9話:マグマ・レックス討伐作戦
申し訳ございません。今回は諸事情によりいつもより遅れての更新となりました。また今後日曜の17時に更新するのは難しくなってしまいました。それでも毎週最低1話は更新していきますので何卒よろしくお願いします。
”マグマ・レックス”フェストニアに存在する魔物の一種であり、特徴として巨大な体躯を持ち皮膚にマグマのような模様があることから、”マグマ・レックス”と名付けられた恐竜型の魔物である。
スキルとして城の城壁すらも粉砕する威力と勢いの火炎を吐くスキルを持っており、一体討伐するのに銀級の狩人が十数人か、黄金級の狩人が数人必要であり尚且つ全滅になる覚悟が必要である。
そのため、もしマグマ・レックスが人里に降りようものなら狩人組合だけでなく騎士や戦闘系のスキルを持つ者も参加して討伐する必要がある。
そんな災害と呼べるような魔物の群れが現在、観光都市エアフに向ってきている。
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魔物使いの話を聞いた当初、狩人組合は混乱に陥っていた。観光都市エアフの周りにも魔物は存在するが、その多くは強くても鉄級や銀級が数人いれば問題ないレベルだったのだ。そんな中に突如災害級の魔物が現れたのだ、混乱するのも無理はない。
その後、エアフの狩人組合を統括する支部長(元黄金級狩人)が騒ぐ者たちを黙らせ、魔物使いから詳しい話を聞く。
魔物使いは当初、山奥にある渓谷部で魔物を用いた生態調査をしていたらしい。彼は小型の魔物を使役するスキルと視覚を共有するスキルを持っており、そのスキルで人が行けない場所でも情報を得ることができる。
この情報収集による魔物や動物の分布図などを狩人組合に売っており、それで収入を得ていた。
今回も同じように相棒の魔物を用いて魔物の調査を行っていたところ、違和感を感じたらしい。いつもであればその近辺に存在する魔物が一匹も見当たらなかったのだ。気になり調査範囲を続けると大量の魔物の死骸を発見し、その跡を辿っていくと魔物の大軍を見つけた。
正体が気になり近づいて確認すると、そこにはマグマ・レックス数匹と付き従う同じ恐竜型の魔物がいたらしい。
恐らく先ほどの魔物の死骸は、マグマ・レックスによって食料として捕食されたのだろう。
これだけだったら、別に問題はなく”マグマ・レックスが山間部に存在する”と報告すればそれで終わりだ。別の狩人組合から、銀級か黄金級の狩人が派遣され討伐が行われるだろう。
しかし、話はそれで終わらなかった。マグマ・レックス達が群れを率いて動き出したのだ。そしてマグマ・レックス達の向かう方向を地図で確認したところ、村や観光都市エアフを経由して王都に向ってきていることが判明し、彼は急いで早馬に乗りこの事実をエアフの狩人組合に伝えたのだ。
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話を聞いた後の支部長の行動は早かった。直ぐに対策本部を作り、魔物使いの狩人にいつ頃マグマ・レックスがこちらに着くのか調査を命じ王都にいる勇者に救援要請を出した。その後観光都市エアフを管理している領主に連絡を取り、協力体制を組み狩人組合に所属している狩人と領主が従えている騎士で討伐に当たることが決定した。
勿論、討伐する狩人には祐二も含まれている。例え銅級でも討伐を行うメインの狩人の補助や避難誘導、救難活動などやる事は多岐にわたるのだ。支部長は鉄級以下は無理に参加せず避難しても良いと言っていたが、この町や周辺の村で多くの狩人が暮らしており、そこが標的になる可能性もあるのだ。参加しない意思を持つ狩人は銅級を含めて誰もいなかった。
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「絶対ダメ!!マグマ・レックス討伐になんか参加しちゃダメ!!」
狩人組合で討伐参加の手続きをした後、祐二は急いで集落に戻りアシュリーに事態の説明をし、自分もマグマ・レックス討伐に参加する事を話した。
最初、マグマ・レックスが街に向かっていると聞いた時アシュリーは不安に震えていたのだが、祐二が討伐作戦に参加すると言った途端に猛反対をしたのだ。
耳と尻尾が逆立ち、涙目ながらも声を荒げ本気で祐二が討伐作戦に参加することに反対している。
「で、でもこのままだったら街どころか、周辺の村にも来るかもしれないんすよ。下手したらこの集落にも来るかもしれません!」
「それでもダメ!もしそうなったら一緒に逃げよう!だからお願い討伐には参加しないで、怪我じゃ済まないかもしれないんだよ!」
多くの人にとってマグマ・レックスは恐ろしい魔物であり、それはアシュリーも同じだ。
だが、それ以上に彼女が恐れるのは祐二の身に危険が迫る事だ。多くの犠牲を覚悟しなければいけない災害級の魔物の討伐、銅級の祐二が無事である保証などどこにもない。
もし祐二が死ぬくらいなら集落を捨てて共に逃げようとも考えている、その感情は恋愛感情なのか一年間一緒に過ごしてきた事で生まれた家族としての情なのか、それは彼女自身もわからないがそのくらい祐二が大事なのだ。
無論、祐二とてそれがわからない程馬鹿ではない。だが、自分の大切な人達に危険が迫っているというのに動けない程臆病でもない。
何とかアシュリーを納得させようと、討伐には勇者も参加する事などを説明するが首を縦に振らない。祐二とアシュリーの平行線の話し合いから一時間後、祐二が絶対に意見を変えないと悟ったアシュリーが息を大きく吸い込み叫ぶ。
「〜〜ッバカ!!」
涙を流しながら叫ぶと彼女は自分の部屋へ戻っていく、祐二はそんな彼女の背中を見て後悔に苛まれながらもマグマ・レックス討伐のために準備を開始する。
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アシュリーと大喧嘩した翌朝、祐二は彼女が起きる前に集落を出た。そうしないとアシュリーに力づくで止められると考えたからだ。その後二日掛けてエアフの狩人組合へ向かった。
マグマ・レックス襲来の報せから、まだ一週間も経っていないのに狩人組合の建物内には多くの人が集まっている。恐らく彼等が今回の討伐作戦に参加する狩人や騎士たちだろう。見知った顔もいくつかある。
「ユージ、お前も今回参加するのか?」
「エミールさん。はい!戦闘では役に立たないかもしれないけどサポートには全力で取り組みます。」
「そうか、今回の討伐作戦には勇者も参加するし、絶対に無茶するんじゃないぞ。」
エミールから聞いた情報だとマグマ・レックスは四日後に付近の村に到着するらしく、そこで勇者を中心に組んだ狩人達で迎え撃つ作戦らしい。
そして現在、そのための準備として村人の避難や陣形などの作戦会議をしているらしい。
作戦開始までエミールと祐二が緊張をほぐすように喋っていると突如、ざわめきが起こる。どうやら今回の討伐作戦の要の勇者が到着したらしい。
人混みを分けて祐二も勇者を確認しようとする。もし参加する勇者の中に武岡がいれば、とても頼りになるからだ。だが確認できた勇者の中に武岡はおらず、そこにいたのはとても戦闘に参加できそうにない少女一人だけだった。
「って、太田一人、マジか!他の勇者は?」
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「じゃあ、他の勇者は遅れてくるんだな。」
「うん、他の皆は用事があるから遅れるって、私だけ先にエアフにきて領主さん達と顔合わせしているの」
「ちなみに、今回の討伐に参加する勇者は誰なんだ?」
勇者の一人太田智花が狩人組合にきて支部長や領主に挨拶を済ませた後、祐二は彼女を捕まえて色々と話を聞いていた。そして今回の討伐作戦には勇者が四人参加すること、他の勇者は遅れるため彼女だけ先に来ていたことが判明したのだ。
「それで今回の討伐に参加する勇者なんだけど、私を含めて御剣君、海藤君、如月君の四人が参加するよ。」
「他の勇者は?武岡は、アイツはこういう時真っ先に名乗り上げるだろ?」
「武岡は西の魔物討伐に参加していて、どんなに頑張っても四日以内に此処には来れないんだ。それで王都に居た私たちが参加することになったの」
悲痛そうな顔で告げる太田に祐二も顔を曇らせる。御剣達は元居た世界では問題を起こし、解決は他人に任せ逃げ出す連中だったのだ。
魔物を前にして逃げ出すんじゃないか、もしくは討伐作戦に参加しても安全地帯から眺めているだけではないか、様々な不安が浮かんでは消えていく。
「でもきっと大丈夫、御剣君達だってこの世界の人達を見捨てるような真似はしないはずだし、ちゃんと参加するって国王の前で意思表明してたから逃げ出すような真似はしないよ。」
祐二の不安を解消するように太田はいうが、過去地球で何度も問題を起こし武岡や三井に泣きついて助けを求める姿を見てきた彼としては、とてもではないが安心できない。
「そういえば勇者って転移するときレア度の高いスキルを与えられたんだよな。太田や御剣達はどんなスキルを与えられたんだ?」
「えっと、先ず御剣君は剣術系のウルトラレアのスキルと攻撃範囲や回数を増やすウルトラレアのスキルを持ってたよ。海藤君は魔法系のウルトラレアのスキルで攻撃から補助まで幅広く扱える。後”無詠唱”のスキルも持ってた。如月君は魔物を従えるウルトラレアスキルで今回の作戦の要になるって、さっき支部長が言ってた。」
「ちなみに私は攻撃系のスキルを持ってなくて、残念だけど前線には参加できない。でもその分補助はしっかりやるから安心して。」
彼女の話を聞く限り三馬鹿は戦闘系のウルトラレアのスキルを持っており、中でも如月のスキルは魔物を従えさせられるので上手くいけばマグマレックスを無抵抗で抑えることが可能であり、彼を中心とした具体的な作戦が支部長たちによって建てられているらしい。
因みに前線に参加できないと言っていた太田だが、彼女が所持しているスキルは以下の三つである。
・スキル封印Lv4:ウルトラレアスキル、対象のスキルを封印し使えなくすることができる。封印できる対象とスキルの数はレベルに応じて比例する。スキルを封印するには相手に接触する必要がある。
・スキル看破LV5:ウルトラレアスキル、対象の所持しているスキル名、Lv、詳細な内容を読み取ることができる。対象の数はレベルに応じて比例する。
・スキルレベル上昇Lv4:対象のスキルレベルを上げることができる。対象の数と上げられるレベルの上限値はレベルに応じて比例する。
確かに強力なスキルを持っているが、このスキルで一人で戦うのは無理があるだろう。彼女の言う通りどちらかというと敵を弱らせ、味方を強化させる後方支援が向いている。
「大和も今回の討伐作戦には参加するんだよね?まさか前線でたたかうの?」
「いや、俺は後方支援、矢で魔物を足止めしたり怪我人の救助や治療がメイン。といっても魔物と戦う可能性もあるから準備はしてきたけど。」
太田は祐二の事情を知っており、彼がコモンスキルしかもっていないことを心配しているのだろう。もっともそんなことは、当の本人が一番知っており無茶はしないし準備も万全にしてきている。
「準備って、さっきから立てかけてある。そのデカいボウガンのこと?」
「応よ、地球での知識をフル活用して作ったその名も”滑車式連弩”だ。」
「滑車?れん?何だって、ごめんよく聞こえなかった。」
ドヤ顔で武器の自慢をしたのに滑ってしまった。祐二は顔を赤くしながら説明を続ける。現在、祐二と太田が会話している机には、大型のクロスボウが立てかけられている。これは祐二が最初に作ったクロスボウから改良を続けたものであり、威力と連射性が上がっているのだ。
威力の向上にはコンパウンドボウと呼ばれる滑車を用いた弓の知識を、連射性の向上には中国で作り出された連弩という連射式のクロスボウを参考にした。これらの改造によりクロスボウは性能を飛躍的に上げちょっとした鎧なら貫通できてしまうのである。
その後、エミールも加えて三人で話していると領主と支部長が会議室から出てきて作戦の内容を参加するもの全員に伝える。
作戦は、まず魔物を街に近づけさせないためにエアフから半日ほど離れた場所に村で討伐を行う事、既に村人の避難は始まっており作戦開始前日には避難が完了することが知らせられる。
そして肝心の作戦の内容は、魔物の群れに対し柵でバリケードを作り弓や魔法で遠距離から攻撃を行い足止めを行う。その後太田のスキルでスキルレベルを上昇した勇者や狩人、騎士たちが近接武器で攻撃を行い魔物を弱らせ、如月のスキルで魔物を従えらせるという内容だった。詳細な陣形や役割などはまだ知らされていないが、恐らく祐二は魔物の足止めを任されるだろう。
因みに今回の魔物討伐作戦に参加するのは、
・勇者:四人
・黄金級狩人:五人
・銀級狩人:三十人
・鉄級狩人:四十三人
・銅級狩人:六十五人
・騎士:二十人
人数だけをみるとマグマレックス数匹と魔物の群れの討伐には足りない数であり全滅を覚悟する状況だが、これが現在揃えられる最大の戦力だ。数の不足は勇者の質で補う事になっており、彼らが今回の作戦の要となる。
支部長が号令を上げると皆立ち上がり、移動を始める。建物の外には複数の馬車が駐車しておりこれに乗り作戦開始の村へ移動する。祐二も彼らに続き移動を開始する中、気合を入れるように両頬を手でたたく。”魔物を絶対に町に近づけさせない”覚悟を決め馬車へと乗り込む。
恐らく今回の作戦では祐二は活躍できないだろう。彼は勇者ではないのだから、それでも誰かを役に立てるのなら構わない。祐二にとって大切なのは活躍することではないのだ。例え誰からも称賛されなくてもその誰かの役に立つ、それで十分なのだ。
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マグマ・レックス討伐に狩人たちが参加し三日が立った。翌日には魔物の群れが村に襲来する為彼らには緊張が走っていた。だが恐怖に怯えているものは一人もいない、勇者がいるからだ。自分達だけでは成す術もなく蹂躙されて終わりだが、勇者がいれば問題はない。今いる勇者は一人だけだが、戦闘系のウルトラレアのスキルを持つ勇者が後三人も来るのだ。彼らがいれば自分たちは魔物に勝てる、皆そう考えていた。
だが、彼らの希望は四日目に打ち砕かれる。魔物の群れが到着する日の朝、討伐作戦の内容を再確認するため支部長が参加者全員を集めている際に、伝令係からある一言が告げられる。
「勇者がまだ現地に到着しておりません!」




