5. 天使のティータイム
サブタイトル修正しました。
天使と悪魔(ハート教授)のコントラストは
見る価値があります。
「ここが、食堂ホールになる」
本館の1階、中庭に面した広いホールだ。燦燦と降り注ぐ午後の日差しは、大きなガラス窓に虹色の光を反射している。
「広くて、素敵な食堂ですわね」
丸テーブルは4人掛けで白いテーブルクロスに花柄のナプキンが置かれている。角テーブルは川の字に並べられ、8人掛けの大きなテーブルがズラッと並んでいる。そこには白いテーブルクロスしか掛けていない。
ハート教授は、真っすぐに窓際の丸テーブルに進むとシュゼットを手招きした。
「眺めが素敵な席ですね。学生になればこの食堂を利用できますか?」
「ええ。ここは学院に通う者であれば、誰でも利用可能です」
席を引いてくれると、ハート教授はシュゼットの正面に座った。
(私に眺めのいい席を譲って下さったのね?なかなかに気遣いのできる紳士でなくて?)
正面に座るハート教授が、メニュー表を差し出してきた。シュゼットはにっこり微笑んで、臙脂色の革冊子を受け取った。
メニュー表には、珈琲、紅茶、フルーツジュース各種に、焼き菓子が数種類ある。さすが王族や貴族が通学するだけあり、珈琲や紅茶の種類は沢山あった。焼き菓子もスコーンやマフィン、パイやクッキー等で専門店並みのクオリティーに見える。
「まあ!色々な種類があるので迷ってしまいます。ハート先生のお薦めがありますか?」
お菓子を前にしてキラキラしい目になっているはず。これは演技では無く、素だ。
「私は、珈琲を。菓子は食べたことが無い。君の好きな物を選べばいい」
「あら、先生は甘い物はお嫌いですの?私は大好きです」
大好きです。という言葉に煌めくような笑顔を被って、ハート教授を見詰める。
「・・・好きなだけ食べればいい」
「はい。紅茶とチーズとナッツのクッキーを頂きたいです」
給仕を呼んで注文すると、ワゴンに乗せられた紅茶ポットが先に届いた。蒸らしの時間まで計算されて運ばれているらしい。小さな砂時計が傍に置かれていて、時間を計っているのも良い雰囲気作りだ。
「もうすぐ授業が終わる」
「ああ、そんな時間なのですね?先生にはすっかりお世話になってしまいました。お忙しいのに、ありがとうございました」
「いや。問題ない。私が案内すると言ったのだから、気にすることは無い」
運ばれてきた珈琲を一口飲むと、窓の外に目を向けたまま言った。シュゼットにも紅茶がカップに注がれ、目の前に香ばしい香りのクッキーの皿が置かれる。
「でも、すっかり甘えてしまいました。本当に感謝していますわ」
「ハート先生。お礼と言っては何ですが・・・」
はいっ!とクッキーの載った皿を差し出す。はにかみながら頬を染めて天使120%で。
「おひとつどうぞ?余り甘くないですから、召し上がれると思います。珈琲にとっても合うと思いますの」
放課後の食堂ホール。中庭を望む一番眺めのいい席に、美丈夫の黒髪青年と金髪碧眼の超絶美少女の組み合わせ。まるで一枚の絵の中に対照的な色のコントラストで存在している。
一人は馴染みのある男性教師だが、向かいに座る少女は見たことが無い。清楚で仕立ての良い可憐なワンピースは薄いピンク色。細かなプリーツが椅子から流れるように揺れている。
『誰だ?』
お茶をしにホールに来た生徒たちは、ハート教授とシュゼットを遠巻きにして見ている。いや、見ているが見ていないように振る舞い各々が席に座った。普段ならば、幾ら貴族の子女とはいえ放課後の気安い雰囲気にお喋りも弾んでいるはずだった。しかし、今日は見慣れない雰囲気を纏った存在に、口数が少なくなっている。チラチラと二人を見ていると・・・
『!?』
普段は僅かな表情の変化も見せず、学生とも一線を引いたような教師が、少女に差し出された皿から菓子を取って口に入れるのを見た。少女がとても嬉しそうに微笑んで、零れるような笑顔で己もクッキーを摘んだ。教師はその様子を見ても表情を変えることなく珈琲を飲んでいる。
『誰なんだ?その娘は?』
遠巻きにしている学生たちは、ハート教授がいるためにシュゼットに近づくことが出来ないでいる。
(そろそろ、お暇してもいいかしらね?これ以上いると面倒なことが起きるかもしれないわね)
「学生で混んできました。そろそろ戻りましょう。良いですか?」
(おお!良いタイミングです!先生、私の心が読めるのですか?そんな訳無いか?)
「ええ。そう致しましょう。ご馳走様でした」
食べ切れないクッキーをハンカチに包み席を立った。
「それは?」
「これですか?食べきれませんでしたの。美味しいクッキーですから侍女にもあげようと思いまして。今日は、ずっと私に付いてくれていましたから。あっ!お行儀悪かったですね?ゴメンナサイ」
「・・・食べ物を無駄にしないことは大変良いことです。それに、これは美味しいですから喜ぶでしょうね」
「はい!!」(よーし!好感度アップ?したわね)
ハート教授は無表情にそう言って、ニコニコ微笑むシュゼットとホールを後にした。
広い学舎からマリのいる控室に戻り、ハート教授に馬車寄せまで連れて来てもらった。マリはシュゼットから手渡されたクッキー入りハンカチを嬉しそうにポケットに入れると、大きなバスケットと共に馬車に乗り込んだ。
「あー・つ・か・れ・たー」
「お嬢様、お疲れさまでした。結果は如何ですか?もちろん合格ですよね?」
「勿論よ!学力と家柄で合格よ。面接試験は2分で終わったわ。その後、ずっとハート教授に学内を案内して頂いたわ」
「ほう!それで、効果的演出とやらはできたのですか?」
「まあね。多分今頃、食堂ホールは噂になっているかもね?みんな遠巻きに見ていたわ。それにね、ハート先生が一緒だから5割増し効果が出たかもね?」
「そうでございますか。王子のヤローとはお会いになったので?」
「まさか。まだよ。ちょっとマリ駄目よヤローなんて。奴くらいにしておいて頂戴。そう簡単には会わないわよ。私からは。ね?」
馬車は正門を抜ける順番待ちをしている。帰宅時間に集中した馬車で少々混雑しているらしい。
「まあ、今日はもうゆっくり焦らず帰りましょう」
馬車の中に持ち込んであるクッションに身を任せて身体を伸ばす。やはり慣れない場所で多少緊張していたのか。
「しかし、混んでいますね?全然進みませんよ?脱輪でもしたんでしょうか?」
「そうねぇ。どうしたのかしら?」
シュゼットが馬車の窓を少し開けた。
「!!!???」
パシン。窓が閉められた。
「お嬢様?どうされました?」
「・・・・・」
「となり。多分王子の馬車」
「へっ?」
「だから、多分フェリックス王子。奴の馬車みたい」
だって、奴も窓開けて見てた!!面影あるあの顔!絶対そうだ!何で、並んでいる!権力使ってさっさと出ればいいのに!
「こんな出会いになるとか?油断したわ・・・」(チッ!間の悪い男だわ)
コンコン!
「ど、どうしますか?ノックされてますよね?」
馬車の窓が小さくノックされた。
シュゼットとマリが顔を見合わせたまま、ピキッと固まった。
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窓をノックしてきたのは王子なのか?
別話で「妖精姫と言われる私の婚約者は…」
長いタイトルなので略も連載中です。
よろしければ、こちらも楽しんでいただければ
と思います。