50 別れ
「ではまず、敗者への制裁です」
「ああ、わかっている」
東堂さんは最後まで冷静だ。本当に悔いがなさそうだ。
東堂さんの右胸にも毒々しい髑髏マークが出てきた。
「あれだけ騒いでいたから痛いものかと思ったが痛くはないな」
敗者のセリフとは思えない。本当にメンタル強いなぁこの人。
でも、やはり心配なので……。
「あの東堂さん――」
私の表情を見てか優しく語る。
「お前は勝ったんだ美夢。そんな顔をするな。それとも私を惨めにするつもりか」
「……そうだね。ごめん」
素直に謝る。本当ならすごく悔しいだろう。なのにこんな言葉をかけてくれるなんて本当にいい人だ。
「これであなたも不幸に堕ちますよ。永遠にね」
「言わずともわかっている」
悪魔は相変わらず意地悪だ。悔しいであろう彼女にも容赦がない。
「悔しいが後悔はない。何せ――」
ふと私を見る。
「最後にこんな楽しい勝負ができたのだからな」
「……東堂さん」
私も誇ろう。この人と出会ったことを。この運を……運命を……。
「あっあの悪魔様!」
エリスちゃんに寄り添う執事の爺が大きな声で言う。
私はふとそちらを向く。
「どうか!どうかお嬢様の呪いを解いてください!できないのでしたら私めに――」
「例外はないと言いましたでしょう?」
私が確認を取ったときのアレだ。確かに言っていた。
「そこをなんとか……」
「だ・め・で・す」
チッチッチッと指を振り答えた。
「お願いです!どうか……」
悪魔は無視を始めた。
「では、敗者の皆さんはここまで。お帰り願いましょう。不幸に苛まれ続けて是非、私に素敵なディナーの提供、お願いしますね」
敗者の人たちとはここでお別れのようだ。だから――。
「ちょっと待って!」
「ん?何ですぅ?」
「ここでお別れなら……少しいいかな」
お礼が言いたい!それだけでも。
「……まあいいでしょう」
少し悩んだが了承してくれた。意外といい悪魔なのかな?
「そんなことを思うならやめますが?」
げっ。
「いやいや、えっと……ごめんなさい」
うん。悪魔は悪いやつ!うんうん。悪いやつ。強く考えた。
私は東堂さんたちに向き直しお礼を言う。
「皆さん、こんなこと言うのはアレかなとは思うけど……ありがとう」
私は深くお辞儀をする。
「私、みんなと出会っていなかったら気づかなければならないことがいっぱいありました。大切な事をみんなから学びました。本当にありがとう」
本当ならこんな事言われても彼女たちからすれば嫌がらせにも聞こえるかもしれない。
けど、言わずにはいられなかった。
自分の弱さに、傷つくことの大切さ、強くあろうと鼓舞すること、冷静に物事を見ること、自分を信じ誇りを持つこと……本当に色んなことを学んだ。
「そうか。私からも。ありがとう」
すっと手を出し、握手を求めてきた。
「これから私たちは真っ当な人生は送れないのだろう。だから、最後に私と出会ってくれて、最高の勝負をしてくれてありがとう」
私は彼女の手を握った。強く。
「うん!忘れない。ありがとう!」
「では、そろそろ本当によろしいですね?」
東堂さんは頷いた。他の2人や爺は返事をする気力もない。
「では――」
パチンと指が鳴る。
彼女たちの姿がスーっと消えていった――。




