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脱出

 作戦、と言う程の作戦は無かった。

 ただ、静かに江狩の地に踏み入り、弥一の村に向かい村人達を連れ出す。そして動けない者達に諸部の者が手を貸しながら静かに脱出する。

 目立たぬように静かに少人数での行動となるが、それでも15人、弥一の村の皆を合わせれば82人にもなる。

 まずは最初の夜の内に村付近まで進み、一旦そこで次の夜を待つ。

 昼の内に辺りの賊のねぐら、八渡の見張りをくまなく捜索し、脱出経路の確保、そして村人達に脱出の説得と準備を促す。

 そして夜に脱出。

 東馬は経路上障害となる賊の討伐と脱出の際の護衛となる。

 人数こそ少ないが、漁師の多い諸部の村人の中から力自慢、喧嘩自慢、体力自慢の者達の選りすぐり。精悍な顔つきの者の多い、見た目だけなら中々の一隊である。


「この辺り、もうちょいと進むと狭い沢に出ます。沢の上流側に高い山が一つあればそのままの方角へ。そっちが北です。」

「ここいらは星明かりも見えねぇ程木々が茂っちゃいるが、何とか遠くが見える所を探してくだせぇ。うまいこと街明かりが見えたら、それを背にして歩けば北に向かうはずです。」

 所々で弥一が皆に説明した。

 弥一も村の北の山を越えることは八渡から禁じられていた為、詳しい道や方角の見方等はつい先日までは知らなかったが、諸部へと向かう道中、参考にした目印などはしっかりと記憶していた。


「すまないな、弥一。一晩かけ続けたにも関わらず休む間もなく…」

「謝らないでくだせぇ、神代様。俺の村のモンを救う為に着いてきて下さるんだ。疲れなんざとっくにどっか行っちまいましたよ。…俺にとっちゃアンタぁ神様仏様だ。この程度の距離、なんてこたぁねぇよ。」

 弥一は振り返る事なく進みながら言葉を返すのだった。


 夜が開け始めた頃、無事に村付近まで辿り着いた一行は脱出経路の確認をしていた。

 経路はほとんどが山。行きは良いが、帰りは動けぬ者もいる大所帯となる。仮に暗がりの中ではぐれてしまった場合の対処は必要不可欠であった。


「賊のアジトと思しき場所の目安は幾つかありやす。連中、八渡の兵にバレねぇように所々を転々としているのか、攻めてくる時はいつも違う方角から来るんでさぁ。時には全く別々の方角から来る時もありやす。賊も一つだけじゃねぇのかもしれねぇ。」

「そうか…ならばとりあえず村の北側に絞って捜索しよう。太陽が真上を過ぎた頃合いに一旦ここに集まり対策を練る。…いいか?絶対に見つかるなよ。賊にしろ八渡の兵にしろ、いなければいないで構わん。まずは慎重に事を進めるのが第一だからな。」

 東馬の言葉に、皆静かに頷く。


「では、先刻の組分けで散るぞ。」

 ここに至るまでの道中、東馬が耳の良い者や目の良い者を分散して配置した組を作り、三人一組の計五組が出来ていた。


 昼過ぎ、全員無事に集合、それぞれの成果を持ち寄った。

「分かった。…脱出経路に近いアジトは二ヶ所。内一ヶ所はもぬけの殻、もう一方に少人数の賊か…弥一、お前はこの後村に戻って皆に説明と説得を。五兵衛と勢太も着いて行け。助けがいるかもしれん。後の者は交代で見張りをたて日没まで待機。私は賊を片付ける。」


 疲労があるだろうが、弱音を吐く者は一人としていなかった。

 それを確認すると、東馬は静かに賊のアジトへと向かった。


 _______________________________________


「守備は?」

 血塗れの東馬が戻って来た頃には夕刻近くなっていた。


「此処は何も。静かなもんでしたぜ。それより旦那、その血…」

「問題無い。私のではない。弥一、賊が13人以上いた事は?」

「いつもはおよそ20人前後でした。13ってことはねぇはずです。」

「そうか…欲を言えば一掃したかったが…二手に別れて村を襲う手筈だったのかもしれん。村の皆はどうだった?」

「はい、全員説得出来ました。ほとんどの者が賛同し、動けない者や諦めちまった連中も何とか説得しました。五兵衛さんや勢太さんのお陰です。」弥一が二人を見つめる。

「貸しにしとくよ。その内返してくれよ。」五兵衛と勢太がニヤリと笑う。

「よし、では暗くなるまで待機。六蔵、お前の目であの山が暗くて見えなくなった頃に行動を開始する。私は残りの賊を探しにいく。私が戻らなくても始めろ。弥一、後は任せる。」

「へい。」

 言い終わると、東馬は静かにその場を去った。


 ________________________________________________



「弥一さん、見えなくなった。」と、六蔵。

「よし、俺と五兵衛さんで村に行って此処まで先導する。後の皆は村の者の誘導を頼む。」

 皆の顔は暗がりでよく見えないが、力強く頷くのは皆が感じていた。


 ______________________________________________


「お前ら、それは…」

「なに、用心に越したこたぁねぇからな。」

 村の男達は手に手に鎌や鉈、斧等を携えていた。

「良いか?こっちの方角だ。山に入った辺りに仲間が待ってる。その人がたの誘導に従うんだ。…ほら、末吉んとこのばあちゃん歩けるか?」

「舐めるんじゃないよ。アンタと末吉二人同時にあやした事だってあるんだからね。まだまだ歩けらぁね!」

「五兵衛さんだっけか?よく来てくれた。あんたの村まで頼んます。」

「母ちゃん、歩けなくなったらオイラがおぶってやるからな。」

「すまねぇ、弥一。俺みてぇなろくに動けねぇ奴まで…いざとなったら置いてってくれて構わねぇからな…」


「さぁみんな、歩け歩け!死ぬ気で歩けよ!歩いた先には人の暮らしが待ってるぞぉ!」


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「これで合わせて24人。残りは何人だ?」

「はっ!待て、それで全部、それで全部だ!もう俺の手下は残っちゃいねえ!悪さも辞める!頼む!この通りだ!」

「お前らの他にもこの辺りを縄張りにしている連中がいるのでは?」

「いや、いた事はいたが、今は俺達だけだ!連中急にいなくなってどこ行ったかまでは知らねぇが、もうあの村に迷惑かける奴はいねぇ!だから頼む見逃してくれ!この通りだ!アンタの言う事なら何でもきくから、だから…」

「ならば死ね。」

「いや、それは…」

 言い終わる前に、東馬の刀は頭目の喉を斬り裂いた。

「契約違反で死罪だ。良かったな、時間に余裕があれば苦しめながらじわじわ殺すところだ。」

 東馬は踵を返すと北へ走った。



 ____________________________



「なんだぁ、てめぇら?こんな所でぞろぞろと何してやがる?」

 賊が弥一達の前に突然現れた。

「なんでこんな所に…!」

 山に入ってだいぶ歩いたはず。

 村を襲うにもアジトにするにも遠すぎる場所である。


「ははっ!あのクズ共が村を襲うって話を聞いてきてみりゃ、まさか村の連中に出くわすとはなぁ~!奴等が油断してる所を後から襲ってやろうと山の奥まで来てみりょよぉ~!」と、いう理由らしい。


「くそが!どうする弥一さん?」先導する弥一に、隣にいた六蔵が小声で話し掛ける。

「どうもこうもねぇ。俺達にゃもう後がねぇんだ!やるしかねぇ!」

「だ、そうだ!連中は前にしかいねぇ!皆、かかれぇ!」

『オーーーー!』

 諸部の者だけではない、弥一の村の男達も武器を手に駆け出した。


「え!うお!なんだコイツら!おい、野郎共!所詮腹空かせた雑魚共だ身の程わからせてやれ!」

『うおおおおおおおおお!』

 刀や槍を携え、胴丸まで身に着けた者すらいる賊の数は暗くてわからない。が、雄叫びの大きさから少なくとも30〜40はいるだろう。対して村人側は81人、その内闘える者は20前後。とはいえ、さすがに数年に渡って自衛を続けた村の民である。後には退けぬ境遇もあり、女子供、老人病人怪我人に至るまで闘う気概で満ち満ちていた。


「三人一組だ!近くの者と共に一人を狙え!」弥一が叫ぶ。

 元より狭く暗い山道での戦、狙いが定まり難い上に足元も覚束ない。

 賊が一人に刃を振り下ろそうとも、その刃を受け止められれば最期、他の村人が賊に投石、得物での攻撃で畳み掛ける。

 そんな闘い方となっていった。

 が、しかし、日常的に奪う事に慣れ、武器や防具まで身に着けた賊達に次第に押されていった。

 更に、村人の集団の中に松明が投げ込まれ、そこに向かって木の上から矢を射掛ける者が現れた。


『散れ!皆散れー!』誰かが叫ぶ

 幸いと言うべきか、生い茂る木々のお陰で致命傷になる矢傷を負う者はいなかったが、完全に統率を乱され完全に押されてしまった。


「今だ!奴等を捕らえろ!殺しても構わん、一匹も逃すな!」頭目と思しき男の怒鳴る声が響く。


 そして続く断末魔の叫び。

「ぐぁ〜!!」「ぎゃぁぁぉ!」「ごぉぉぉぉ!!!」

「がっはははは!さすがに虫は虫らしく無様な声を出しやがる!がっははは!」


『同感だ。』耳元で聴こえる声。

 直後、背中に激痛。

「ガハッ!な、何だ…?な、何なんだ……」

 急速に遠退く意識の中、頭目が最後に見たのは、…暗くて何も見えなかった。


「う、うわぁぁぉぁ…」…ドサ…ゴス!…ぼとっ…「うぐっ!」…ドサ…

 次々と賊が屠られて行く。

 先程投げられた微かな松明の明かり以外、明かりらしい明かりの無い闇夜の中、精確に賊を見つけ出し、確実にその数を減らし続ける一つの影がかろうじて六蔵には見えた。

「か、神代様!?」

「ちくしょう、やべぇ奴がいる!ずらかる…」

「な、何だ?何が…」

「おい、誰だこのやろ…」

 どれも言い切らない内に果てた。


『音だ!僅かな明かりと声で位置を探ってやがる!』

 それに気付いた時には既に遅かった。

 最後の一人もどこから飛んできたかも分からない投石によって頭を砕かれ絶命した。


 _____________________________


「よく耐えた。見事だったな。」

 少し開けた崖の下、互いに止血のみの応急手当をする村人達に東馬は声をかけていた。

「良い所に来てくださった。一時はどうなるかと…」弥一が胸を撫で下ろした。

「実はお前達の姿がまったく見当たらなくて私も少々焦っていたよ。だが、怒号が聴こえ、明かりが見えお前達を見つけられた。よく持ち堪えたな。」


 負傷者こそあったものの、幸い致命傷を負う者はなく、また歩けぬ程の重傷も無かった。

「だが、歩みが遅くなるのは避けられんな。」

 未だ江狩の地、八渡の土地である。

 一刻も早く先に進まねば危ういのは変わらない。

「手当が済み次第、先を急ぐぞ。」

 東馬の言葉に皆が頷く。

 まだ誰の心も折れていない。

 とりあえずはそれが救いだった。


 諸部村までまだ遠い。

 ただでさえ夜明けに間に合うかどうかの行程、能賀の地に間に合うかどうかすら怪しくなってしまったこの状況に、東馬は思案するのだった。

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