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「その新人っていうのはさ、この国の外から一人で来たんだよ」
「家族は?」
「一緒に来てない」
「友達は?」
「まだいないんだってさ」
「それってすごく寂しいよね。私だったら耐えられないよ」
「俺だって耐えられない。だからな、もし次会うことがあったらそいつに話しかけて色々と助けてやってくれないか? きっと気に入ると思う。面白い奴なんだ」
「面白いの?」
「ああ、面白いんだよ」
「じゃあ、見かけたら話してみるね。それで名前はなんて言うの?」
「アサネだ。アサネ・ニシモトっていうんだ」
「アサネだね。分かった」
四月三日、午後二時三十分頃 どこかで行われた他愛もないやり取り。
ニックス・ハットは孤児だった。両親は彼が物心つく前に他界していた。ヘイムスで孤児となった子供たちは、何らかの施設に預けられるわけでもなく、基本的に血縁関係もない所帯にて不規則な期間(つまり、その所帯主の厚意が続く限り)預けられ、それを繰り返し、幾度も別の所帯を巡っていくことになる。ニックスもまたその多分に漏れない。
しかし、彼はその状況に対して疎ましさや嫌気からの不平を嘆いたこともなかった。それどころか、種々様々な家族の風景を彼はいつも楽しんで眺め、時には積極的に関わっていく程だった。
ニックスは家族というものが好きだった。家族が表す人間模様を愛していた。
そして、彼は目の肥えた鑑賞者ではなく絶賛される芸術家になりたいのだ。