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人生終了ゲーム 〜リバースカード〜  作者: Teko
1章 佐藤 美夢
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07 BGAグループ

 

 ――この冷酷な社長はとても優秀な人だ。このBGAグループを立ち上げて、ニ年で日本中が知るトップアイドルグループに仕立て、莫大な利益を得た。


 そのアイドルグループこそが私が所属しているBGA。約千人以上が所属するモンスターアイドルグループ。


 これだけの人数がいるため、十二段階のグループに分けられる。


 一番上が一軍、四十八人が所属。千人の中でもずば抜けた才能、活躍、人気がある者のみ、ここに所属することが許される。


 メディアへの目立った活躍を見せるのもこの四十八人だ。


 そこから下にニ軍、三軍と順番に十軍まで続き、その十軍の下に予備軍、練習生となる。ランクが上がるほど仕事が貰える。


 だが、このランク制度はそれだけの意図ではないらしい。社長がそのランクの人達の中に、この個性を入れれば良い人材が生まれるのではないかという戦略があるらしい。


 だが、一軍との扱いは歴然で、ニ軍以下はほとんど劇場や営業先に行くぐらいで、1軍はテレビや雑誌インタビュー、イベント会場でのアイドル活動などなど、様々な活躍が目に映る。


 だからニ軍以下の人達は一軍になるため、必死に仕事をこなしながら自己アピールする。


 自分達は誰よりも輝けると……だが、練習生はその自己アピールの場すら与えられ無い。ひたすらレッスンの日々だった。


 いつかその場をくれるって信じてたのに……私は色んなアイドル事務所に応募したが、ここ以外、採用してくれなかった。


 初めて社長に会ったのはその面接の時。表情は相変わらず冷静なものであったが、しっかりと私を見てくれていた。


 だが、今はその瞳が恐らく、私の目に映る。その瞳から寒気を感じる。


 どこか見放したような冷ややかな視線だ。


 それに萎縮しながらも恐る恐る、言い訳の言葉を口にする。


「た……確かに、今のは見苦しかったかもしれません……ですが、それでも――」


「黙れ。聞こえなかったのか?要らないと言ったのだ」


 社長は彼女の言葉を遮り、一掃する。


 座っている椅子の背もたれに体重をかけるようについて、期待ハズレとばかりに理由を語り始めた。


「……俺は基本的に誰でも採用する。太っていようが、ブサイクであろうがな――」


 確かに事務所には明らかにアイドルに向いてなさそうな人達もちらほらと見かけていた。


 でも、その人達は下の方とはいえ、練習生ではなかった。


「――こんな業界だ、どんな人材がいても困らん。だからお前達も簡単に採用した……」


 すると、見下すような視線で尋ねてきた。


「……お前達、アイドルとは何だと思う?」


 社長の話を聞く内に少しずつ冷静さを取り戻す。


 アイドルとはと尋ねられても答えは決まってる。


 色んな人に夢や希望を与えられる人……私が憧れたように、そんな気持ちを与えられる人。


「誰でもいい……答えてみろ」


 全く期待しない口ぶりで投げやりにそう話すと、彼女が手を上げた……喧嘩をしてしまった彼女だ。


「……アイドルとは見る人たちに希望を与える存在ですっ!」


 彼女は汚名返上するかのように、自分の意思を表現するように声を張って答えた。


「それがお前の答えか?」


 予想通りの返答だなと言わんばかりの呆れた物言いで彼女に尋ねた。


 だが、彼女は動じないように気を張りながら、姿勢を正してはっきりと返事を返す。


「――はい」


「他の者達はどうだ?こいつと違う答えはあるか?」


 みんな首を横に振ったり、いえと答えたりした。


 みんな答えを出したと確認を終えると、社長のやり方、価値観が語られる。


「違うな。それは視聴者側から見た答えだ。いいだろう……これも社会勉強だ、教えてやる……道具だ」


「――っ!?」


 この社長の言動に寒気が走った。


「俺達、経営者側から見れば、使えるか使えないか……それに尽きる。道具を見て、合うのを探すのと同じだ。お前達だって使えない道具より、使える物を選ぶだろう?」


 淡々と話してみせる。さも道具と扱われることが当然のように。


 正直、正気を疑った。


「物という道具は人によって相性がある。だが、人という道具は自分からアピールできる。この業界なら尚更だ――」


 首をくいっと動かし、私たちに示す。


「――だが、お前達はどうだ?最初の面接、レッスン以外で俺にアピールしたか?」


「いや……だからそのチャンスが来ないから――」


「チャンスは貰うものなのか?驕るな」


 調子に乗るなと冷酷に吐き捨てる。


「チャンスは手に入れるものだ。貰うものではない。お前達がそんな考えだから、必要ないと切り捨てるのだ」


「……だって、教えてもらわなかったし――」


「お前達の上で活躍している奴ら教えなくても直訴しに来たぞ……活躍している全員だ」


 思わず呆然とした。他のみんなはそんな事してたなんてと口々に言い訳を垂れる。


「だ……誰もそんな事……」


「そんなルールがあるなら教えてくれたって……」


 そんな言葉を、力無く垂れ流す私達に質問してきた。


「なぁ、俺はどうして恋愛を禁止してないと思う?」


 本来、アイドルなら彼氏とかができると人気が低迷してしまう。禁止していてもおかしくはないがと、当時は疑問も持った。


「わ、分かりません……」


 他の()達もわからないと返答すると、社長は自分のやり方を口にする。


「アイドルだって人だ、俺は個性を重んじる。でなければこの業界で生きていけん……だが、そもそもアイドルになりたい奴は恋愛はしない。そんな余裕はないはずなのだから……」


 その言葉を聞いてやっと気付いた。今、やっと気付いてしまった。


 この人のやり方は自分がやりたいこと、望んだことを前向きに進める人を優先する為に、こんなやり方を取っているのだと。


「この際だ……はっきり言ってやろう、豚共」


「ぶ、豚って……」


 女の子に対して、言う言葉じゃないと反論しようとするも、みんな萎縮してしまって言葉も出ない。


「豚だろう?レッスンという餌を、生活費の援助という餌を食い続けてきたのは誰だ?お前達だろう?さらに舞台に立つという餌まで欲しがる……浅ましい家畜も同然だ――」


 ぐうの音も出なかった。私達の周りは静寂で縛られているよう。


「――アイドルは希望を与える存在……だったか。だったら、もっと死に物狂いで求めろ、醜かろうが何であろうが……お前達のミジンコのようなプライドを守る余裕など、ここには無い」


 ギシッと重く椅子に座るその音は、まるで自分にのしかかるようだ。


「ここは望むものを求め、食らいつき、手に入れた者だけが輝ける場所、チャンスがある場所だ。お前達のような、下品に尻を振って強請るような、下劣な豚は必要ない……俺はこのやり方でここまで登ってきたぞ。BGAを聞かない日はないだろう?俺の道で群がり、強請るなっ!醜い豚共が……」


 ここに呼ばれた全員、もう立っているのも限界だった。この威圧感と説得力に否応にも自分が浅ましい存在か思い知らされる。


「……以上だが、文句があるなら聞こう、もっと説教されたいならしてやろう……お前達の為にわざわざ、時間を作ってやったんだ、どうだ?」


 私たちを最後に試しているのか聞いてきたが、正直そんな気力が無い。全員、無言だ。沈黙すら惨めに感じる。


 無いようだと確認をし終えると、パチパチと手を叩いて拍手をする。


「時間は有限だ。自分達の立場を弁える……なかなか難しいことだ、アイドルを目指す者ならな。だが、お前達は違うと無言で肯定した。自分はそんな器じゃないとしっかり判断できる。素晴らしいことだ――」


(もうやめて……)


「――豚は言い過ぎたか……ふむ、犬くらいが妥当か。今までご苦労だったな。いい社会勉強になったろう?この経験を糧に是非、自分に見合う将来を送ってくれ……以上だ」


 秘書に向かってさっと手で、後は任せたと合図を送ると、ポケットからスマホを取り出して去っていく。


 秘書は私たちの親への説明や援助の件などを説明すると気の毒そうな表情で出て行った。


 社長と秘書が居なくなり、静寂に耐えかねて、堪らず叫び出す。


「――あぁああああああーーっ!!!!」


 ……泣き叫ぶ者、(うずく)り泣き崩れる者、怒り狂う者……そして私は……虚な目で立ち尽くす者だった――。

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