06 噂
「いやぁ、今回のライブは最高だったな!」
そう言うとはじめはペットボトルに入った飲み物を飲み、喉を鳴らす。余程喉が渇いていたのだろう。
「マジ最高だったね」
私は今、BGAのライブコンサートを終えて控え室にたむろっていた。
「……うん。まあ良かった。美夢は?」
奏は表情があまり出ないから分かりづらいがこれは喜んでるな。
「もちろん!最高だったよ!」
「だよな!」
「きゃっ!」
はじめにガッと肩に手を回された。私はある程度、友人関係は広い方だと思うが、こんなノリはなかなか初めてである。ただ悪い気はしない。
「しかし、私たちの人気の上がり方も尋常じゃあなくなってきてますね」
「そうだよなー。私こんなチビで見た目もアレだからさ、下でくすぶってたがバンドユニットの誘いのおかげでここまで人気が出たぜ!」
このBGAは競争性や個性を伸ばすために順位を明確にしている。私たち5人はバンドユニットを組んでから右肩上がりなのだ。
「そうだな。それもこれも美夢のおかげだな」
「そんなことないよ。私みんなと比べたら全然下手だし……」
謙遜するが、はじめは褒めちぎる。
「何言ってんだよ、美夢。お前には驚かされっぱなしだぜ。確か梅雨あたりで戦力外通告を受けたかと思いきやいきなり2軍に入ってさ――」
「そうそう。聞いたときは驚いたわ」
「社長に直談判したんだろ?さすがに私はハードル高いわー」
私と1人を除く他メンバーは、私の話で盛り上がる。
「で、そこから一気に人気をもぎ取って速攻1軍入りして、このユニットのおかげかランキング上位に食い込んでるしな」
「2軍から1軍に上がるのって結構大変なのにすごいわよねぇ」
なんか恥ずかしい。今まであまり褒められ慣れてないせいか顔が熱い。赤くなってるかも。
私も飲み物に手を出し口にしていると宮子がこんなことを言い出す。
「まあ社長のお気に入りって話らしいしな」
「ぶっ!」
「危なっ!」
思わず口から飲んでいたものを吐き出す。私の前にいた奏は察知してかバッとベースを抱えながらよけた。
私は口を拭くと宮子に問いただす。
「それなんの話?」
またまたってニヤリ顔で……。
「周りの奴ら言ってたぜ。社長に啖呵切ったから気に入られたんだから贔屓されてるんだぜってさ」
いつの間にそんな噂が……、おでこに手を当て少し考える仕草をし否定する。
「そんな訳ないって。むしろ嫌われてるんじゃないかって思うくらい……」
「えっ!そうなの?」
奏以外驚く。すると――。
コンコン。ドアをノックする音だ。
「はい」
「私だ。入るぞ」
「はい。どうぞ」
ドアの向こうから噂をすれば何とやら、社長が来た。返事をするとドアが開いた。
「今日はお疲れ。いいライブだった。次も是非頑張ってくれ。以上だ」
単調な口調で淡々とそう言い放つと次の控え室へと向かった。
「ね。そんなことなかったでしょ?」
「うーん。そうだね」
私と宮子は次の控え室に向かう社長の背中をドアからこそっと見ていた。




