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63. 王子からの停戦

マリさん、フェリ君、シュゼットの三人の視点から。

 一体どんな場面?

 仁王立ちの天使と見まごう容貌の美少女。そして、その前に跪く銀色のサラサラ長髪のイケメン君。いや!王子サマ。


 人が出入りできる、ぎりぎりのスペースで開けてある扉の間から、見たことも無い場面が見えます。はっきりとは聞こえませんが、何やらお嬢様が言ったようです。()()を見下ろし、腰に手を当てて。あまつさえ、その華奢な指先はヤツの鼻先を指差しています。


 さすがにマシューも、不穏な状況を察して、(何と言っても相手は王族。それも第一王子サマですから)部屋に踏み込もうと扉を押した時です。




「ですから! 婚約者候補なんて()()()()()()()()()()!」




 今度ははっきり聞こえました。




 シュゼットお嬢様は、コレール王国の第一王子にそう宣言されたのです。

 私とマシューは、サロンの中に一歩踏み込んだまま、固まったようにその場に留まりました。

 だって、()()はまだそこに跪いたままですから・・・やっぱり安易に近づけませんよ。だって、未来の陛下ですもん。













 ふーっ。言ってやりましたわ。


 見返り無く、『はい。そうですね』 なんて許せるはずはありません。

 そうでしょう? フェリックス殿下に悪気が無かったとしても、私が傷付き悲しんだことは事実ですもの。お父様やお母様、グリーンフィールド公爵家の召使い達にも、もの凄ーく心配を掛けました。




 過去は変えられません。取り返せませんわ。

 だったら、今現在私の人生に、一番面倒臭いことを強いているモノから()()して頂きましょう。

 それにはフェリックス殿下も大いに関係することですから。





「・・・それが、君が私を許す条件?」


「・・・そ、そうですわ」


 さすがに、指差しは止めましたわ。どんな断罪場面だって?


「・・・婚約者候補がイヤってこと?」


「嫌ですわ」


 間髪入れずに答えました。


「・・・」


「・・・」





 跪いているフェリックス殿下が、考え事をするように唇に指を当てています。少し伏せた睫毛が・・・なんて長いの!!そしてバッサバサ!


 おっと。いけません。この場面で気を抜くわけにはいかないのですわ。






「あのさ・・・」


「はい? 何ですか?」


 少し素気なくお返事しました。






「あの・・・君は、()()()()()じゃなくて、()()()になりたいの?」






「!???✖▲〇▲&$#*・・・!?」


 立ち上がったフェリックス殿下が、何やら頬をうっすら染めて私を見下ろして言いました。




 どーしてそうなるの!? 私そんなコト言った!? ねえ、言った!?



「ちがーうっ!!!! 違いますわ!! どこを聞いたら、そうとれますの!?」





 私は、目の前にいるフェリックス殿下の両袖を掴むと、目いっぱい背伸びをして彼の耳元に叫びました。

 

 これで、聞き間違えたら、貴方オワッテいますわよ!!











『婚約者候補なんて、辞めさせて頂きます』



 彼女は立ち上がって、私の前ではっきり言った。

 それが、5年前に彼女を傷付けた私への贖罪だと。それが私を許す条件だと。




 候補になるのが嫌なのか? 5人もいる候補者の一人になるのが嫌なのか?


 それとも・・・もしや、候補でなく、婚約者にしろ! と言っているのか?


 でも、この雰囲気でそれを言うか? この剣幕で?


 どちらにしろ、ここで間違える訳にはいかない。でも、どっちだ?

 





 イヤイヤ。5年前の事もある。また思い違いでややこしくなるなんて真っ平だ。はっきり聞いた方が良いと思う。なんといっても私と彼女には5年前の前科? があるのだから。少し冷静に考えたいが、あまり時間は掛けられない。




『あの・・・君は、婚約者候補じゃなくて、婚約者になりたいの?』




 万が一の事もある。そう自分に言い聞かせて立ち上がる。彼女の目を見下ろすようにして聞き返した。言っていて何だが、頬が熱を帯びたのが判った。そう、万が一の可能性が無いとも言い切れないー。





『ちがーうっ!!!! 違いますわ!! どこを聞いたら、そうとれますの!?』



 白い貌が一瞬で朱に染まった。そして青い瞳を潤ませて、彼女が激しく否定した。

 私の両袖をギュッと掴み、思いっきり背伸びをすると、その顔を近づけて・・・




 ふわっと甘い香りがした。菓子のような、花のような、果実のような。

 こんなに近くに彼女の顔を見たのは







 ああ・・・5年振りだ。










 つ、疲れました。


 大変優雅にお茶を飲んでいる、目の前の貴人のせいですわ。

 婚約者候補を辞めさせろという私に、候補者でなくて婚約者になりたいのか。と聞かれた時には、驚きました。どう聞こえたらそうなるのでしょうか。ええ。全否定させて頂きました。その形の良い耳に近づいて、はっきりと!!


 するとフェリックス殿下は、




「ああ。やっぱりね。確認しておいて良かった」




 さらっとそう言って、にっこりと笑顔になりました。判ったのかしら?


「君の言いたいことは判った。でも、如何せん()()については、私の独断で決定できない。幾ら私自身が、ここで『はい判った』 と言ったとしてもね?」


「・・・それは、そうですけど」




 ごもっともですわ。婚約者候補からの側室制度は、コレールの王室に長く伝わっているのですから。


 フェリックス殿下は、ティーカップを置くと、黄昏てきた窓の外を見ました。随分時間が経ってしまったようですわ。窓ガラスに映る赤い夕陽を目を細めて見ています。




「・・・でも、君の希望は・・・多分・・・近い内に叶うと思う」




 静かな声でそう言いました。



「そう言うことだから。私を許してくれるよね? ()()()()()?」


 なぜにファーストネーム呼び? もう許したことになっていますか?

 フェリックス殿下は椅子から立ち上がりました。思わず釣られて私も立ち上がります。



「じゃあ、これからはクラスメートとして宜しく。私もシュゼットと呼ばせてもらいたい。()()と同じように。良いだろうか?」


 一歩近づいたフェリックス殿下は、私の右手をそっと取ると、真剣な目でそう聞いてきました。彼等と言うのは、エーリック殿下やセドリック様、カテリーナ様の事でしょうね。





「・・・叶うなら・・・」


 私の声は随分小さかったと思います。思いますが、目の前にいるフェリックス殿下には、はっきり聞こえたようです。




「じゃあ、()()()()()。また明日」




 そう言って、右手の甲にキスを落としました。




「えっ!?」



 フェリックス殿下はグリーントルマリンの瞳を細めて、でも()()()()()()()()()()()で微笑むと、静かに部屋を出て行かれました。

 マシューが玄関までお見送りをしてくれるようですけど、私はこの場から動くことが出来ませんでした。






 帰った・・・





「お嬢様・・・、フェリックス殿下って、思いのほか・・・良い人じゃないですか?」


 マリが新しいお茶を淹れてくれながら、そう声を掛けてきました。




「・・・・・!!」



「はい? どうされました?」


 労わるマリの声が、思いのほか優しく感じます。






「やったー!! 婚約者候補、破棄! 破棄ですわー!!」


「って、()()ですのーっ!!」


 マリの絶叫が聞こえました!



ブックマーク、誤字脱字報告、感想、イラスト

ありがたく思います。

評価ボタンもポチして頂けると、頑張るパワーになります。


次はシルヴァ様に登場して貰いましょう。

大人にも頑張って貰わないとね?


読者様の感想が嬉しくて全部読んでいます。

キャラを愛でて頂き、ありがとうございます。


楽しんで頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様でした。 白パンダの意味はそうだったんですね。 フェリックスは不器用と言うか何と言うか・・・
[一言] うをー! 読者を混乱させる気ですね?(笑)
[一言] フェリ天然だ!可愛いなー! ちょっと切なげな表情も良し◎
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