表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/122

46. 鑑定式の終わりには

 話なんて聞きません。

 ヤツは茫然と立ち竦んでいるように見えます。そうでしょう。今まで王子である自分を拒む人なんていなかったのでしょうから。




 でも、時間はあるか? と聞かれたので、無いと答えただけです。




「今日はお疲れ様でございました。パリス様とカルン様、来週の講義でお会いしましょうね? それでは、皆様、失礼致しますわ」


 にっこり微笑み、軽く腰を落としてご挨拶します。ええ。ヤツの方は一切見ませんわ。でも、双子王子様には目を合わせて頷きます。本当に可愛らしいお二人です。真っ赤になってしまわれました。


 挨拶も済みましたから、さっさとトンズラしましょう。早く帰って色々報告しなければなりませんもの。






「シュゼット! 待って!」


 おおう? 後ろからエーリック殿下ですわ。

 直ぐに追いつくと、彼は私と並んで歩き始めました。




「シュゼット。私が口出しすることでは無いのだけど・・・」


 言いづらそうにエーリック殿下が、口を開きます。おっしゃりたいことは想像つきますね。


「シュゼット。フェリックス殿は、君に話があると言っていたよね? もしかしてだけど・・・君に謝りたかったのではないの?」


 そう思いますわよね。エーリック殿下には、ヤツから酷い事をされたとしか言っていませんから。





「そうかもしれませんね。でも、時間があるかと言われたら、今日はもう疲れてしまったので・・・あの方とお話しするのは・・・」


 少し、歩みを遅くして小さな声で答えました。察しの良いエーリック殿下ですから、皆まで言わなくても判って下さいました。



「まあ、確かに珍しい()()()()()だったし? いきなり魔法科学省に入省するだのって話もあったしね。でも、フェリックス殿は婚約者候補の話をして、暴走するレイシル様を止めて下さったのではないかな?」


「・・・」




 エーリック殿下もそう思います? やはりそういう意図があったのでしょう。


「ねえ、シュゼット。これは私が口を挟めない事だから、()()()()()()()()()


 そう前置きして、彼はスルリと私の前に回り込みました。




「君はフェリックス殿と、話をした方が良いと思うよ」


 目の前に立つエーリック殿下の紫色の瞳は、真剣な輝きで私をじっと見下ろしています。






「まあ、私としては君と彼が、仲違(なかたが)いしたままの方が都合が良いけどね?」




 そう言うと、ふわっと微笑みました。何とも言えない優しそうな表情ですけど・・・


「忘れて無いよね? 私は君の事が好きなんだよ? 彼の婚約者になって欲しくない立場だからね?」


 茶目っ気たっぷりにパチリと片目を瞑ると、そっと私の右手を取りました。





「さあ、もう戻ろう。セドリックが待っているよ」




 エーリック殿下に手を取られて、私達は教室まで急いだのです。











「遅い!! 遅すぎです! 一体どんな話をしていたのですか!?」


 教室に着いて扉を開けようとした瞬間です。向こうからいきなり扉が開きました。びっくりして、エーリック殿下と私は一瞬固まってしまいました。


 そうです。セドリック様が仁王立ちで立っていました。足音で私達と判ったのでしょうか?






「エーリック殿下? それは?」


 セドリック様が、冷たい声で指差します。はて?


「ああ。これ?」


 エーリック殿下が私の右手と繫いだ手を前に持ち上げました。。




「てぃっ!!」



 セドリック様が、いきなり手刀を当てて、繋いだ私達の手を離しました。

 そして、フンッ!と鼻を鳴らすとエーリック殿下にこう言いました。




「まったく。油断も隙も無いのですから!」




 ん? これさっき聞きましたよね?


 



 

 とにかく、教室にはいつまでもいられませんから、エーリック殿下とセドリック様と馬車寄せ迄ご一緒します。因みにカテリーナ様には厳しい王太后様の門限がありますから、すでにお帰りになっています。もし、カテリーナ様がさっきのセドリック様をご覧になったら、また揶揄うことでしょうね。




 すっかり遅くなって、薄暗くなった馬車寄せにはダリナス王国の馬車と、我が家の馬車、一番手前にコレール王室の馬車がいるだけです。まだ、ヤツは帰っていないのでしょうか? 早くしないとまた会ってしまいますわね。


 我が家の馬車から、マリが直ぐに出てきました。私の顔を見るとホッとした表情になり、傍にいるエーリック殿下とセドリック様に気付いて腰を落として頭を下げます。


「それでは、エーリック殿下、セドリック様。今日はお付き合い頂き、ありがとうございました。それでは、また明日。ごきげんよう」


 お二人に促されて、馬車に乗り込みます。




 もう、今日は本当に、つ・か・れ・ま・し・た!










 ガラガラと馬車は進む。

 シュゼットを見送った後、エーリック殿下と共に馬車に揺られている。

 目の前の殿下は、ずっと考え事をしているようだが、時折唇の端が微妙に上がる? 気のせいではないはず。


「殿下? 鑑定士団とのお話で何か良いことがありましたか?」


 一応、探りを入れてみる。

 気が付いた殿下が、片眉を上げてこちらを見た。


「ああ。良く判ったね? 聞きたい?」


 もったいぶった言い方に多少はイラっとしないでもないが、こういう顔の時の殿下は結構()を見せてくれるのだ。


「お前に教えないということは、()()()じゃないからな」


「そうです。フェアじゃない? ということは、シュゼットに関わることですか?」


 頷くエーリック殿下は、思い出すように目を(つむ)ったが、




『少し、話がしたいのだが、時間はあるだろうか? ありませんわ』


 そう言った。





「はっ? 何ですか、ソレ?」


「フェリックス殿の意を決した問いかけに、シュゼットが間髪入れずに答えた」




 なんと。仮にも自国の第一王子で、婚約者? になりそうな相手に対して? 


「そう答えた後、直ぐに場を辞したから。フェリックス殿がどのようになったかは見ていない。まあ、私には見られたくない姿だろうから、シュゼットと一緒に出て来てしまったけどね」


 それはそうだ。要は、自分の婚約者候補に断られたということだから。でも、そんなことをして彼女は大丈夫か?

 心配顔が殿下にも判ったのだろう。


「大丈夫だと思うけどね。だって、今日は鑑定式で、彼女はグリーンフィールド公爵家初の魔法術士で、尚且つ貴重な100年振りの光の識別者だからな。色々あり過ぎでしょ? それに、レイシル様の暴走で魔法科学省に入省させられそうになったしね」


 それは・・・大変だった。


 えっ? レイシル様とは、あのフェリックス殿下そっくりの鑑定士団長?そう言えば、あの方は魔法科学省の議員だった。陛下の異母弟として王宮神殿の神官長も兼任されている方だ。


「そう言えば、シュゼットが言っていたけど、レイシル様から以前会ったことがあるって言われたと」


「・・・それ、不味くありませんか? 殿下にもちょっかい出す方ですよ? ややこしくなる気配がしますが」


 そうなのだ。あのレイシル様は、貴重な識別を持つエーリック殿下が大のお気に入りのようで、事あるごとにちょっかいを出すのだ。術式の研究の手伝いとか、論文の検証とか、その他諸々口実を作って呼び出すし、来る。尤も、エーリック殿下も魔法術の研究の為に、コレールに留学に来たようなものだから断ることは無いが。




 それに、シュゼットも加わるという事か・・・




 ・・・何で・・・


 ・・・・・・なんで・・・


 ・・・・・・・・・ナンで・・・



「ちょっ!? セドリック! お前、まさか泣いているのか?!」



 どうして、私には魔力が無いんだ。

 じわりと目の前が滲んで見えた。


 ほんの少しでも魔力があれば、彼女と同じものが見えたかもしれないのに。

 どこにいても、彼女を近くで守れたかもしれないのに・・・



「泣いてなどいません! 前髪が目に入っただけです!! ああ、うっとおしい!」


 エーリック殿下は、じっと私の顔を見ていたが、ふっと溜息を漏らしていつもの笑顔になった。


「セドリック。お前、やっぱり前髪を切れ。切って、()()()()()()()()だぞ?」



「言われなくても、切るつもりです!!」


 そうだ。彼女の姿も、顔も表情も、はっきり見えたほうが良いに決まっている!


ブックマーク、誤字脱字報告、感想、イラスト

いつも応援ありがとうございます。

評価ボタンのポチも、頑張るパワーになりますので

ぜひ、押して下さると嬉しいです。


魔力の無い自分が悲しいセドリック君です。


ところで、別話の「妖精姫である私の婚約者は超ハイスペック・・・」

(※タイトル長すぎ)が完結しました。宜しければそちらも

お楽しみいただければと思います。

初投稿作品が完結って、感慨深いです。


楽しんで頂けたら嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うーん。10歳のときに、その場で謝っていたならいざ知らず。正直、やってしまった側は例え悪気があろうがなかろうが、謝罪を受け入れるか否か決める決定権は被害者にあるからなぁ……どんまい? 隣国の王子にして…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ