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41. 天使たちは囁く

随分長くなってしまいました。

女子会は辛辣です。

 三人だけのお茶会です。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


 会話の取っ掛かりをどうしましょう? あっ! そうでした。これがありました。


「ドロシア様、お招きありがとうございます。それで、これお土産という程では無いのですけど、お菓子をお持ちしましたの。宜しければどうぞ?」


 そう言って、マリの方に眼を向けました。マリから籠を受け取ると、ドロシア様に手渡します。そのままテーブルに置けるタイプの籠ですから、手間をお掛けしなくても済みます。


「まあ!! とっても可愛らしいですわ! マカロンですわね?」


 お土産のマカロンは、女の子に食べやすい小さなサイズにしてあります。そして、色とりどりのパステルカラーが籠の中に綺麗に並んでいます。見ているだけでも幸せになりますわ。


「イザベラ様もどうぞ?」


 まるで、童話に出てくるお菓子のようですわ。女の子なら皆、手を伸ばしそうです。この誘惑に抗えるのは相当の手練れでなければ無理でしょう。案の定、


「それでは、このピンクを」


 イザベラ様は、キラキラした瞳で小さなトングでピンクのマカロンを摘むと、コロンとお皿の上に置き、すかさず口に放り込みました。


「あらっ。苺クリームですわ! 甘酸っぱくてとっても美味しいですわ」


 口元に手を当てて、蕩ける様な笑顔です。そうでしょう? このマカロンの魅力は無敵なのですわ。


「あら、この黄色のほうは、カスタードクリームですのね」


 ドロシア様もうっとりしたように召し上がっています。

 そうでしょう? ウチの調理長はスイーツ作りには自信があるのです。





 さて、そろそろお茶会の真の目的を伺いましょうか?





「コホンッ。今日、シュゼット様をお招きしたのは、三人だけでお話をしたかったからですわ」


 ドロシア様が、イザベラ様と頷き合って話し始めました。


「シュゼット様も、5人いるフェリックス殿下の婚約者候補でしょう?」


 お二人の目が私を見ています。まあ、今更言い逃れはできません。


「ええ。そうですわ。良くご存じですのね? でも、ドロシア様とイザベラ様も婚約者候補だと伺っておりますわ。そうでございましょう?」


 平静を装って答えつつ、お二人の事も確認します。まさか違うとは言いませんわね?


「・・・ええ。ご存じでしたのね? 私もイザベラ様も婚約者候補ですわ」


 そうですね。それで、私にどんなお話があるのでしょうか。


「シュゼット様は、5年ほどコレールを離れていましたでしょう? 最近の状況はご存じないかと思いまして。まずは情報交換をすることが一つ。それから、もう一つありますけど、それは後ほどに」


「情報交換?」


 確かに。100%信じることは難しいですけどね。






 私の居ない5年間に、何があったのかを教えて下さいます。

 まず、5年前の王宮でのお茶会の後、ヤツの側近にオーランド様とロイ様が着いたということ。

 まあ、オーランド様はヤツの従兄弟ですから、いずれにしても国王となるヤツの右腕として役割を担うようになるのでしょう。そして、ロイ様ですが、カリノ家は代々財務大臣として国の政に関わっていますから、国への忠誠心とか? 王室との関係とかは深いですよね。

 でも、あの双子のご兄弟もすでに国政に色々関わっているのではなかったかしら? 今の陛下の子供はヤツと姉のチェリアーナ姫ですから、婚姻関係を結べるのはヤツとローナ様しかいないのでしょう。(因みにチェリアーナ様は、軍部への絶大な力を持った美丈夫の辺境伯と婚約中です)


 ローナ様が、婚約者候補に執着しているのは政略結婚を望んでいる以上のものを感じますけど。

 

 ドロシア様のコントルー公爵家は、法務大臣を歴任している名門です。イザベラ様のハント侯爵家も陸軍大臣のお父上がいらっしゃいます。つまり、カテリーナ様を除いたコレール王国の4大臣の娘が婚約者候補になっているのです。私が、外務大臣の娘であることをお忘れでは在りませんわよね?


 つまり、誰をとっても、国の名門上位貴族が王室の後ろ盾になるということですわね。ふむ。


「シュゼット様は、婚約者()()をどう思いまして?」


 ドロシア様が、ティーカップを静かに置きました。


「どう、とは?」


「そのままの意味です。()()という立場、そして5()()()()意味。ですわ」


 ドロシア様の言いたいことは、多分側室制度の事。そして、5人の中に隣国の姫(カテリーナ様)がいる意味についてでしょう。


 イザベラ様が、それぞれの後ろに立つ侍女たちに片手を挙げて合図をしました。席を外すように指示したようです。ドロシア様の侍女に誘われてマリも席を外さなければなりません。私はマリに頷いて席を外させました。侍女達を退けて三人だけで話すこととは・・・




「シュゼット様、カテリーナ様が婚約者候補にいらっしゃるということは、カテリーナ様で決まりだと思いませんか? まして、王太后様預かりで離宮にお住まいになっているのですから。幾らまだ婚約者候補が公になっていないとはいえ、()()()として一番相応しいのは一目瞭然です」


 ドロシア様の言葉に、イザベラ様も深く頷いています。この二人、余り仲良くないのではなかったですか?何だか、同志の様な協調を感じますけど。


「婚約者がカテリーナ様だとして、他の4人は側室候補ということになりますわ」


 そうでしょうね。私もそう思います。


「私達、婚約者候補になどに()()()()()()のですわ」


「・・・お二人とも?」


 あら。何だか思ってたのと違う方向ですわ。この二人は側室になりたいのでは無かったの?


「ドロシア様もイザベラ様も、お二人とも()()()()()というのに疑問を持たれていたと?」


 二人は深く頷くと、イザベラ様が溜息と共におっしゃいました。


「当て馬の婚約者候補なんてまっぴらですわ。それにカテリーナ様がいらっしゃるのに、敢えてその座を揺るがすような真似はできませんわ。だって、国交に影響しますでしょう?」


 やっぱり。考えることは皆同じですわね。


「シュゼット様は? ご存じでしたの?」


 そう聞かれたら、正直にお答えしましょう。同じことを考えていたと頷きます。


「でも、お二人はずっとフェリックス殿下とご一緒でしょう? その、ご好意を持っていらっしゃるのではなくて?」


 私にはどうでも良い事ですけど。お二人はそうは見えませんでしたから。


「確かにフェリックス殿下の事は好きよ。婚約者になれたら嬉しかっただろうし、王妃教育だって喜んで受けたわ」


 イザベラ様はそう言いましたが、ドロシア様は少し違うようです。


「私は、好き嫌いよりも家の為ですわ。コントルー公爵家的には、お父様の跡を継ぐ直系の男子が居ないのです。ですから長らく法務大臣をしていた我がコントルー家も、直系から傍系に一旦職位を譲ることになりそうですの。ですから、直系の血を継ぐ私が王室に深く繋がることが必要なんです。コントルー家にも色々ありますのよ?」


 ドロシア様は、他人事のようにお家の事情を口にされました。そこに、ヤツへの気持ちは感じられませんでしたけど・・・


「まあ、フェリックス殿下の事も嫌いではありませんわよ? ルックス的には好みですし、性格も悪い訳ではありませんから」


 ということは、お二人ともヤツの事は嫌いではなく、寧ろ好意は持っていて、側室になるのもやぶさかでは無い。と?


「お二人とも、フェリックス殿下の婚約者候補は嫌だけど、側室になるのは構わないということですか?」


 念のためはっきり聞いておきましょう。


「「ええ。そうですわ」」


 ハモりました。

 そして、貴方は? と振られました。


「私は、婚約者にも、側室にもなりたくはありません。まさか婚約者候補になるなんて、考えられませんでしたもの。当然、フェリックス殿下に何も感じる事はありません」


 さすがに嫌いだとか、苦手だとか、仕返しをしたいと考えているなんて言いませんけど。


「「・・・」」


 一拍置いて、お二人がやっぱり。と呟きました。


「そうね。シュゼット様が編入してきてから、全くフェリックス殿下を見ていませんでしたもの。不自然な程にね。最初は、満を持しての登場かと思いましたけど。何か違うと思いましたの。それに、ローナ様とも初日以降変な空気ですしね?」



「情報交換の一つ目、私達二人がどう思っているか。お判りいただけまして? そして、もう一つですけど・・・」


 ここまで、聞いたら驚きませんわ。


「もう一つ?」


「はい。もう一つは」


 そう言ってドロシア様は席を立つと、温かいお茶をサーブして下さいました。私達のティーカップは薫り高いお茶が注がれ、一瞬だけ緊張した空気を和ませました。


 そう、一瞬だけですが。





「これ以上、カリノ侯爵家と王家を近づけたくないのですわ」


 おお! 国内勢力図! クラスメートの勢力図どころでは在りませんでした。


 つまり、ローナ様が側室になれば、カリノ侯爵家のロイ様が表ではヤツに仕え、後宮ではローナ様の力が大きくなるということですか。確かに、次期財務大臣にはロイ様のご兄弟がなるでしょうけど、ロイ様が次期国王の側近になれば、国内の勢力図は変わりそうです。


「財務大臣の家系に、必要以上の力は危険ですわ。コントルー公爵家とハント侯爵家は、カリノ侯爵家とのパワーバランスを保つためにもローナ様を側室にするわけにはいかないのです。お判りいただけました?」


 言い終わるとドロシア様がお茶で喉を潤しました。お二人は随分重い使命? を背負っていらっしゃいましたのね。





 私の居ない5年間に、色々考えることがあったのでしょう。


 私が、ヤツに仕返ししたいとか、笑った令嬢達を見返したい・・・そう考えていた時に・・・





「お二人が言いたい事は判りました。でも、ローナ様が側室になるのは、フェリックス殿下のお気持ちによるところが大きいのではないですか? 何よりもローナ様が、随分フェリックス殿下をお慕いしているようでしすし」


 イザベラ様が眉根を寄せて言い捨てました。


「あの方はダメよ! だって、性格が悪いですもの!」


「そうなのですか?」


「お気付きにならなかった? あの方、ロイ様とばかりご一緒にいるでしょう? 必然的にフェリックス殿下の傍ということになりますけど。あれは、内気だからとかでは無いの。他の女生徒から何と言うか・・・」


「ドロシア様? はっきりおっしゃれば良いのよ!」


 イザベラ様が眉間に皺を寄せたまま言いました。


「・・・まあ、嫌われているということですわ。彼女、決して大人しいワケでも、内気なワケでもありませんから。察するに、編入した初日に何かあったのではありませんか?」


 おう!見られていましたか? 気付かれていましたか?


「そう見えましたか?」


 平静を保って聞き返すと、ドロシア様がクスっと小さく笑ったように見えました。


「だって、静養室から帰って来たローナ様の顔は、苦虫を噛み潰したような顔をしていました。それに、次の日からお隣同士なのに、シュゼット様の方を見もしなければ、話し掛けもしませんでしたもの。あからさま過ぎて、可笑しかったですわ」


「あの方、結構執念深くいらっしゃるのよ。私なんてここ3年ぐらい一言も話していないわ」


 イザベラ様がマカロンをポイっと口に放り込みました。


「まあ、貴方への態度が初日からずっと変だったこともありますし、ここは早めに貴方にお話した方が良いかと思いました。とにかく、私とイザベラ様は、同じ理由でローナ様をフェリックス殿下に近づけないようにしています。彼女が無遠慮に近づくことによって、他の女生徒の感情も逆なでし兼ねませんから。せっかく殿下も反省して良い感じになりましたのに」


 ドロシア様もイザベラ様も徹底していますね。


「反省して良い感じになってきた?」


「ええ。シュゼット様、5年前のお茶会の時の事ですわ。()()()のご令嬢は、シュゼット様でしょう?」


「!?」


 この二人は、5年前の事を知っているのですね!?


「あの時の事、フェリックス殿下はとても反省していますわ。出来れば許して差し上げて欲しいですけど」


 この二人はあの時の事を知っています! ということは、仕返しターゲットなのでしょうか!?

 でも、どうもこの二人からはそんな雰囲気は感じられませんケド。



「まあ、あの時の殿下は、はっきり言っておバカなガキ! 本当に()()()1()0()()()()()()だったのですわ」


「ですから、あの後、()()()おきましたわ」


「シメタ?」


「ええ。剣術の模擬戦でコテンパンに」


 さすが、イザベラ様。陸軍大臣のご令嬢は武闘派だったのですね。


 「ローナ様に、あの後フェリックス殿下が陛下に大層叱られた事と、ご令嬢から非難されたのが、私のせいだと言われました」


 ああ。とお二人が揃って天を仰ぎました。


「やっぱり。彼女をフェリックス殿下に近づけるべきではありませんわ。とにかく、シュゼット様が側室にもフェリックス殿下にもご興味が無いのは判りました。私達の思惑も目的もすべてお話ししましたから、後は良くお考え下さいませ。ただ、これだけは言っておきます」



「私達は、カリノ侯爵家に対して、共闘しておいた方が得策だと思います」


 そうですね。ローナ様の思惑を潰すことは結果的にそうなるでしょう。







「よろしくお願いしますわ」


 私は、ドロシア様とイザベラ様に向かって、天使150%で微笑みました。



婚約者候補者たちにも

それぞれの時が流れています。


次話は、男子達も再登場です。


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― 新着の感想 ―
おお。 思いのほか側室の素養をお持ちの御二方だったね。 でも分かる。ローナは1人だけ、あれは絶対だめだわーって言わしめるよね。 なんかね、妾にはなれるけど、あれが正妃や側室になったら国が傾くなって感…
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