05 夢と思い出話
――もう少しでバイトが終わるからと、彼を待たせることにする。
彼の話をちゃんと聞いておきたい。今後の為にも。
彼と話終えて数分後、バイトを終えて、店のレジの奥の部屋から出た。
外でコンビニの大きな窓に背を預けるように待っていた司馬を見つける。
「お待たせ、ちょっと歩こっか。帰りどっち?」
「駅に行くつもりなんスが、先輩は?」
私は駅近くには住んでいないが、話を聞きたい私は――。
「じゃあそこまでついてくよ」
――と答えた。
彼はわかったッスと答えると、私に歩幅を合わせるように駅へと向かった――。
夜でも明るい東京の町の中を歩きながら、私は真剣な表情で尋ねる。
「で?どうやってデビューにこぎ着けたの?」
余裕のない真剣な眼差しに、はははっと軽く笑った。
「こぎ着けたって、ちょっとオーバーッスよ」
そんな余裕のある彼に見られないように逸らしてむくれる。
彼は何か思い出したのか、アレって閃くと悪戯混じりの顔をして尋ねてきた。
「……つーか先輩?先輩も確かあのBGAに入ったスよね?メールで報告してたッスよね?」
「うっ……!」
痛いところを突かれた。思わず顔が俯き、引きつる。
その反応を見たこの後輩は察してしまった。
「……はーん、先輩、もしかしなくてもまだデビューしてないんスねっ!」
「ああっ、もうやめなさいっ!ええっ、そうですよー。まだ劇場にすらお呼ばれされてませんよーだ」
頰を膨らませむくんだ顔して、子供みたいに拗ねて見せた。
そこを弄らないでと怒りながら私は本題に戻す。
「貴方はどうやってデビューにまで行ったの?」
真剣に詰め寄る私に対して、どうどうとあやされる。
「ゴーチューブで動画上げまくってお声かけいただいたッス」
――ゴーチューブとは無料動画アプリのことです。
「ゴーチューブで?」
「そうッス。自分で作詞、作曲したやつを弾き語りして、投稿しまくってッスね」
確かにその方法なら声もかかりそうだけど……自分で作詞、作曲したのを出すのは、勇気いるなぁ。
「……へぇ」
「なんスか?その生返事」
思わず感心してしまった。あのチャラい彼がこんなに一生懸命やってたなんてと。
「いやぁ、俺もやる時はやるんスよ……まぁ先輩達のおかげッスけど……」
「えっ、何で?」
「ほら、先輩達って、ぶっちゃけ俺達より下手だったじゃないッスか」
「はっきり言うねぇ」
先輩に対して気遣いもせずに、気兼ねなく言い合える関係とは悪い気はしないが、はっきりとそう言われると思うこともある。
「でも、先輩達、俺達より練習してたじゃないスか。それ見てたら……いやぁ、何か青春してんなって思ったんスよ。俺もあそこまで頑張ったら何か見えんのかなって……」
雲ひとつない夜空を見上げて哀愁混じりに語った。
「そしたら先輩達が卒業したあとの一年……いや、半年ッスね、受験勉強とかあったし。全力で頑張ったら、超楽しかったス」
その達成感を熱く語る。
彼は彼で青春を謳歌したのだろうと受け止められた。
「ひたむきに何かに頑張ることの楽しさってのを、特に先輩から教わったッスっ!!」
私の評価に対して、過剰な気がした私。
「私が頑張ってるのって、そんなに楽しそうな感じだったっけ?」
「俺にはそう見えたッスよ」
顔から火が出そうだ、何だか熱を帯びたように熱い。照れ隠しに俯きがちに頬をかく。
彼は両手をばっと広げて、今の気持ちを語る。
「俺は先輩と出会えた運に感謝してるッス。これからもこの楽しさと運でガンガン行くッスよっ!!」
「……そっか、いいんじゃない。私も負けずに頑張らなくっちゃね」
「おっ、目指せっ!練習生卒業ッスね!」
「――うるさい!」
彼の前向き気持ちを聞いて、不安な気持ちは何処か消えていった。
どこか初心に戻ったような気持ちだ。清々しい気持ちになったのか、今日の夜はいつもより足取りが軽かった――。