35 運に命を賭ける
駅の待合室での出来事が鮮明に脳裏によぎる。
可波くん……運で命が作られる……か。
この言葉が頭から離れない。
確かに「私」という存在は色んな出会いからできてる。
お母さんとお父さんの元に生まれ、テレビを見てアイドルに憧れた。それでアイドルの話をして友達もできた。その友達に後押しされアイドルのなり方を模索する中、この後輩に出会った。
色んな過程の中で歌うことの喜び、踊ることの楽しさ、見てもらうことの嬉しさ、応援してもらうことの頼もしさ、色んなことを知った。
もちろん辛いこともあった。
努力が報われない辛さ、甘さからくる現実の厳しさ、自分の無力さを知る苦しさ。
まだ、色々あると思う。自分でも知らない自分を作ったもの。
これからも自分を自分で作り、自分を色んな人たちに作ってもらい、自分が色んな人たちを作る人になりたい。
小さな私がアイドルを見て、自分を作り始めたように、私も誰かを作る人になりたい!
そのためにも、こんなところで負けられない!私は見たい。未来の自分がどんなに輝く姿になるのか。
……そういえば彼はこんなことも言ってたな。
「――運に命を賭けるってカッコいいッスよね」
……全く。ギャンブラーのセリフだよ、それ。
でも、うん。カッコいいよね。
大きく手を広げ、大きく深呼吸をする。
スゥーーッハァーー。
みんな、ギョって顔をして私を見た。
目を閉じ、胸に手を当て、心臓の鼓動を感じる。
落ち着け。大丈夫。……覚悟はできた――。
キッと目を開き、コインをパチンと鳴らす。
「随分と顔色がよろしくなりましたわね」
苦難の表情を浮かべるエリスちゃんが皮肉交じりに語る。
「悩んだって何も変わらないなら……覚悟を決めただけだよ」
その言葉を聞いた2人は……。
「……そうですわね。悩むだけ無駄ですわね」
「そうだね。私たちには選択肢がないもんね」
その2人の手は小刻みに震えていた。コインを置く音もしないくらい静かに指を添えた。
無理もない。2セット連続で当てるか3枚取りをするかだ。どちらも厳しい。
私も彼の言葉がなければ、絶望した表情を浮かべコインを置いたろう。だけど――。
「皆さん、置きましたねぇ。ではいきますよぉ――」
今は信じられる未来がある。見えているわけではない。だけど信じたい未来があるなら手を伸ばさないと届かない!掴むんだ!未来を――。
「オープン!」
2人はナンバーを示す中、私は……。
スッ。
コインを手に取り、宣言した。ドローを――。




