅がせて男を眠らせ、勇者の追跡を再開する。
「まずは一人」
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酒を飲むと尿意を催す。それは異世界でも変わらず、先ほど酒場で沢山酒を飲んでいた勇者の従者である騎士もその一人だ。彼は魔法適正のスキルを持っており、王族から”高速詠唱”という高速で魔法詠唱ができるスキルオーブを譲られることで一流の魔法使いとなっていた。
それからの彼の人生は最高だった。皆自分をもてはやし、女達は自分が声を掛けることもなく寄ってくる。仕事も勇者のご機嫌を取ればよいだけなので楽だ。
そんな自分の人生を振り返りながらも尿意を催した男は、いったん勇者達から離れ路地の隅で放尿を行う。本来街中での排泄行為は犯罪なのだが好き勝手にエアフの町で振舞っていた彼らはそんな事気にもしない。
放尿を終え身だしなみを整えていると突如口に何かが張り付く、それは粘性の膜で口が完全に防がれ呼吸が苦しくなる。急いで剥がそうと手を口元に持っていくと、また粘性の膜が張られて手と口を完全に抑えられる。
魔法を使って剥がそうとするが口はふさがれ詠唱ができず、手もふさがれ魔法陣が描けない。焦っていると男が近づいてくる。急いで男に助けを求めようと男の顔を見るが、その瞬間恐怖する。近づいてきた男の顔は人間ではなかったのだ。額から二つの角が生え、口元にも鋭い牙が生えている。以前話で聞いたランセ大陸に存在する魔物”鬼”にそっくりである。”鬼”は人の手足を食いちぎり恐怖にゆがんだ顔を見ながら人を喰らうという。今襲われたら確実に自分は死んでしまう。男は恐怖から意識が途切れて気絶する。
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「勝手に気絶したな」
騎士の男に近づいた男は祐二であった。勇者達から離れ一人になったところに奇襲を仕掛けようとしたのだが、顔の仮面を見た瞬間男が気絶したのである。まぁ手間が減ったと考えればいいのだろう。
「魔法使い用の装備も問題ないな」
騎士を混乱させた粘性の膜も祐二が使用したものだ。クモ型の魔物が出す粘性の糸をスレーヤと一緒に研究し再現したもので、これを連弩の先につけ男の口と手に放ったのだ。
魔法を使うには”詠唱”か”刻印”が必要だ。
”だったら、手と口を塞げば魔法は使えないのではないか?”
そう考え、作成した装備は祐二の考え通り魔法を封じることに成功した。
「これで、二人目」
残りは二人、内一人はウルトラレアのスキル持ちの勇者だ。失敗すれば自分の命はないかもしれない。気合を再度入れ、祐二は勇者達を追う。
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