表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/122

58. 聞かれた! 見られた! 

ブックマーク8,000件になりました。

応援ありがとうございます。

「シュゼット?」


「・・・」


「シュゼット? 聞こえてる?」


 目の前で手をヒラヒラと動かされて、はっと気付きました。

 エーリック殿下が、心配そうなお顔で覗き込んできます。お昼休みになって、いつものように食堂ホールでランチ中です。

 因みに、本日のランチは香辛料の効いたカリーです。香ばしく専用窯で焼かれたナンが大きくて、食べ応えがあります。ドリンクのヨーグルト風味が辛さを和らげてくれます。


「ええ? とっても美味しいですわよ?」


 カリーの味を問われたと思いました。


「・・・やっぱり変だ。シュゼット、今はカリーの話はしていないよ? 大丈夫なの?」


 うっ。そうなのですか。


「ごめんなさい。考え事をしていましたの・・・」


 気を遣って下さるエーリック殿下に、申し訳ない気持ちで謝ります。


「まったく、どんな心配事があると言うのだ? そーゆー時は遠慮なく()()相談しろと言っているだろう? さあ、シュゼット、言ってみたまえ!」


 セドリック様? 今日はいつもの調子なのですね? 上から目線も変わりありませんけど、フルネーム呼びでなくなりましたのね?


「大丈夫です。ご相談するまでもない事なんです。ご心配をお掛けしてごめんなさい」


「大丈夫なら良いのよ。シュゼットの憂い顔も良いけど、やっぱり私は笑顔の方が良いわ! 覚えておいて、皆シュゼットに笑顔でいて欲しいのよ? だから、心配かけて悪いなんて思わないで、相談してちょうだいな?」


 カテリーナ様がそう言って、ニッコリと笑いました。



 カテリーナ様が変わったような気がします。そう、以前より大分落ち着いたと言うか、何と言うか。大人っぽくなったと言うか?



「まあ、大丈夫なら良いけど。ところでシュゼットは、学院バザーの手伝いをするのだって?」


 エーリック殿下が、カリーを食べながら聞いてきました。ちらりとセドリック様を見ると、あからさまにそっぽを向いていますけど・・・エーリック殿下にお話ししましたのね?


「はい。お手伝いできればと思いまして。でも大方の準備は出来ているそうですし、私も魔法術の講義の間を縫ってとのことですから、ほんの少しだけですわ」


「殿下! シュゼットのできない分は、()()()()()()()()やりますからご心配無く!」


「お前の事は全く気にしていないから。でも、シュゼットは無理しないでね?」


「殿下!!ひどっ!! 私の事はどうでも良いのですか!?」



 二人のやり取りを聞いて、カテリーナ様と顔を見合わせて笑います。そうですわ。ここにいる皆さんは、本当に温かくて、楽しい方々ばかりなのです。





 ランチを終えて、中庭の花壇まで散歩をしています。

 ここの花壇も良く手入れがされて見ごたえがありますね。カテリーナ様は、午後の授業で当てられるからと先に教室に帰られました。




 でもですね、




「セドリックも行くわよ!」


 なぜか、セドリック様も一緒に戻ろうと誘います。セドリック様は、思いっきり眉を(ひそ)めてカテリーナ様を見上げています。



「はっ!? なんで? 一緒に散歩 -」


「エーリックの番!! ()()()!!  ()()()()()()()!?」


「くっ・・・!?」




 謎の会話をされていましたけど、カテリーナ様の迫力のドヤ顔に、セドリック様が押し切られました。このお二人実は、物凄く気が合っているように思います。





 なので・・・今は、エーリック殿下と二人でお散歩中です。


「いい天気だね。気持ち良いなぁ」




 花壇の傍のベンチに腰掛けます。珍しくエーリック殿下は眠そうに目を細めると、紫色の瞳が静かに閉じられました。スッキリとした鼻梁に長い睫毛。お日様の光で、黒髪の頭には天使の輪ができています。




 大分お疲れのようです。何かあったのでしょうか? エーリック殿下は普段こんな様子を見せない方ですけど・・・



 それにしても、お綺麗な方です。ダリナスの王族の方は黒髪や黒目等、髪や瞳の色が濃い方が多いですけど、その中でも一、二を競う美貌ですよね? この髪なんて、思わず撫でてしまいたくなるくらいの真っ直ぐ艶サラですもの。



 コテン。



(ひえっ!?)



 エーリック殿下が、私の肩に凭れてきました!

 

 今の私達はベンチに隣同士で座っています。

 エーリック殿下は足を組んで、腕を組んで・・・そして、頭だけ私の肩に載せています・・・!


 小さく寝息が聞こえています。こんな殿下は初めてです。



(う、動けません。どうしましょう?)


 仕方ありません。予鈴が鳴るまでは、このままでいるしかありませんね。


 スースーと穏やかな寝息をたてて眠るエーリック殿下の体温を肩に感じながら、私はくすぐったい気持ちになったのでした。











 昨日、シルヴァ叔父上と話をしてから、ずっと考えていた。


 シュゼットが光の識別者になったことで、カテリーナと相対する立場になったかもしれないこと。そして、場合によっては両国間にヒビが入る可能性がでてきたこと。



 そればかりではない。シルヴァ叔父上も、レイシル様もシュゼットに対して()()()()()()()を持っているようだし、セドリックも覚醒したし、もっと言えばロイもフェリックスも少なからず想いはありそうだ。


 でも、どう想っても今は()()()()()()()()()()()()


 候補者のいる前で、余りあからさまに誘うことも、想いをひけらかす様なことも出来ない。幾ら、シュゼットが候補者になりたくない。婚約者にも王妃にもなりたくないと言っていても。





 自分には今時点では婚約者はいないけど、本国で急に決まる事もあるかもしれない。見たことも会ったことも無い令嬢と・・・




 嫌だな。シュゼットがいるのに。シュゼットが良い。


「シュゼットじゃなければ嫌だ!」









 目が覚めた。目線の先には、手が見える。・・・両手を組んでいる。女の子の手だ。


 そうか、両手を組んでスカートの上、膝の上に置いているのか・・・


「はっ!?」


 目が覚めた。自分の今の体勢はどうなっているのか? 顔の下にある温かな体温。


 ガバリと起きて、体勢を整える。恐る恐る隣を見た・・・


「っ!?」


 隣にいるシュゼットの顔が真っ赤になっていた。


 まさか、まさかと思うが、さっきの言葉は夢の中だけでは無かったのか? 思いっきりしゃべった実感がある。マジ寝言だったのか!?


 誰か、嘘だといってくれ・・・




「あの・・・シュゼット、私は寝ていたのかな?」


「・・・はい。少しですけど」


「あの・・・何か言っていたかな?」


「ぇっ・・・」


「シュゼット?」


「ぅっ・・・」


 ああ。言っていたのだ!! 夢でなかった!! どんな告白だ!! セドリック並みのうっかりだ!!

 でも、言ってしまったことは取り消せないし、取り消すつもりもない。


 ベンチから立ち上がって、思いっきり伸びをした。何だか、気持ちが晴れ晴れとして、頭がクリアになった気がした。


「私は、眠っていても君の事を考えていたらしい。でも、そう言うことだから」


 そう言って、手を差し出してシュゼットを立ち上がらせる。良かった。彼女の頬は赤いけど、嫌がっている様子は見えない。



「さあ、教室に戻ろう?」


 シュゼットと手を繋ぐと、ゆっくりと教室に向かった。まだ、予鈴が鳴るまでは時間がある。











「可愛いねぇ。あの、エーリックがあんなに安心して、うたた寝するなんてね?」


「茶化すのは止めてやれ」


 中庭を望む廊下で、レイシルが二人を見つけた。声を掛けようとするレイシルを、シルヴァが止めて暫く様子を見ていた。時間が来ても起きないようなら、起こそうと思っての事で、他に他意は無い。と思いたい。


「ああ。起きたようだ。大丈夫だな? しかし、まあ絵のように綺麗な二人だった。ある意味お似合いの二人か?」


 二人が中庭から出て行ったのを見て、シルヴァに向かって振り返った。

 今日のレイシルは午前中に王宮での仕事を終えて、先程シルヴァに会いに来た。遅いランチを食堂ホールでしようと来たところ、廊下から中庭にいる二人を見つけたのだった。近視で目が悪いはずなのに、良くも見つけたものだと感心する。


 コイツにとって、識別者のエーリックとシュゼットは、貴重な研究対象で同志で、庇護対象者になる。しかし、シュゼットに対しては少し違うのかもしれない。


「さあ行こう」


 今日のレイシルは、長い銀髪を肩下で緩く三つ編みにして、紺色で詰襟、深いスリットの入った異国風の上着を着ている。神官長でも鑑定士長の服装でもない普段着のようだ。刺繍も飾りも何もついていないのに、上質な布と身体にぴったりした丁寧な縫製は、一目で上等な物と判る。そして、それを優雅に着こなしている銀髪の麗人は、明らかに一般人とは言えない雰囲気を漂わせている。




(黙っていればいいものを。勿体ない事だ・・・)


 シルヴァがレイシルの事をそう思っているのを、気付く風でもなくウキウキと食堂ホールを目指す。


「しかし、アレだね? 甥っ子の初恋なら叶えてやりたくなるよな? そう思わない?」


 何を言い出すかと思ったら。多分、自分に対しての()()()()だ。



「でも、お前は割って入る気なのだろう?」


 それには引っ掛からないと、逆に仕掛けてみる。

 グリーントルマリンの瞳が、じっと見ている。やっぱり引っ掛けだったようだ。


「そうだね。言ったじゃない? 俺は立ち位置を考えてるって。でも、貴方はどうなの? 甥っ子の初恋を応援している訳じゃないでしょ?」


「応援も何も、それ以前に大きな問題があるだろう」


 シュゼットがフェリックスの婚約者候補である事実。こればかりは、ダリナスの人間がどう頑張っても変えられない。エーリックもそれを判っているはずだ。




「・・・()()、変わったらどうする?」


 レイシルの顔をじっと見た。何を言っているのか。




「貴方も、エーリックも生涯の伴侶をどうするか、国で問題になっているんじゃないの? 幾ら、コレールに来ていても、それは一刻の時間稼ぎ。急がないと自分の気持ちなんて関係なく扱われるよ?」


 貴族である以上、政略結婚は仕方が無い。それも義務の一つと思っている。相思相愛で結ばれるなどと、ほとんど無い。そんなことは十分承知している。レイシルだって立場は同じはずだ。何を焚きつけるような事を言っているのか。

 オマエも同じだろ。と言おうと口を開きかけた時、




「変わるんだよ。色々とね」






 レイシルは、慈悲深い神官長の微笑みを浮かべてそう言った。

 


ブックマーク、誤字脱字報告、感想、イラスト

評価ボタンポチもありがとうございます。


甘酸っぱいエーリック君とシュゼットちゃんです。


入り乱れて参りました。

楽しんで頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やべ。シルヴァ様派だったのにエーリックが可愛くなってきた!(笑) 寝言で言うか~(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ