06 勝者と敗者
望みが叶う。どんな努力をしても手に入れられなかったものが手に入る。それを聞いたら、人は正常でいられるだろうか……。
「なるほど。状況は見えてきましたの。つまり……」
と人差し指を立て語り始める。
「私たちはまんまとあなたの呼び出しに応じてしまった。多分……あなたの性格を考えるに、私たちにゲームで競わせて面白がり、盛り上げるために望みを叶えるという褒美を用意したってところかしら」
「概ね合ってますよ」
ふふんとエリスはドヤ顔。悪魔はついでにと補足を加える。
「正確には望みを叶えるではなく、叶え続けることができる力を貸し与えるが正しいです」
「叶え続ける?」
皆、不思議に思った。首を傾げる。
「あなた達の一生、望みを叶え続けることができる。文字通りね」
「えっ!じゃあ何?生きてる間、継続ってこと?叶える力が?」
「1つだけじゃなくて?」
私たちの疑問にニヤリと笑い……。
「ええ。それはもう何個でも叶えて下さい。生きてる間、一生です」
――衝撃が走る。
何個でも……普通こうゆうのって1つだけとかじゃない?だったら――。
悪魔は私たちの考えがお見通しなのか、茶化し笑いながら語った。
「ええ!あなた達が頭の中にある欲望、ぜーーんぶ叶えられます。1部を除きますが……」
「出来ないこともあるの?」
「死者の蘇生とか時間跳躍とか人間に出来ないことですね」
なるほど。でも、そんなことしようとは思わない。
今は夢が叶う!それだけでも十分。
石を持たず、ここに来たほのかと奈々はいいなと羨んでいたが……この人がまた一掃する。
「では、敗者はどうなる?」
「!!」
すっかり忘れていた。大それた報酬に、そこが抜けていた。勝者がでるならもちろん、敗者も出る。
表情が曇ってくる……。
「……もしかして、負けたら魂を食べられるとか……こ、殺すとか?」
思わず息を飲む。
「いいえ、そんなことは致しません。だって私、人間だーいすきですから」
その言葉にほっとする。
「永遠に不幸に堕ちていただくだけです」
「!!」
ほっとしたのは一瞬、一気に血の気が引いた。
「……不幸って?」
「はい!そもそも私はあなた達、人間の負の念を食べるんですよ。ですから、不幸に陥っていただいて負の念を出し続けてほしいんですよねぇ」
悪魔は楽しそうに話す。その態度とその罰に怒りを覚えたエリスは……。
「――冗談じゃありませんわ!一生、不幸に堕ちろですって。ふざけるんじゃありませんわ」
「ふざけてるのは、テメーだろ?」
「!!」
さっきからのひょうきんな喋り方から一転、冷たい声で語る。
「望みを叶え続ける力をやるって言ってるんだ。それぐらいのデメリット、当然だろ?」
「…………」
私たちがそれを理解したのを確認したのか……またひょうきんな喋り方に戻ると私たちの勘違いを指摘する。
「それとあなた達、何か勘違いしてませんか?不幸に堕とすのは永遠であって一生ではありません」
……は?一生と永遠って一緒じゃ……。
「フ……フフフ……キャッハハハハハハ!永遠ってのはね、あなた達が死んだ後もってことだよ!!」
「!!」
「人間の魂ってのは輪廻を回って次の生を待つわけだが、あなた達のその魂自体に契約を施し……」
悪魔は今まで1番楽しそうな顔で語り、指を鳴らす。
「こんな風な生き地獄を永遠に味わい尽くしてもらうのさ!!」
……望みを叶える力を持つこの悪魔を最初はそんなに怖くはなかった。何せ望みを叶えてくれるのだから……。
だが、今はその悪魔の表情を見て思った。
やっぱり悪魔だ……。