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閑話~鬼の出立~

  東馬と別れてから暫く、当然のように龍厳と春の祝言の話が出た。


「しばし、お暇をいただきたく…」


 龍厳は軽く頭を垂れて言った。


「…理由を聞いても?」


  誰の目にも仲睦まじく見えた龍厳と春。

  栄蔵は思いもよらぬ返事に訝しさを覚えた。


「私儀に御座れば。…返せば、東馬様に師事したのもその為。誠に勝手な事を申し上げているのは重々承知、されど、こればかりは己が手で成さねば…」


  怒り、殺意、覚悟…そういったものが籠った強い眼差しだった。


「何やら物騒な事でも企てておるようだの」


  栄蔵は笑ったが、眼光は鋭く光っていた。


「じきに息子となる者をみすみす死なせはさせん。春には黙っておく。儂も付き合おう。」


「息子と呼んでくださいますか」


  龍厳は微笑んだ。心からの笑みだった。そして、一瞬の。


「なればこそ。過去との決別をしてまいりとう御座いまする。ただ、己一人、身一つで成さねばなりませぬ。………何卒」


  強い眼差し、強い口調。深く頭を下げたその姿には有無を言わせぬ強さがあった。


「まったく…その様子では止めたところで聞き分けはせぬのだろう?」


  少しの沈黙の後に栄蔵が折れた。

  龍厳程の男がこうも言うのだ。これ以上は野暮と言うものだろう。

  その男が師と仰ぐ神代東馬の実力も知っている。世に出れば必ずや無双の名を欲しいままにするに違いない、およそ常人からかけ離れた武芸者。

  二階堂龍厳は、その達人の弟子なのだ。


「必ずや戻られよ」

「必ずや…」



 __________________________________


  その二日後、旅支度を整えた龍厳は、春にただ一言、「行って来る」とだけ言い残し出立した。


  春も何も聞かず、「後武運を」と返したのみだった。




  暫く鳴りを潜めていた強い眼差し、大きな体躯に手には金棒を担ぎ、その姿はまるで鬼の様であった。


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