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序之前
その男は血塗れで立っていた。
己の血ではない。
血の主は足元に転がる、数百、数千、数万の亡骸である。
男は死の山の主だった。
またある時、男は英雄であった。
仲間を救い、国を救い、敵を殺した。
数百、数千、数万の敵を殺した。
男は死神と恐れられた。
時には人の敵であった。
誰も殺さず、傷付く者を助け、哀しむ者に寄り添った。
男は『魔王』と呼ばれた。
男は神であり、悪魔であった。
善人であり、悪人。
忌むべき味方であり、親愛なる敵であった。
人に愛され、人に憎まれた。
人に生かされ、人に殺された。
彼は人を愛し、そして殺した。