26. 石像は呟く?
本日はこれで終わりです。
オイシイ思いをしたセドリック君でしたが、
いまだ石像化が解けません。純情そうですしね。
多分、いろんな思いが逡巡してフリーズしていますね。
この場で正常運転なのは、フェリックス君でしょうかね?
フェリックスがジッとセドリックを見ている。
「彼は、どうしたんだ?」
さっき、エーリックに無理矢理ハンカチで拭かれたせいで、前髪がいつもより乱れて酷いことになっている。
挨拶を済ませたエーリックとフェリックスは、二人でサイドテーブルを囲んでいる。王子二人の傍には、ロイとローナ、そしてまだ石像化から回復できていないセドリックがいた。
チェリアーナとカテリーナは、小さなカナッペを摘んでお喋りを始めていて、こちらの会話には興味を持っていないようだった。
「ああ、気にしないで。雨に濡れて拭いただけだから」
エーリックが、にこやかにフェリックスに答える。
黒髪で人形のように整った顔立ちの少年と、銀髪にグリーントルマリンの瞳が華やかな美しい少年のツーショットは、近寄り難い異質な雰囲気を出していた。
誰もが近寄りたいが、誰も近寄ることが出来ない、硬質な煌めく結界でも張られているようだった。
「今日は盛況だな。さすが、人気の演目だ。エーリック殿も初めて観に?」
「ええ。カテリーナがどうしても観たいと言っていまして。コレールの古典文学に興味があったらしく、随分熱心に観ていましたよ。よく勉強しているようでした」
シュゼットの為もあるが、カテリーナについて好感度アップのアピールをしておく。このぐらいは従兄弟としてやっておかないと。
「「・・・・」」
しかし、改めて二人で会話といっても続かない。いつもなら良い意味でも悪い意味でもムードメーカーになるはずのセドリックが・・・まだ人として機能していない。
「ところで、エーリック殿下。先程ハート先生をお見かけしたように思ったのですけど、ご一緒ではありませんの?」
チェリアーナが、シードルを片手に振り返った。他国の王弟殿下の名前を、軽々しくは言わないように注意しているようだ。
「ああ、教授なら先程迄こちらにいらっしゃいましたよ。でも、もうお帰りになりました」
「まあ! お帰りになってしまったの? 残念ですわ!」
「観劇の途中でお帰りになるとは、どうかされたのですか?」
ロイが心配そうに口を挟んだ。このまま王子二人では会話が弾まないと感じ取ったようだ。
「さあ? 詳しくは判りませんが・・・」
エーリックはシュゼットの情報をむやみに出したくなかった。それも、フェリックスには特に。
「そういえば、今夜の先生には、パートナーがいらっしゃったようですわね? 1階のボックス席にいらしたのを見ましたわ。金髪の綺麗な女性で、パステルブルーのドレスでしたわね? お見かけしたことが無い方でしたわ。ダリナス王国の令嬢かしら? エーリック殿下はご存じでしょう?」
チェリアーナが頬に片手を当てて、思い出すように聞いてきた。その言い方は、知らないとは言わせない圧力を秘めていた。
(シュゼットの事を教えて良いものか・・・?)
「金髪に、パステルブルーのドレス? ハート先生?」
エーリックが答えあぐねていると、ロイが目を見開いて詰め寄ってきた。
「エーリック殿下! エーリック殿は、その令嬢をご存じなのですか!?」
どうしたのかと驚いてロイの顔を見た。フェリックスもチェリアーナも、ローナも普段のロイからは想像つかない勢いに驚いたようだった。
(どうする? 教えるか?)
「それは・・・シュゼットだ。シュゼット・メレリア・グリーンフィールド・・・」
石像化が緩んできたセドリックがポソッと呟いた。
(馬鹿セドリック!! 何故ここで復活する!!)
『シュゼット・メレリア・グリーンフィールド????』
フェリックスとチェリアーナ、ロイにローナの4人が同時にセドリックの方を向いて復唱した。
(あーあ・・・、シュゼットのこと、バレちゃったわ。 ねぇ、エーリック? どうするの?)
カテリーナがこそっと耳打ちをした。アーモンド形の目が好奇心にキラッキラに輝いていた。
土曜日、夜の歌劇場は一人の少女の話題で持ち切りとなった。
その名は、シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。
グリーンフィールド公爵令嬢のことだった。
シュゼットの居ない間にセドリック君の
おバカのせいで、フェリックスにもシュゼットの存在が
明らかになりました。
さて、次話は登校前日です。
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