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真実


「どう…しよう」


 リアは一言呟いた。

 『どうしよう』と言ったが、することは決まっていた。


 ――リヒトに会おう。


 どちらにしろ彼の意思を確認し、彼に選択させなくてはいけない。

 問題はその後、リアは『どうするか』だ。


「…だい…じょぶか?」


「大丈夫」


 アイの心配気な問いに対し、リアは即返答する。

 自分に言い聞かせているようにアイには見えた。


「…はは、当てが外れちゃったな…二つとも…」


 リアは大きな溜め息を吐き、そして弱音ともとれる発言をしながら目を瞑る。瞑っていないと、涙が零れ落ちてしまいそうだった。


「…二つ? テウルギア以外にも何かあったのか?」


 アイが更に不安げな声になって問いかける。視覚を塞ぎ、聴覚だけで捉えた彼の様子に、リアは自分が公平ではなかったことに気づかされた。

 彼は自分のことを曝した。次はリアの番だろう。


「アイさんは『生まれ変わり』って信じます?」


「え…」


 この問いを初めてしてから随分経った気でいたが、まだ三ヶ月も……否、この世界では四ヶ月も経ってはいない。それくらい遠い昔に感じる程、多くの体験と出来事があった。


「私、生まれ変わりなんです。前世はこの世界じゃない世界で、貴方も同じ境遇の人なのでは…と思ってたんです」


 アイの回答を待たずにリアは告げた。

 リヒトの話では、ルーアハの転生説がこの世界に存在しているとのことであったから、戯言と思いつつ受け入れる人もいるだろう。問題は『異世界』という点だけだと、リアは思い直していた。

 その『異世界』の知識も嫌悪しているクモ位でしか役立ってはいない。この世界の常識や社会を覆すような知識や専門分野を『私』は持ち合わせてはいないのだ。

 この世界の脅威ではない。

 勿論、『天界の盗火』であることは伏せる必要はある。

 だが、『私』を隠す必要は無いだろう。


「そのことを誰か知ってるのか?」


 しかし、アイの反応は意外なものであった。

 驚嘆したリアが思わず目を開くと、飛び込んできたのはさっきとは打って変わって、真剣な表情の彼の顔であった。


「あ、さっき言った…大切な人には…」


「その人が言ったのか? 『この世界じゃない世界』って」


「え?」



 リアは、アイが尋ねたことの意味が分からなかった。自分のことで、自分の経験をこの世界と照らし合わせることができるのは、自分自身しかいない。

 そこにリヒトが介入するような箇所は一つもない。


 ――――待て。



「ルーアハは自身の存在た世界だけを輪廻する。他の世界をルーアハが経由することは無い。もしあるとしたら、全部だ。全部持っていくしかない。この場合、そうだな…転移と呼べばいいのか? いや、瞬間移動?」


「転移じゃない……元の『私』はこんな容姿じゃない…それに、リア・リオネはこの世界の住民…リヒトだって…」



 ――――リヒトはあの時、『私』に何と尋ねた?



「リア、君は…この世界の過去……『旧世界』のヒトの生まれ変わりなんじゃないのか」



 『お前の前世ってどんな感じなんだ? 術式とか理解できてないだろう』

 ――――まさか、リヒトのあの問いは、『いつの時代のヒトなんだ?』――という意味――?!



「この星の名前を呼ぶ人は、今はいないけど、昔は『チキュウ』って呼ばれてたんだ、勿論、他国では違って『アース』とか」


「う…そ……そんなはずない…だって、地球にはもう少し大きい衛星があったけど、『環』は無い…」


「旧世界の時に、小惑星がチキュウに衝突しそうになった。それが『ツキ』――『ムーン』に当たった。ツキは粉々に破壊されてやがて環に。小惑星はそのあと、チキュウの引力に捕らえられて、新しい衛星になったんだ」


「そ、それが事実だとしても、『私』の世界には、旧世界には既に居たとされる異人などの世界種も、術式や法式も、エメムだって存在していない!」


「あったんだよ、君が知らなかっただけだ」


「そんなこと…」


「異人や法式――魔法は、物語とかには出てきたろ?」


「でも」


「…レギオンの発生ってわかるか?」


「れぎおん?」


「……なるほど、リアはもっと前の時代のヒトなんだな、その時は数ももっと少なかった筈だし」


 激しい問答をしていた二人だったが、逆にアイから問われてリアが詰まる。詰まった瞬間、ようやく別の疑問が沸いてきた。

 リヒトは言っていた旧世界に関することは、現世界に残っていないし、繋がっていない。それを、アイは知っているのだ。


「まって…ください…まさか…アイさんは…」


「……オレが生まれたのは旧世界の日本って国……そう、だな…三十八万年くらい前かな」



 ――ああ、知っている星座が無い筈だ。



「そんな…そんな…」


「……ここまで話したのはリアが初めてだ。公平(フェア)じゃないと思ったから」



 ――――道理でアイが『私』の世界の『単語』を自然に使う訳だ。


 突きつけられた現実に、リアは呆然とする。

 旧世界と現世界に繋がりがない――それはつまり、『私』の世界は滅んだのだ。

 『私』を傷つけたあの世界。

 『私』を拒否したあの世界。

 『私』が『私』を放棄したあの世界。

 『私』が呪ったあの世界。


 ――――私の望みどおりに――――


 唯一残っているのが『アイ』なのだ。


「ありがとうございます…アイさん」


 リアは彼の誠意と存在に、そう応えていた。

 そのリアの様子に、アイは複雑な心境で「どういたしまして」と呟く。


バレバレだったと思いますが、漸く明かせました。

本来ならこの次で最終回にしようと思っていたのですが、もう少しだけ続ける予定です。

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