表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/103

第一号になろうかな

 意識を取り戻した男に尋問したところ、あっさり男は自白した。

 余裕の笑みと遊び心は完全に消え失せており、アイの言葉一つ一つに怯えながら応え続ける姿は、親に叱責されて反省する子どもの様であった。

 男は単独犯。隣国コロンバで多くの罪を犯し、指名手配されている。

 懸賞金もかかっており、そのため組合に手配書が貼られているらしい。

 男の罪状は詐欺、窃盗、強盗致死など。殺人――つまり、人を殺すことを主動とした罪はない。勿論、逃亡生活中に更に罪を重ね、性癖を持った可能性も否定できないが。

 リアのことはやはり王都で知ったらしい。

 男以外にもその存在を知っている者は多いが、実際に手を出そうと思ったヤツは少なく、行動を起こした者は謎の制裁を受けるとのことだ。

 制裁する人間は金髪の女、銀髪の男、異人等と一貫しない供述に、該当者が浮かんでしまったリアは頭を抱えた。抱えた原因はやはり護ってもらっていたのだ、という負い目からだ。強大な炎が使えても、やはりリアは弱い。


『――貴女は人を傷付けられますか?』


 シーナとグラベルの不安が今回は見事に的中したのだ。


 グラベルといえば、男が彼に送った手紙の内容も聞き出す必要がある。リアがそのこと訪ねたところ、逆にアイが反応した。

 アイの話では、この町は二日に一度業者が来て配達するらしい。リアの最初の手紙が女主人によって逸早く出されたのも、その事が原因であった。

 アイが男に身体検査をすると、クシャクシャになった開封済みの封筒が出てくる。リア特製の焼き印があったことからも、彼女がグラベルに出したモノで間違いなかった。

 つまり男はまだグラベルに手紙を送ってはいなかったのだ。――何年経っても相手の『嘘』を見破れないのだなと、『私』は落胆した。


「……字体は真似できても焼き印は無理だったんだろうな」


 封筒を確認したアイの呟きに、リアはグラベルに感謝するしかない。否、結果的にはグラベルへの危機も回避できた。


 諸々片付いたところで、町の腕自慢たちが男を縛り上げて回収していった。ちょうど隣国に用事があるらしく、一緒に運んでくれるらしい。男は相変わらず項垂れていたが、これは役所に連れていかれる絶望感ではなく、アイから受けた恐怖と怪我が祟っているのだろうな、とリアは思った。

 ヤツが道中で亡くなるのではと懸念したが、『生死(Dead )を問わず(or alive)』が隣国の方針とのことだ。


――――


「オレの他の能力は『世界の概念』を宿らせられる…とかかな。拳とか、持ってる武具とか」


 アイの告白にリアは動揺しないように努めた。予想もしない単語であった上に、自分と関係がある単語。


「術式とは…違うのですか?」


「オレは旧世界から生きてるから、今の人たちが使っている術式は使えないんだ。だから別物。飽くまで宿らせるだけだしね」


「宿らせる…」


「火、風を纏う程度かな…炎のパンチとか、鎌鼬っぽいの出す剣とか? ちゃんと使えれば、火なんて火床に最適なのに…」


 アイが残念そうに呟く。彼の話を聞く限りはもう少し応用できそうな気がしたが、自分のことに拘わりそうで開いた口を閉じた。

 そう言えばと、アイは疑似近誓者の他に『兵器』のコトも告げていたことをリアは思い出す。この世界が『私』が居た世界から途切れているとはいえ、同じ世界()だ。

 それなのに知らないことが多過ぎる。今までは異世界だと思っていたからこそ納得していた。

 

 ――何故、世界は滅んだのか。


 別に未練は無い。

 怨んでいた、絶望していた世界だ。

 まさか『私』が呪詛して死んだから滅んだ訳ではないだろう。

 何を恐れているのかといえば、ただ一つ。


 ――(この)世界には滅んで欲しくないのだ。


(……アイさん、知ってるのかな…)


 彼が生きてから何年後に世界が滅ぶできごとが起きたのかは分からない。彼の記憶保持の限界もあるのだ。

 以前、リヒトと話をした。

 旧世界と現世界は繋がっているのに途切れており、その原因を覚えているヒトが存在しない。世界種で特に長命のモノが現在も生きていれば判明するかもしれないが、その様な雲を掴むようなことをしてまで調べたいと思うヒトも居ない 。


 ――『もしかしたら、その第一号はリアかもな』



「第一号に……なろうかな……」


「え?」


 アイに反応され、初めてリアは口に出していたことに気がついた。

 どちらにしろ、今一番大事なことはリヒトだ。


 グラベルへの手紙(報告)を書き、明日にはこの町を発とうと決心したリアは、約束どおり謝罪とお礼参りをしつつ、町を豪遊した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ