47. すれ違うキ・モ・チ
「えっ!? お嬢様、ヤツ・・・フェリックス王子の申し出を断ったのですか?」
マリに先程のヤツとのやり取りを報告しました。これ、一番重要? と思われるかもしれませんが、初心貫徹ですわよ。忘れてはいけませんでしょ?
「ええ。話があるから時間があるか? って聞かれたので、ありません。ってお答えしたのよ」
「それって・・・ありですか? 何だか、さすがに王子が可哀そうになってきました」
マリにしては、随分とオヤサシイですわ。でも、あの場面で? 皆さんの居る前で? 聞いて来るなんて少しズルくありません?
マリには鑑定式の事を、一部始終漏れなく報告します。勿論、終わった後の色々もです。
「シュゼット様!! 光の識別者!? 魔法術士? 本当ですか? って言うか、それ一番最初に教えて下さい!!」
「現実味が無くって他人事でしたわ。でも、そうなのよ。正式に魔法科学省から認定が来るらしいわ。それに、特別講義とやらを受けることになるのですって」
チッ!! 思わず舌打ちが出てしまいました。全く、想定外の事ですもの。
「ん、もう! はしたないですわよ! でも、さすがお嬢様です。グリーンフィールド公爵家初の魔法術士ですわ! それも100年振りの希少魔術の識別ですから!」
「でもねぇ、それで更に、ヤツとも接点が出来るかもしれないわ。良く判らない特別講義もあるし。それに、レイシル様? 国王陛下の異母弟に当たる方ですけど、私を魔法科学省に入省させようとしているし・・・」
「でも、フェリックス王子がそれについては、婚約者候補だから無理だって言って下さったのでしょう?」
そうなのよね。まあ、少しは助かりましたけど。マリの言葉に頷いて答えました。
「それでね、ヤツへの仕返しを決めたの」
「決めたのですか? どんな?」
「それはね、ヤツの話を聞かないという事よ」
『君はフェリックス殿と、話をした方が良いと思うよ』
チクリと、エーリック殿下の言葉が胸に引っ掛かりました。
屋敷に帰ると、すでに魔法科学省から鑑定式の結果が届いていました。随分ご立派な額縁には、私が光の識別者であることを認定したと、レイシル様の直筆サインが入っています。本物ですわ。
当然、鑑定結果になんの期待もしていなかった両親は、驚き狂喜乱舞していました。それはそうですわね。グリーンフィールド公爵家から初めて魔法術士が出て、尚且つ希少識別ですもの。
とりあえず、その識別のせいで、特別講義を受ける事だけは両親には伝えました。魔法科学省に入省なんてお話はしませんでしたけど。
寝る準備を終えて、お休みのハーブティーを頂きます。マリと本日の最終打ち合わせです。
「でも、シュゼットお嬢様? ずっと王子を無視するのですか? それ、ちょっと難しくありませんか? あと二か月後には婚約者候補として公になるのですよ。それまで、話を聞かないで済みますか?」
「詫びは聞かないってことね。今日の感じだと、ヤツは私にお詫びの言葉を伝えたい感じですもの。意を決して、プライドを捨てて話しかけたのに、お詫びの言葉も聞いてくれないような者を婚約者に選ぶかしら?」
「ああ・・・。そこですか」
そうですわ。そこが重要なんですわ。
「あくまでも、自然に? 普通に? ヤツからのお詫びは聞きませんわよ。怒っていることをビンビン出しながらね。でも笑顔で対応しますけど。如何かしら?」
「みなさーん! ここに悪役令嬢がいますよぉ~! 王子に酷い事しますよ~!」
ちょっと!! マリ? どっちの味方ですの? それに、声が大きいですわよ。
「とにかく、これから新しいことも始まるから、色々考えないとね」
だって・・・私って、天使で光の魔術師です!
まさか、拒絶されるとは思わなかった。
あの流れで、話が出来ない状況になるとは・・・
「怒ってるな」
馬車の中で、隣に座るオーランドが口を開いた。
それが、彼女の事を言っているのが判った。窓の外を見ていた自分に問いかけているのだ。
「判っている。忘れられないって事だ・・・」
決心して、ようやく言えた自分の問いかけをバッサリと切った彼女。でも、弟たちには天使の微笑みで話をしていた。いつも教室で見掛ける天使の様な笑顔だった。
でも、自分が問いかけた言葉には、何の感情も感じられなかった。確かに笑顔はあった。張り付けたような笑顔だったけれど。
「何としても話をしなければならない。それは判っているが、聞いてくれる気がしない。それだけ傷付けたという事か・・・」
ずっと大人しく正面に座っていたパリスとカルンが、嬉しそうに話している。
「シュゼットお姉様、噂通り綺麗だったね? それに、とても優しそうだったし」
「うん。パリスもそう思った? まるで天使みたいに綺麗だったよね? 来週会えるの楽しみだね」
「皆羨ましがるよ? あのシュゼット嬢と知り合いで、お姉様って呼べるんだからね!」
じっと二人を見ていたら、カルンと目が合った。
「フェリックス兄様、シュゼットお姉様とご一緒のクラスなんでしょう? お話とかなさるのですか?」
痛い所を突いてきた。この笑顔が刺さる。
「まだ、編入してきたばかりだからな・・・」
歯切れの悪い返答になった。
「「そう! じゃあ、僕達の方が仲良しだね!!」」
無邪気な二人の笑顔に、引きつった笑いで答えるしかなかった。
隣ではオーランドが、長い溜息をついた。ような気がした。
一つ気になることがある。
エーリックの事だ。
あのダリナスの王子は、彼女とは随分親しい。それは見ていれば一目瞭然のことで、特別に気に掛けているのが判る。彼女との会話の最中等は、誰が見ても彼女への好意が溢れている。
エーリックは、彼女の事が好きなのだと思う。部屋から出て行った彼女を追い掛ける時、一瞬自分と目合った。その表情は純粋に彼女を心配しているような瞳だった。
彼は、彼女の事が好きなんだ。
でも、彼女は自分の婚約者候補。場合によっては自分の妻になる女性だ。
彼は私をどう思っているのだ。そして、私は彼をどう思っているんだろう・・・
そして、彼女は彼をどう思っているんだろう・・・
とにかく話をしなければ。遅くなればなる程、拗れる。いや、すでに5年分拗れているのだから。
「許してもらえなくても・・・」
呟いた言葉が、思いのほか棘のように・・・心に刺さった。
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次話でシルヴァ様、レイシル様の登場です。