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人生終了ゲーム 〜リバースカード〜  作者: Teko
1章 佐藤 美夢
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04 以外な出会い

 

 ――私のバイト先は街の中心部にあるコンビニ。


 朝や昼はサラリーマンや学生がこぞって来るらしいが、私がよくシフトに入れている夜の時間帯は割と暇である。


「おはようございます」


 そう挨拶をすると早速、慣れた様子で品出しから始める。


 コンビニは基本、商品を切らしてはいけないため、棚に商品をいっぱいにしておく。物や店にもよるが、あまり商品が少ないコンビニって見たことないでしょ?


 今日のシフトメンバーは私と、いつもいる生真面目な丸メガネの店長、あと最近入ってきた野球少年っぽい男の子だ。私のひとつ下だったと思う。


「あっ、佐藤さん、お疲れっす」


 チャラい挨拶だ。あくまで野球少年っぽいだけで、決してそういう訳ではないらしい。


 中学の頃の後輩の面影を感じる挨拶にちょっとここは先輩風を吹かせて、注意を促す。


「挨拶はちゃんとね。働いてるんだから、その辺はしっかりしなくちゃ」


「はーい」


 適当に返事をする彼。


 どうも私は後輩に舐められる傾向にあるようだ。確かに身長も小さく、童顔だし、よく歳よりも下に見られることが多い。


 そんなことを考えながら、ある程度品出しを終える。


 ガランとした明るい店内にコンビニのラジオが楽しげに響く。


 そんなラジオを横聞きしながら、再び先輩風を吹かせる。悔しいから。


「もう少し真面目に返事出来ないの?」


「はいはい」


 全く真面目に聞き入れようとしない彼にため息混じりに――。


「全く……」


 ――と小さく呟いた。


 暇なので話を膨らませる為に彼に似た知り合いの話をする。


「貴方を見てると地元の後輩を思い出すよ」


「あれ?佐藤さんってこっちの人じゃないんっすか?」


 不思議そうに小首を傾げられた。自分の記憶では言った気もするがと尋ねる。


「そうだよ。言ってなかったっけ?」


「初耳っすよ!へぇー……そうなんだ。で?実際、どうなんすか?こっちと田舎は、やっぱり違うんすか?」


 先程から真面目に取り入らない態度だった彼が興味を示す。


 それに対して呆れたように――。


「当たり前でしょ」


 ――と即答した。


「そもそも私の地元じゃあ、こんな時間に人はこんなにいないもの」


「マジっすか!何々、じゃあもう真っ暗なわけ?」


 田舎に対する偏見的な意見を述べる彼。


「馬鹿にしてるよね!それっ!!」


 地方にもよるだろうけど、それは偏見だと怒った。


 その様子を見て、そんなに怒らないでよと私から後退りながら手を振る。


 ――コンビニの入り口が開き、軽快な音が鳴る。さっきの和気藹々としたお喋りとは一転、二人揃って、客を迎える。


「――いらっしゃいませ」


 入ってきたのはギターケースを持った深く帽子を被った男の子。


 その見覚えのある背丈にギターケースに帽子、何となく違和感を覚えた。


 その彼は俯きながらパンやおにぎりコーナーを物色。その後は飲料コーナーへ。サッと商品を選び終えるとレジへ直行してきた。


 私はいらっしゃいませと挨拶し、商品をレジへ通していると、聞き覚えのある声で呼びかけられる。


「……あれ?もしかして先輩?」


 そっと俯いていた目線を上げてみると、懐かしい顔を見た。


「――ああーーーーっ!!」


 思わず大声を出す。


 横で商品を入れていた、彼は私の声にビックリ。


「急にどうしたんすか、佐藤さん」


「あ、いや、知り合いだったから、驚いちゃって……」


「お久っス、先輩。いやぁ奇遇ッスねぇ」


 軽い口どりで喋る彼は地元の中学の後輩、可波 弘明の姿があった。


 ――私は中学生の頃、軽音部に所属していた。アイドルになるんだったら合唱部より軽音部かなと、軽い考えから。


 その時にこの後輩には色々と思い知らさられた。


 この後輩はギターも歌も結構上手くて、挙句、見た目もカッコいいものだから、この子が入ってきてから文化祭の際、トリを取られていた。


 ……チャラくなければもう少し印象も良かっただろうけど。


「本当に久しぶりだね。一年ぶりかな?」


 そんな彼の再会に懐かしみながら、客が来ないことをいいことに、レジ前で商品を打ちながら話す。


「いやぁまさかこんなところで会うなんて、運命、感じるッスね」


「そこも相変わらずだね――」


 私はちょっとガクッと肩を落す。今の運命って言葉は口説き文句ではなく、彼の口癖のようなものだ。


「――まだ、運がどうのって言ってるの?」


 呆れた様子の私を置き去りに、目を輝かせながら自信満々に返答する。


「あったり前じゃないッスか。人間、そんな簡単に変わらないッスよ」


 変わらない様子にほっと安堵すると、ここにいる理由を尋ねる。


「で?何でこんなところにいるの?」


 何を勘違いしたのか驚いた顔をしてこう答えた。


「飯買いに来たんッスよ」


「――いや、そっちじゃなくて、何で上京してきたのって聞いてるのっ!」


 台を叩いて顔をずいっと寄せて、聞いたら、ああっ……そっちかと閃いた顔をして、パチンっと綺麗に指を鳴らして答える。


「あっ……そっちッスか!ミュージシャンになりに来たんッスよ!」


「は?」


 突拍子もない事を聞いた様子できょとんとした表情を見せる。


 確かに彼はギターも歌も上手いけど、そんな上手い話がと、内心たかを括った。


 何せ自分は一年経っても実績がないのだ。そうそうそんな話がないと、冗談でしょとばかりに話を弾ませる。


「ミュージシャンって……軽音部に入った理由がモテたいって言ってた貴方が?」


「ダメッスか?」


「いや、ダメって事はないけど……」


 コロっとした無邪気な言い方から嘘ではないようだ。思わず言い澱む。


「あのね。私が言うのもなんだけどもう少し計画性を持ってね――」


「いやぁ、その辺は色々考えたッスよ。ちゃんとデビューが決まってから来たんス」


「えっ……?」


 私は口をぽかんと半開きに唖然とした。


「どしたんッスか?先輩?」


 呆然としている私に不思議そうに尋ねる。


 私は平静を保つようにするが、動揺は隠しきれないようで……。


「え……えぇと、う、うん、凄いじゃない」


 しどろもどろな言い回しで、心にもない事を口にする。


 でもこの時の私はまだ知らなかった。彼とのこの出会いが私の人生を変えることを――。

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