2
朝、日の光で目が覚めた
カーテンなどないから、朝は早い
横には1歳下の妹リンデルが、まだ寝ている
兄たちは、すでに起きてるようだ
眼をこすりながら、
昨日両親たちが話し合っていた居間に入る
兄たちの顔が正反対の表情をしている
たぶん両親から私の話があったのだろう
上の兄5歳上8歳の マイク
上機嫌だ。何がそんなに嬉しいんだろう
妹が変態(?)に売られるんだよ
下の兄3歳上6歳の ユーガ
血の気を失っている顔色。ユーガと私は仲が良いから
きっと、心配してくれてるんだろう
でも、親の決定には逆らえないよね
テーブルの上には、今日の朝ごはんが並んでいる
並んでいるといっても、
くず野菜のスープと硬いパン
どちらも母の勤める食堂の残り物だ
父は冒険者ギルドに登録してて、土木工事の力仕事や、簡単な狩猟を行っている
冒険者といっても、父はランクが高くなく、魔獣などを倒すことは少ない
真面目な(……娘を売ろうとしても)仕事ぶりで、指名される事も多いようだ
母は近くの食堂で夜まで働いている
兄2人も冒険者の登録はしている
薬草摘みや商会の荷物の積み下ろしなどの仕事を受ける
マイクは午前中のみ仕事して、午後は教会に勉強するため通っている
父と母は文字が読むのが苦手で、計算もできない
その為、簡単な仕事しかできないから、
上の兄には無理してでも勉強をさせている
きっと同じ年齢になってもユーガは教会に通わせては貰えないと思う
冒険者なら必要ない。と父が思っているからだ
……実際は必要だと思う
買い物するにも、お釣りをごまかされない為には計算は必要だし
文字が読めれば、職業の幅が広がり生涯年収は雲泥の差が出来る
前世の両親に勉強をイヤだと訴えた時に
「良い大学に行くのが目標でない。
良い大学に行くのは将来の幅を広げる為だ
美容師や調理師、洋服を売る店員さんには大学を出てからでもなれる
でも、学校の先生になるには、大学卒業して教員免許を取る必要がある
大手の会社に入るのには、それなりの学歴が必要だ
自分の将来の幅を広げるために、今は勉強が必要なんだよ」
と、諭された
たしかに親の言う事は、正しかった。と思う
お父さん、お母さん
もっと親孝行したかったなぁ
「おはよう」
声をかけて椅子に座る
「おはよう、アリア。よく寝ていたね」
「おはよう」
私の分のスープを用意しながら挨拶を返してくれた
今の両親
きっと悪人ではない。と思う
この時代……生きるだけでも大変なんだ
変態(で、あろう)に売られなくても
ある程度の年齢になると、住み込みで働きに出るのは普通であり
働く。と、言っても給金なんかほどんど出ない
だから、しかたがないのだろう
「アリア、兄ちゃんたちにも話をしたんだけど
最近は、この辺でも人さらいが出るらしいんだよ
危険だから、外に出る時は俺たちか兄ちゃんたちと一緒に出ないとダメだぞ
水汲みもしなくて良い……
なるべく家にいるんだ」
父から命令された
売られるのは決定したんだな
「はい」
下を向いてスープを飲む振りをした
上を向けない。きっとひどい顔をしているだろうから
「じゃ、俺たちは仕事に行くから、リンデルの事は頼んだぞ
いいな、外に出るなよ!!」
念を押して
両親と兄たちは席を立った
さすがに気まずいのだろう
いつもよりも早いのに、みんなサッサと家を出ていった
一人になって考える
リンデルは起きてこない
「はぁ~、やんなっちゃうなぁ
せっかく貰ったチートなのに」
言葉として出す
やる事を考えよう
親に売られるぐらいなんだから
私から、家族を捨てても良いよね
3歳って何が出来たっけ??
あと3年って事は、小学校に入る年齢までがリミットだよね
前の時代の幼稚園時代を考える
私の通っていた幼稚園は、いわゆる勉強系
〇〇方式とか、少し前に話題になった保育園に近い幼稚園だった
えっと
チートなんか持ってなくても
跳び箱8段飛べたよね。鉄棒は背の届かない棒にスイングから登って、ぐるぐる回れた
バク転は私は出来なかったけど、弟は卒園の前に出来るようになってた
勉強は、足し算引き算は二けたまで出来たかな?
九九や百人一首も暗唱したなぁ~
平仮名はもちろん、漢字は……2年生ぐらいまでは読み書きできたはず
あれ??
意外と出来る。幼児って覚えるの早いんだよね。忘れるのも早いけど
卒園式で園長先生から
「私たちは、お子様方を何処に出しても恥ずかしくないように教育しました
あとは、お家での責任です。お母さん、頑張ってください」
と、送辞をくれた
忘れるの、早かったのも実感している
卒園の時は覚えていたはずの九九を2年生で学習するときには苦労した
あんなにすぐに覚えたのに、いざ勉強となると難しく感じてしまった
1年生をのんびり過ごしている間に、色々と零れ落ちてしまっていたみたいだ
そんな失敗の実体験もある。
よし、今はチートもあるんだ
昔の私に出来たことなら、今も出来る
絶対に逃げ切れる!!
まず、何をするか考えよう……
「アーちゃ、おはよー」
グルグルと考えていると、リンデルが起きてきた
かわいいなぁ~
前は弟しかいなかった。
妹……かわいすぎる
「おはよう、リン
スープ持ってくるから、座ってて」
火の使用は禁止されているが、冷めたスープはリンには丁度良い
よそってあげると
テーブルに置いてあったパンを浸しながら食べてる
小動物みたい
モグモグしている
この子も一緒に連れていきたいけど……
それは、無理だろう
ちゃんと逃げられたら
お金を稼いで送ろう!!
うん。きっと頑張れる
だって、私はお姉ちゃんだもん