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人生終了ゲーム 〜リバースカード〜  作者: Teko
1章 佐藤 美夢
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03 レッスン場での日常

 

「――よろしくお願いします」


 私を含めた沢山の練習生たちが揃った声でコーチトレーナーに挨拶をする。


 学校終わりに大体週三ペースでのレッスンに私は通っている。


 練習生なのか、結構無理のないレッスンスケジュール。


 トレーナーはパンパンとこの部屋に響くような拍手を鳴らす。


「はい、では各自ストレッチは済ませましたね?――では発声練習から」


「――はい!」


 いつも通りの決められたレッスンを淡々と行う。


 基礎は大事だとは良く言うが一年も続ければ飽きもするもので、こんな人達も出てくる。


「――そこっ!真面目に取り組む!」


 指を指して指導する声が響いた。指摘された、見た目は上々のすらっとした体型が特徴の女の子が生意気そうに反抗する。


「だってさぁ、おんなじレッスンどんだけやらせるわけ?」


「そうそう」


「いい加減、ステージとか出たいよねぇ……」


 その彼女に同意するように、隣同士の友人だろうか、不満げに乗っかり、トレーナーに文句を垂れる。


 不真面目にレッスンを行うのは、同調性の問題上、強く指摘するところだろうが、トレーナーは、ふうと小さくため息をつくと――。


「……他のレッスンを受けている者の邪魔になるから外に出ていなさい」


 ――落ち着いた様子で、そう言うだけ。


 彼女達を育てる責任感がない様子に最初は驚いたが、今では見慣れた光景。


「……はーい」


 そんな態度なんだと最初は見下した視線をしていた彼女達も、今ではそれを受け入れて、サッと出て行く。


 これがこのレッスン場での日常。


 真面目に取り組むものには指導を行い、不真面目なものに対しては自主性を強調するのか、呆れたのか、軽くあしらう。


 他の事務所ではどうなのかは知らないが、どうやらここでは、このやり方らしい。


 ――レッスンが進む中、今日は緊張する事態が起きた。


 ピシッとした黒いスーツ姿の凛々しい強面社長がレッスン場を覗きに来たのだ。


 自然と空気がピリつき、身が引き締まる。


 本来ならここで社長に会釈や挨拶などするところだが、以前、来たときに――。


「挨拶はいい。続けろ」


 ――と威圧するような眼光で言われたことがある。


 この社長さん、大人の男性って感じのスタイリッシュな雰囲気から、とてもカッコイイのだが、目力が凄いある人なんだよなぁと思う。


 正直、怖い雰囲気だし、私は苦手なタイプだ。


 だけどこの人がBGAグループを作り、アイドル業界を席巻しているとも言われている人だ。


 いわゆるやり手社長だ。この社長自体、強面俳優とか行けそうだけど……一人の企業家としての能力の方が高かったのだろう。


 見た目の印象だけでは人とはわからないものだ。


 その社長は少しの間、私たちのレッスンを相変わらずな鋭い眼孔で見ると、足早に出ていった。


 社長は来てもいつもこんな感じで素っ気ない。


 ――レッスンが終わり、アルバイトへ向かおうとすると、同期の子が私の肩を叩く。


「お疲れ」


「お疲れ様……」


 私はぺこっと軽く頭を下げて返事をする。


 同期なんだしそんなに気を使うなよと言う、ポニテールが印象的な彼女はニカッと笑うと、今日のレッスン風景について語る。


「……今日はあの社長、来たな」


「うん。緊張したねー」


「やっぱ、なんていうか威圧感があるんだよな」


 やっぱり、みんな思うことは一緒なんだなぁと、しみじみと感じていると、彼女は不満げにこう言い放つ。


「あの社長、いつになったら私達をデビューさせるんだろうな」


「うん。そうだね。こんなに頑張ってるのに……」


 私も思わず不満を漏らす。彼女は――。


「だよなっ!……あっ、いっけない、そろそろ行かなくちゃ。――じゃね!」


 と言うとこの場を後にした。


 コミュニケーションが苦手な私は安堵するようにため息をつく。


「バイト……行くかな」


 いつも通りのセリフをポツリと呟くと私はレッスン場を出ていく。


 いつものコンビニ、アルバイト先へと足を進める。

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