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化物化

 『リア・リオネ』は実家に独りで暮らしている。

 母親はリアを産んだ時に亡くなり、父親は七年前に事故で死んでいる。

 近隣の住人やリヒトの生家『ファンゲン家』の助けも有り、彼女は七年間独りでも生活してきた。


 『私』と同じくクモが嫌いな彼女(リア)

 一緒に暮らしている人間は居ないが、ネコを一匹飼っているのは確かな記憶だ。今は外出中で家には居ないようだが、早く帰宅してくれることを願うしかない。

 何せ、前世の『私』はクモ恐怖症ゆえに独り暮らしの選択肢が無く、三十年近く実家暮らしだったのだ。


 そういえば『私』は何故死んだのだろうか。

 病死ではない。事故死でもない。

 クモが原因でも無いだろう。

 ……自殺だろうか? もし、事実なら今世では幸せになりたいものだ。

 

 だからこそのクモ対策である。


 先に遭遇したザトウムシ。リヒトは『化物化』していると言っていた。つまり、通常はあの様な形態では無いはずだ。そう思いたい。願いたい。

 兎にも角にも、辺りが暗くなる前に『虫』対策をする必要がある。

 この家は前世と違い、混凝土(コンクリート)で覆われていない上に、壁は隙間だらけなのだ。

 ヤツら()は何処からでも入り込む。そしてソレを狙うクモも……。

 『化物化』に加え、最低でもクモ網の把握はしたい。

 そのためにもまだリヒトに確認を取る必要があった。


「化物化か……」


 リアの質問に、リヒトは顔をしかめる。


「虫ってみんなあの大きさなの?」


 それは無いだろうと分かっていても、聞かずには要られない。

 『無いだろう』と思った理由は、前世の経験においての虫の大きさと数からの推測であった。

 例えばアリが全て巨大化したら、この大地の地盤は崩壊する。崩壊しなくてもそれこそ軍隊だ。国など簡単に潰れるだろう。


(……そういえば、そんなアニメーション映画があったな、あれはダンゴムシみたいだったけど)


 とリアは考える。

 その結論から、規模が小さい巨大化ならあり得るのかもしれないと更に恐怖が増した。


「いや、全ての虫が化物化するわけじゃない。さっきのクモも、森の中でよく見かける個体で、本来なら体長は卵よりも小さいんだ」


(ザトウムシなんだけどな…)と改めて思うが、先程の『世界』の話と同じく大差無いかと判断し、リアは続けて質問する。


「化物化する原因って…?」


「そもそも『化物』とは。ってトコじゃないのか? 今までの流れだと…」


 リヒトの提案にリアは納得し、思わず頷く。

 どうやら巨大化=化物化では無いらしい。

 リアはお願いしますと頭を下げ、リヒトはよろしい!と返事をした。


「世界種とされているけど、なぜか言語を発することができない生物の中で、巨大且つ生物を襲うモノを『化物』と呼んでるんだ。代表的なモノが巨大化した『虫』で、『クモ』は驚異の一つになってる」


「?」


 『セカイシュ』…別の話題でも出てきた単語だ。そう確か、最初の術式の説明の時だ。今まで頭越ししていたが、流石に今回はしなくても良いだろう。


「『セカイシュ』って何か聞いても良い?」


「ん? ああ、悪い。そっか……いや、待てよ。コレ説明するとなると『世界』も説明し直しか?」


 リヒトがブツブツと呟き始める。少し考え込んだ後、答えが出たのか「仕方ないか」と言い、リアに向き直った。


「世界種を説明する前に、まず俺たち『ヒト』の補足だ。昔、この世界…いや、旧世界に『神』と呼ばれる存在が居たらしい」


「え? あ、うん、居たんだ…」


 リアの前世では、『神』は崇め、奉られているモノであり、存在されていると思われている。

 実際に『居た』とされている存在で有名なのは、例の宗教に出てくる救世主だろうか。

 『私』が住んでいた国日本は、特に宗教行事が特殊であったため、『神』や『宗教』に対して偏見も少ないが興味も薄い。

 だが、リヒトの反応も何処か似ている気がした。


「俺たち『ヒト』はその神によってつくれた『神造種』とされている。神は他にも生物をつくっていたんだけど『ヒト』以外は言語を持たないんだ」


 リアが飼っているネコも神造種だな。と、リヒトは付け足す。


「で、神が神造種を生み出す前、世界には既に生物が居た。誰も、どれも言語を持ち、法式や術式といった力を使うことができる智慧の高い生物たちだ。彼らを…それらを俺たちヒトは『世界種』と呼んでいる。ヒトは世界種の『人』――正確には智慧の樹を参考にしてつくられたんだ」


 「お、おう…」と思わず低い声が漏れてしまう。

 壮大な世界観にリアは悶絶しそうであった。

 この様に複雑な事情を思い出せない自分が(にく)い。


「世界種はさっきも言った通り、本来は言語を話すんだが、話せなくなったのか、またはエメムの影響なのか、言葉を発することはない。意思疏通が図れないのが原因なのかもしれないが、常に攻撃的で生物を襲う。その状態のモノを『化物』、『化物化』と呼んでいるんだ」


 どんどんわからない単語が増えていく。

 だがもう無理、限界である。

 リアは定まらない頭を支え、ただ一言「わかった、ありがとう」と応えた。

 その反応にリヒトは(わかってないな…これは)と思いつつも、言葉には出さず、リアの事典に手を伸ばす。うーんと唸っている彼女の側で、今までの会話に出てきた単語を、全て事典で引き当て印付けてくれた。

 残念ながら事典に載っている時点でこれらは一般常識、覚えるべきことであり、リアに関しては思い出すべきことだ。


「リア、とりあえず今日はもう休め。疲れただろ。わからないことはいつでも聞いてくれ」


「うん…」


 そう言いながらもリアはフラフラと立ち上がり何か作業を開始する。食事の準備等では無さそうだ。


「? リア?」


「とりあえず、隙間埋めなきゃ……」


「隙間?」


「一先ず土と泥で……いつか火山灰が欲しい…」


「……温泉の次は火山か――名前に似合わないな本当…」


 リアの嘆きを聞きながら、リヒトは思わず呟いた。


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