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節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目オオツチグモ科


「どう考えてもオオツチグモぉおおおおお!!」


 リアは即座に悲鳴を上げて、頭を抱える。顔面は蒼白で、脂汗が浮いていた。リアを除いた三名は、よく化物の特性だけで、クモの種類がわかるな、と感心してしまう。


「オオツチグモって?」


 リヒトが首を傾げてたずねると、リアの代わりにアイが応えてくれる。


「通常でも、足を入れてヒトの掌よりも大きなクモだな。足とか体とかが太めで、クモの中では肉肉しい方。テトラが言っていたとおり、刺激毛が全身に生えてて、警戒すると足で腹部の毛を擦って外敵に飛ばす種もいる。ヒトの目に毛が入ったら失明することもあるらしい。毒を持っているけどヒトを殺す程ではなくて、それでもネズミやカエルくらいなら殺して食べてしまう。トリグイグモって呼ばれてたっけ? あと…タランチュラ?」


 後半は自信がないのか、リアに尋ねるようにアイは言い終えた。

 リアはアイの説明に殆ど間違いが無いのを確認すると、頭を縦に振って応える。そう言えば、彼はコガネグモのことも詳しそうであった。素材になる生物等のことは知っていて、覚えているのだろうか。


 オオツチグモ科は、リアの前世でペットとしても人気がある大型のクモであった。

 アイが言ったとおり、『タランチュラ』と呼ばれることが多いが、元々『タランチュラ』とは伝説の毒グモのことを指す。

 その毒グモのモデル自体は、コモリグモ科であったらしいが、タランチュラの伝承を知る人々が、やがて恐ろしい姿の大きなクモを見るとタランチュラと呼ぶようになり、結果としてオオツチグモ科のクモの俗称として固定化された。

 『私』の一番嫌いなアシダカグモもタランチュラと呼ばれていた時代があるようだから、その気持ちは重々わかる。

 しかし、毒グモといえば、有名なコケグモ科やイトグモ科にはまだ遭遇していない。前者は血清が必要な程の毒で、後者にいたっては特効薬すら『私』の時代に存在していなかった。もし、化物化していたら一番の脅威に違いない。


「それで、退治する案…浮かぶか?」


「毛を飛ばされるのはちょっと…」


 リヒトの言葉に、アイが追随する。

 いくらアイでも痛い、痒いといった感覚は同じだし、嫌なのだろう。不快な顔をしている。

 反して、静止していたリアには既に、退治する案は浮かんでいた。

 グラベルとの会話でシーナが言っていたとおりであり、前世でも地域によっては…オオツチグモ科(件のクモ)は食べられていたのだ。

 

 オオツチグモ科のクモの体毛と毒は、高温の油であげてしまえば除去できる。


 当然、食べるわけではないが、駆除も同じ方法で対処可能だろう。

 クモの全身を油まみれにすることで、毛を飛ばせないようにし、更に火を放てば良い。

 問題は、油の確保と散布方法。加えて森の中では火は放てないため、拓けた場所が必要なこと。

 仮に場所を確保できたとしても、クモをどう誘き出すかだ。

 クモは基本生き餌を食べる。アシダカグモの習性が良い例だ。そう言えば、この方法は王都で兵士がアシダカグモの駆除で行っていた手法に似ている。

 

 リアが案を告げたところ、リヒトが提案した。


「…拓けた場所じゃなくても良いんじゃないか? 例えば…洞窟とか」


「暗くて狭い場所なら誘きやすいかもな」


 彼の提案にアイも同意したところで、リアもその案は良いのでは無いかと思い直す。

 前世の生活圏のせいか、街、道、森、広場、公園…と彼女の中で場所の認識が偏っていたなと自覚していた。

 洞窟など、それこそアイが利用していたとおり、夏でも寒いからと、氷室の代わりにしていた鍾乳洞くらいしか赴いたことはない。しかも、富士山の麓や沖縄くらいだ。片方は父の趣味、片方は修学旅行だ。

 洞窟の規模にもよるが、クモの攻撃を避けて火を放てる可能性は高い。


「洞窟の外から攻撃を加えるなら、毛の散布も抑えられるかもしれないから、油も少量で良いと思う…」


「最終的にはリアの火力で蒸発できそうだしな…洞窟まで融かしそうで怖いけど」


「え…リアの術式こわい」


 リアとリヒトの会話に、アイが当然の突っ込みを入れる。

 そう、今までの会話は三名。テトラが加わる様子はない。愉しそうに腕を組み、男女の様子を見守っていた。

 テトラとの契約だと、リヒトのエメムが復活しない限り、彼女の助力を得られるのはここまでだ。寧ろ、予想以上に彼女は手伝ってくれた。これ以上求めるのは違反だろう。


「まあ、リアの火は最終手段として。ちょっと罠とか思いついたから、オレが仕切っても良いか?」


 アイが嬉々として言ったが、これはクモ退治に対してではなく、罠等を作り上げる好奇心なのだろうなと、リアは察する。


「構わないけど、何か手伝えるか?」


 リアよりも先にリヒトが応えるが、本来ならば逸速くリアが応えるべきであった。化物退治は『リアの名に於いて』実行されなくてはならない。テトラ管轄の総合組合の仕事ではないが、これはテトラが用意した『予行練習』なのだ。


「…作戦を教えてくれますか。できれば二人には手伝って(ヽヽヽヽ)もらいたいので」



 リアの言葉にアイとリヒトは頷き、テトラは満足そうに笑っている。



 テトラは次の日には集落を発っていた。


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