111. 学院に復帰したら、すぐにバザーです
本日2話目です。
お間違えの無いように。
「エーリック殿下、カテリーナ様、セドリック様もお早うございます」
今日から学院に復帰します。表向きは体調不良という事でお休みをしていましたが、セドリック様はいざ知らず私の方は誰が見ても健康です。ええ、完璧です。
「お早う。シュゼット」
エーリック殿下がにこやかに答えて下さると、カテリーナ様はいつもの様に私を抱き締めて下さいます。実は、カテリーナ様は今までの様にエーリック殿下や、セドリック様とは登校されていないそうです。王太后様の離宮から、直接コレール王国の馬車で来られているのですって。着々とフェリックス殿下の婚約者として色んな事が変わってきています。
「シュゼット! 会いたかったわ~! 身体はもう大丈夫ね? 元気になって良かった」
そう言ってギュっギュッと腕の力を込めました。ああ、この力加減も久し振りですわ。
「カテリーナ様、シュゼットの顔色が悪くなってます。離してやって下さい」
若干低い位置から声がします。車椅子に乗ったセドリック様が、呆れた様にカテリーナ様にお声を掛けました。ああ、いつものやり取りですね。久し振りのセドリック様は、少し照れたように私を見ると、
「ああ、お早う。君も元気そうで何よりだ」
随分長くなった前髪は今も切られる事は無く、小さなピンでおでこ全開で留められています。額にあった傷も、今では全く分からない程に回復しています。
「ああ、良かったですわ。額の傷も全く判りませんわね」
「あら、本当ね?」
車椅子に座るセドリック様のおでこに視線を合わせて、屈みこんで凝視してしまいました。
「ツ! ち、近い! だ、大丈夫だから!」
セドリック様は真っ赤な顔で、私とカテリーナ様を追い払うように手を振ります。
教室にお供方は入れないので、車椅子を押すのをお手伝いします。セドリック様は、右足のリハビリも順調なので松葉杖で良いと言ったらしいですけど、広い学院の中を杖で移動するのは大変です。なので、ここは私がお手伝いをすると申し出たのです。
教室の扉を開けると、自分たちの席に着く前に声を掛けられました。
「シュゼット様。お早うございます。体調は宜しいのですか?」
すでに何度か王宮でお会いしているドロシア様と、イザベラ様です。お二人とは今度我が家でお茶会という名の女子会をする予定です。それも、元婚約者候補達のです。
「ええ、ドロシア様、イザベラ様お早うございます。ご心配をお掛けしました、もう大丈夫ですのよ」
他のクラスメイトにも聞こえる様に話します。個別にお話をするのも大変ですから、お二人の有名人の力をお借りします。
セドリック様にも、次々にクラスメイトから声が掛かります。やっぱり、セドリック様は人気者です。皆さん、セドリック様の良い所をご存じなのですね。
「ああ、皆にも心配をお掛けした。でも、もう大丈夫だ。これから遅れた分を取り返さなければならないからな」
ワイワイと男子生徒達に囲まれているセドリック様は、とても楽しそうです。それに、エーリック殿下もとても良い笑顔ですわ。
久し振りにおしゃべりに花を咲かせていると、フェリックス殿下とオーランド様がいらっしゃいました。二人は私達に気が付くと、直ぐに傍まで来られて笑顔を向けてくれました。
「お早う。シュゼット、セドリック殿。二人供元気そうだ。良かった。これでエーリック殿もカテリーナ殿も安心できるだろう」
フェリックス殿下のその言葉に、カテリーナ様がピクリと反応しました。それは、ほんの僅かな変化です。多分、私しか気が付かなかったかもしれませんし、もしかしたら気のせいかも知れない位、些細な反応でした。
「ええ。そう思います。何といってもカテリーナ様は、私の人生で一番最初の友人ですからね? 付き合いの長さで言ったら、エーリック殿下を超えますから。きっと凄く心配して下さっていた事でしょう」
いつになく、セドリック様がフェリックス殿下に饒舌です。まるで、カテリーナ様の事を一番の親友だとも言うように。
「ですから、これ以上は心配を掛けたく無いのです。カテリーナ様が心を痛ませる事が無い事を、私は強く望んでいますから」
セドリック様はそう言って、フェリックス殿下を見上げました。
もしかして、セドリック様は……カテリーナ様のお気持ちに、気が付いていたのでしょうか……?
フェリックス殿下が大きく頷くと、セドリック様と握手を交わしました。
エーリック殿下が、きょとんとした顔でいますけど、そうでしょうね。
知らなければ、気が付いていなければ、そうなるでしょう。
カテリーナ様は、最初少し驚いた顔でいましたが、二人の握手を見て嬉しそうに、恥じらうように、綺麗な笑顔で微笑みました。
ああ、あの時、医術院の階段を降りる時に見たカテリーナ様の笑顔です。
皆、少しずつ変わっていくのですね。
学院バザーが行われる前日、粗方の準備を終えた玄関ホールを見降ろして、白のクラスメイト達が安堵の声を漏らしました。
「これで準備万端だな」
「はぁああ、疲れた~」
ロイ様を中心に生徒会役員の尽力のお陰で、いつもの下校時間前に準備を終えることが出来ました。
お手伝いをすると申し出た割に、戦力にならなかった私とセドリック様の代わりにエーリック殿下とカテリーナ様、ドロシア様とイザベラ様もお手伝いされていたと伺いました。
全く以て、感謝しかありません。
そして、ローナ様が担当するはずだった音楽会のピアノですが、こちらは私が替わりに請け負う事にしました。満足にお手伝いが出来なかったので、これだけでも協力できればと手を上げました。
四重奏で2曲、ソロで2曲という事ですから、何とか3日前に合わせて練習を行いましたが、幸い相性が良かったのか、何とか及第点を頂く事が出来ました。ソロは、セドリック様とエーリック殿下からリクエストが来ているのでそれでいこうと思います。そして、何とカテリーナ様の歌唱の伴奏もする事になりました。
「だいじょうーぶ。以前やった曲でいきましょう。歌っている間に募金箱を廻すそうだから、頑張らないと」
ダリナス学院時代の歌の授業で、私は良くカテリーナ様の伴奏をしていました。実は、カテリーナ様は大変歌がお上手なのです。まるで本物のオペラ歌手の様に難しい曲も難なく歌いこなせるのです。今回の歌唱は、寄付を募る為の音楽会に華を添える役割があるのです。
だって、カテリーナ様が正式な婚約者と発表されれば、未来の王妃の歌唱でさすがに募金は募れません。ですから、発表前の最初で最後の歌唱の舞台なのです。
「それでは、カテリーナ様、私のリクエストを聞いて下さいますか?」
「ええ。良いわよ? 何が良いのかしら?」
楽譜を見ながらカテリーナ様と相談します。そして、あるページを指し示しました。
「カテリーナ様、私、この歌をお聴きしたいです」
それは、有名な歌劇の一曲。
「〇〇……〇ね? 良いと思うわ。私もこの曲大好きですもの」
カテリーナ様が楽譜を指差して言います。
「ええ。私もこの歌詞大好きです」
そう言って二人で微笑み合いました。多分ですが、私がカテリーナ様の伴奏をするのも、コレが最後かもしれません。ですから、心を込めて演奏したいと思います。
バザーの当日、学院には沢山の人々が訪れています。
開会の言葉を畏れ多くも陛下が下さると、その後はプログラムに沿ってホールで催しが始まりました。音楽会で、私が演奏するのは丁度お茶の時間です。椅子とテーブルが運び込まれて、お茶のサービスを受けながら演奏を聞けるのです。カテリーナ様の歌唱は、音楽会の大トリ。最後に行われるので、多分沢山のお客様がいらっしゃるでしょう。
音楽会が始まる前は、自由時間になりますから私はエーリック殿下とカテリーナ様、セドリック様と一緒にバザーの会場を回ります。
「シュゼット、君の刺繍はどの辺にあるの?」
ふいに後ろから声を掛けられました。この声って……
「レイシル様?」「レイシル殿!」
そこには、レイシル様とカイル様、少し離れてシルヴァ様が。
「いらしていたのですか……」
エーリック殿下が、抑揚の無い声で言います。何とも、嫌そうに聞こえましたけど、エーリック殿下それはさすがに不味いのではありませんか?
「来客席にいたんだけど、気が付かなかったか?」
まるで気にしないレイシル様です。
苦笑いしているカイル様です。
「あら? ハート先生? その服は?」
普段なら黒いシャツにスラックスで、黒ずくめの服装のシルヴァ様ですが今日は違います。その服はどう見ても、レイシル様とカイル様と同じローブに見えますけど……?
「シルヴァ殿は、正式に魔法科学省に異動されたのです」
カイル様がコソリと教えてくれました。確か以前、他国の王族である自分が、コレールの魔法科学省に入省は出来ないとおっしゃっていたように思いますけど?
「ダリナスの王位継承権を辞退したのだ。良い頃合いだったのでな」
ええっ!? 何だかさらっと、凄い事をおっしゃいましたよ? 良いのですか? それって、どういうことですか!? 何をどう聞いたら良いのか判りませんよ?
「叔父上も本気だってことか」
ぽそりと呟いたエーリック殿下が、レイシル様とシルヴァ様をジトンとした目で見詰めます。
「はい?」
はっきりと聞こえなかったので、もう一度聞き返しますけど、エーリック殿下はさっきまでの目つきが嘘のようなキラキラ目線で答えてくれました。
「シュゼット? お二人の分の刺繍なんて無いよね?」
エーリック殿下? あの、笑顔が怖いです。
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ようやくバザーです。
断言しましょう。レイシルは
ハンカチをゲットできませんでした(笑)
エーリックが邪魔したからです。
カテリーナに対する
セドのフェリへの気持ち。
伝わったようですな。
次話、ガーデンパーティーです。
さあ、頑張って行きましょう。
楽しんで頂けたら嬉しいです。




