10 新生活
3日は寝込んだか……体が鉛のように重い。
もそっと布団から出る。人間、生活態度が変わると身体に出てくる。
今までは、学校へ行き、レッスンを受け、バイトに行く。忙しく動き回るため、疲れは出るが、充実していたと言えよう。
だが、そのリズムが崩れ、自堕落に3日も動かなければ、身体は別の意味で疲れが出る。こうゆう経験、皆さんもあるのでは?
横目にスマホ見て、手に取り確認する。メールや着信が沢山きていた。主に友人や学校からである。店長の気遣いあるメールもあった。
私のことを心配してか、友人がアパートに訪ねて来たみたいだが出てはいない。
流石に3日も寝ていて、これだけ心配されればマズいなとは考えたわけで……。
「……学校……行くか」
やっとでさえ、自分は無能だって思い知らせたのに……せめて迷惑はかけない生活くらいしないとな……。ギシッと音が鳴る。
こんな安アパートに住むにもお金がいる。少しでも動かなきゃ。洗面所に向かい、顔を洗う。何故だろう、物凄く冷たい気がする。
顔を薄いピンク色のタオルで拭くと、鏡には今まで見た事がない人の顔が……。
「……酷い顔だ……はは……こんな顔する人が……アイドルだなんて」
ここへ来た当初はどんな顔してこの鏡を見てたっけ……思い出せないや……。
以前、店長から持っていってもいいと言われて、貰った菓子パンを食べる。昼食の分もあるな。カーテンを閉めたきりの暗い部屋で1人、もそもそと食べる。
パンを袋から出す音と外から聞こえる雀の鳴き声だけが聞こえる。……静かだ。
以前もこうゆう音しか聞こえなかったはずなのに嫌に静かだ。
「……はぁ……」
まだ、気が重い中、制服に着替え、メールできていた必要な教科書を学生鞄に詰め込む。あと昼食用のパンも……。
重い足取りで玄関へ向かう。
「……はぁ」
履き慣れた靴に足を入れる。不思議と靴も重いように感じた。枷でもつけたよう……。
ガチャ、キィー、バタン!ガチャ!扉を開ける音や鍵をかける音もよく聞こえる。何故だろう……今は生活音がしっかりと耳に聞こえる。
……ああ、そうか……わかった。目標がなくなったから聞こえるようになったんだ。
アイドルになるって努力して生活してた時は、そんな音、全然耳に入らないほど夢中だったんだ。そうやって生きるのが楽しかったんだ。
……でも今は?
「……はぁ」
今日はため息が多い。
これから始まる新生活……胸踊らない私の「今」の日常が始まる……。