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テトラ

 リアはアイと共に再び総合組合を訪れていた。

 再び、とは字のごとく、彼女らは都に着いた時点で挨拶周りの時に既に訪れている。そのためデイジーは逸早く気がつき、リアとアイの元へ笑顔を崩さず向かってきてくれた。

 その間、リアは気になっていたことをアイに確認する。


「アイさん、ウェイストに戻らなくて良いんですか?」


 てっきりリヒト用のテウルギアを回収に向かうと思っていたが、彼はリアの用心棒の如く付いてきてくれていたからだ。


「リヒトに頼まれたからな。あ、テウルギアについては親父に手紙書いたよ。手紙もシーナが届けてくれるって言ってたから、速く着くと思う」


「!?」


 いつの間にシーナと話をしたのか? リアは驚嘆の余り勢い良く首を振る形でアイに顔を向けた。

 驚いている形相もそれなりになっているらしく、アイは勿論、近くまで来ていたデイジーも停止し、そして笑い出す。解せないリアは頬を膨らませて抗議した。


「飼い主には許可をとってください」


「えー…でもシーナはリアの親代わりのつもりらしいぞ…?」


 アイの鋭い突っ込みにリアが口を閉じ、喉を詰まらせる。否定できない。シーナは家族であり、保護者も同然なのだから。逆にリアを飼い主として立たせてくれていることもあるので、本当に頭が上がらない。


「とにかく、どちらの場合でも事前に教えてください」


 リアが再び首を戻すと、ニコリと微笑むデイジーの顔が飛び込んできた。そう、リアは彼女に相談しに組合を訪れたのだ。行動目的を見誤るのはリアの悪い癖である。


「す、すみません。デイジーさん、お仕事中なのに」


「いえ、お二人にまたお会いできて嬉しいです。でもどうしたんですか? 何か依頼を探されているとか?」


 笑顔を崩さずデイジーが尋ねると、リアは意を決し、そして小さな声で答えた。


「……以前、教えてくれた能力を持つ人にお会いしたいんです」


「能力……? あ、弓の時間を停止したと思われる方ですか? 申し訳ありません、心当たりは無いのですが…」


 デイジーの笑顔が崩れ、謝罪の言葉が出る。確かに彼女とその話もしたことがあった。

 しかし、公的機関に勤め、職業柄顔も広い彼女でも『大いなる神の時計』は所在不明。とても希少な存在なのだろうか、否、時間を操作できる力ならば、国で隠匿し、保護している存在なのかもしれない。

 背後に居たアイが落胆の溜め息を吐いたところで、リアは覚醒する。そう、今回聞きたいのはその近誓者ではなかったのだ。


「あ、違います。デイジーさん、初めて会った頃に言ってましたよね? 『何か不審な動きをすれば、ある方の能力によって罰がある』と」


「あ、ああ!」


 慌ててリアが釈明すると、デイジーは思い出したのか表情を明るくする。

 しかし、瞬間で表情を曇らせた。相手に畏怖しているというよりも、事態に困惑している様子だ。


「この組合の統括ですね。少し気難しいお方で、いつもお忙しいので面会可能か……でもリアさんはこの組合にも貢献されている方ですし…な、なんとか上司に掛け合って…」


 話の流れから『気難しい』のは分かった。同時にデイジーに迷惑がかかるのでは無いかと懸念する。完全に業務支援から除外された私的事由に、彼女を二度も付き合わせる訳にはいかないとリアは思った。


「そ、そういうことなら結構です! 私的なことでデイジーさんに迷惑はかけられません」


「あ、でも名を知られて報酬等を上げて欲しいという人は、冒険者に多いのですが、少なくはないんです。形式上手続きもあります。ただ、統括は前例が少ないので…」


 デイジーが慌てて説明するが、当然リアは報酬を上げて貰いたいわけでは無い。しかも忠告されていた『能力者に能力のことを尋ねる』行為がしたいだけなのだ。手続きをしたデイジーに責任が問われるのは避けたい。

 何らかの手段で独自に会うしかないかと考えたところで、統括と王女は同一人物なのか? という疑問がリアに沸いた。


「あ、あの統括の名前とかは…」


「当組合の統括は『テトラ・イディオム』という女性の方です」


 デイジーが即座に返答してくれたが、同時にリアは失念していたある事実も思い出す。

 王女の名前をリアは知らない。そしてルートにも聞いてはいなかった。

 女性という部分は共通するが、流石にそれだけでは同一人物だとは言えない。

 「この国の王女の?」という言葉が喉まで出かかったが、リアは言うのを躊躇う。王都の人々に王女のことがどのように伝えているのか不明であったし、ここは公的な機関だ。混乱は避けたい。


「…容姿とか…ご存じですか?」


「はい。珊瑚珠色に輝く銀の長い髪、碧い瞳の美しい方ですよ」


 珊瑚珠色に輝く銀髪・碧眼の美女。虹彩異色症では無いらしいが、テオスも銀髪で元は碧眼だった筈だ。宴会で見た王と王子も濃淡の違いはあれ、銀髪碧眼だったはず……容姿の情報から王女の可能性は高い。

 念のためにと、リアはアイに近づき小さな声で、王女のことを知っているか彼に尋ねた。アイは首を振りつつ「だって基本引きこもりだし」と告げる。リアも他人のことは言えない身なので、吐きそうになる溜め息を飲み込み苦笑いした。

 知らないモノは仕方ないのだ。

 しかし、反してアイは意気揚々としている。時折、唸ることもあるが、少し楽しそうであった。突然、どうしたのだろうかと思ったリアだったが、「ここも違う」というアイの呟きに、漸く彼が何をしているのか理解する。


「アイさん、もしかして『共感』してます?」


 彼の言葉だけではなく、彼の様子を見てのことだった。

 アイの両眼が橙色に輝いていたからだ。

 正確には、通常の目を覆う様に、薄い膜の様な何かが浮いており、ソレが発光している。前世でいうカラーコンタクトレンズが、眼球から数ミリ浮いている状態で発光している…と言った方が分かりやすいかもしれない。


「うん、この建物に居るなら充分範囲内だし、認識無い人ばかりだから。丁度良いかなって。相手がもし暇そうなら乗り込んでも問題ないだろ」


 幻想的な光景が、一瞬で崩れ落ちる発言。


「発想が盗賊ですよ……」


 リアが真っ蒼な顔をして指摘したところ、背を向けていた出入口が騒がしくなった。その喧騒に『共感』の気が逸れるのかアイの唸りが強くなる。彼が「あ」と呟いたのと同時に、大きな声が背中に響いた。


「盗賊が私に何の用だ?」


 二人の正面に立っていたデイジーが驚愕の表情を見せ「統括っ!」と小さく呟いた後、直ぐにその頭を垂れる。リアとアイが慌てて振り返ると、そこにはデイジーが説明した人物像そのモノが立っていたのだ。

 「テトラ・イディオム?」とリアが呟くと、呼ばれた女性は目を光らせる。己が名乗る前に相手の名前を呼ぶなど失礼な行為であるのは当然だ。しかし、女性は直ぐに視線を戻すと、頭に手を当てながら大きな溜め息を吐く。

 そして手を元の位置であった腰に戻すと、「お前が『ライオネ』か…」と呟いた。

 リアを視認し『ライオネ』と呼ぶという現実を見て、テトラは近誓者――『神が屍に 人として活きたモノ』では無かったのかと落胆する。

 しかし、何故『ライオネ』と呼ぶのかと疑問に思ったところ、その疑問は秒で消し飛んだ。


「なるほど、『リオネ』を『ライオネ』と読んだか、あの愚弟は…相変わらずの獅子好きめ」


 リアが名乗る前に彼女の家族名を今度は言い当てる。言葉は辛辣であるが、言った本人も『獅子』が好きなのだろうと表情で分かった。しかし――愚弟? ライオネと呼ぶ――弟。


「なんだ? 私のことは聞いていなかったのか。あやつめ、こっちにはそなたのことは聞かずとも喋るというのに」


「テオス様? ――ということは、貴女はやはり…」


「そのことは知っているのか。そうだ私が城に居た時に名乗っていた名は『テトラ・イラティナ・ベテルギウス』。今は一般人だがな」


 王位継承権残ってますよ! と叫びたくなる気持ちを抑えつつ、先に彼女が言ったことを脳内で反芻する。テオスはテトラに一体何を話しているのだ。途端、リアが沈黙し、考え込んでいる様子を見てテトラは苦笑しながら二人に近づく。

 警戒していた人物のうち片割れが、弟の寵愛を受けている者だと分かり安心したようだ。まだ考え込むリアを一先ず置いておき、共感を解いていたアイに彼女は声をかけた。


「ここでの立ち話もなんだ。二人とも私の部屋へ来い、盗賊くん――否、マコト?か。変わった名だな」


 その言葉はアイを驚嘆させるの同時に、リアを現実へと連れ戻す。二人の様子に彼女は慣れているのだろう。含みを持たせた笑みを見せつつ、率先して建物の奥へと入っていった。


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