08 無気力な背景
いつもの帰り道をとぼとぼと歩く……最後になるであろう帰り道を無気力な表情で歩く。
通りすぎる人たちにはどう映っただろう。
……決まっている、ただの背景だ。人は自分から厄介事には関わろうとはしない。
哀れみや同情するようには見るだろうが、基本、力になろうとは考えない。
物語に出てくる主人公じゃあるまいし……。
肩から掛けている鞄からスマホを取り出した。
「――はい。もしもし」
「あっ……店長ですか?」
「あっ、佐藤さん。お疲れさまです」
電話をかけた先はバイト先のコンビニ。
正直バイトする気が、いや、何もやる気が起きない、無気力な声で……。
「すみません。しばらくお休みいただけますか?」
「……元気無さそうだね。大丈夫?」
バイト先の店長はあの社長とは大違い、暖かい声。あまりに人が良すぎて心配になるくらい。
「すみません」
「……わかったよ。来れるようになったらいつでもおいで。あっ……賞味期限ギリギリの物なら取りに来てもいいから」
この優しさも今では辛い。あの社長の言葉が耳にこびりついて離れない。
「尻を振りねだるだけの豚など必要ない」
この店長の優しさという餌に私は、貪り食べているような感覚に襲われた。
「大丈夫です。休みさえ頂ければ……では」
本当なら休む暇など無いのに……。
安いアパートとはいえ、学費も自分で払っている。スマホ代のみ親が払っている。連絡が取れないと困るからと。
基本的に事務所の生活費援助だよりでここにいるため、これから生活していくとなるとお金がいる。親の反対を押し切っているため、親にも相談できない。
秘書の話では親への連絡は少し遅れるらしい。多分、忙しいのだろう。
私達のような豚には関係ないことだ。
途方に暮れ、力無く歩いていると、頭の上から大きな音が聞こえた。
ふと上を向き見てみると大型ディスプレイがある。
「――ミュージックメン!!」
ゴールデンタイムで始まる音楽番組が流れていた。
「皆さんこんばんは!ご機嫌はいかがかな?今週もやって参りました、――ミュージックメン!」
DJぽい巧みな喋りで世界観を作っていく。
「この番組は今、乗りに乗っている男性アーティストをゲストに迎えて歌ったり、踊ったり、トークしたり何でもやっちゃって、その人の魅力、掘り出しちゃおうって番組です」
番組内は大盛り上がり。この番組は人気番組であると同時に、紹介された人は爆発的な人気が出るとのこと。
下にうつむき直し歩き出した時――。
「では、早速ゲストの登場だ!可波 弘明くんでーす」
「はいはーい。どもッス」
――目が見開いた。そっと上を見る、知った顔だ。
再び絶望という足音がひたひたと迫っていた――。